万能の剣と、導きの祠
リフリッジに留守を任せ、はじめ、カエデ、クレア、そしてフリルの少女『キミ』の4人は、マナの魂を救出するべく、再び北ウォー沼の奥地へと足を踏み入れていた。
「そうだ。そろそろはじめも、本格的に『鍵』を使っていく事を覚えた方がいい」
ぬかるんだ道を歩みながら、クレアがふと口を開いた。
「エアリアルのようなERage軍の精鋭が再び現れる可能性は低くなったとはいえ、危険な連中に狙われるリスクが完全に無くなった訳じゃない。
この北ウォー沼への道程は、実戦形式の訓練として適当だろう?」
「ああ、俺もそう思う。あの時みたいに無力なままじゃ、もう誰も守れないからな」
はじめは力強く頷き、首から下げていた重厚な鍵を手に取った。
「魔力を流し込み、形を強くイメージするんだ。単なる熱の放出ではなく、お前の戦意を具現化させるように」
クレアの指導の元、はじめは目を閉じて深く精神を集中させた。
ドクン、と鍵が脈打つ。
次の瞬間、眩い光と共に、手の中の鍵がスッと伸び、美しい白銀の『剣』へと変形したのだ。
しかも、この剣はただ鋭いだけではない、信じられないほど至れり尽くせりの『便利グッズ』だった。
使用者の状況を自動で判断し、最適な攻撃軌道を描いてくれる。
剣を構えれば、相手との距離の隙を極限まで少なくしながら一気に間合いを詰める能力が働き、逆に距離を取れば、一定時間後に剣閃が魔法となって自動追尾攻撃を仕掛ける。
さらに敵の反撃を予測すれば、空中に簡易的な魔法シールドが展開されて自動で防御までしてくれるのだ。
極めつけは、敵の力量がはじめの現在の能力を超えそうになった時だ。
はじめの脳内に直接『警告』が鳴り響き、戦うか逃げるかの選択を瞬時に下させてくれるのである。
「はぁっ!」
この規格外の能力のおかげで、かつては死に物狂いで逃げ回った北ウォー沼の凶悪な魔物たちも、今のはじめの敵ではなかった。
はじめが軽く剣を振るうだけで、自動で間合いが詰まり、魔物を的確に斬り伏せていく。
まるで自分が歴戦の達人になったかのような鮮やかな剣さばきで、次々と襲い来る魔物たちをいとも簡単にいなすことができた。
その後ろでは、フリルの少女が両手を胸の前でギュッと組み、瞳をキラキラと潤ませていた。
はじめが魔物を倒すたびに、彼女は顔をりんごのように真っ赤に染め上げ、「かっこいい……」と尊敬しきったような表情を浮かべて彼をじっと見つめている。
一方で、カエデはその後ろを欠伸をしながらダラダラと歩いていた。
「あー、楽~。はじめちゃんが全部倒してくれるからお散歩みたい。……コレで、私の代わりに自動で歩いてくれる機能まで剣についていれば、もっと楽チンなのに」
などと、緊迫感ゼロの呆れるほど呑気な品評をしている。
そんな道中を経て、一行はついに北ウォー沼の最奥へと辿り着いた。
鬱蒼とした木々の視界が開けた先、かつて月光蓮が咲き誇っていた静寂の湿地帯の中央に、古びた石造りの建造物がひっそりと佇んでいる。
「着いたぞ……」
はじめは剣を鍵の姿に戻し、静かに息を呑んだ。
間違いなく、そこは消えかけたマナの魂が眠っているであろう『女神の祠』だった。




