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台所の攻防と、溶けるわだかまり

「私、お手伝いします!」


カエデが台所へ向かおうとするのを見て、フリルの少女がパッと顔を輝かせた。


彼女はパタパタと可愛らしい足音を立てて、慌ててカエデの後を追いかけていった。


二人が台所へ消えると、居間リビングにははじめ、クレア、そしてリフリッジの三人だけが残された。


先ほどの言い争いの熱がまだ微かに残っており、部屋にはなんとも言えない気まずい沈黙がドロリと流れていた。


しばらく俯いていたリフリッジだったが、やがてふぅと小さく息を吐き、立ち上がった。


「……やっぱり、私も手伝ってくるね」


リフリッジは、はじめとクレアを交互に見て、少しバツが悪そうに頬を掻いた。


「あの子と、ずっとわだかまりがあるのもなんか嫌だし……」


そう言い残し、リフリッジは足早に居間を出ていった。


残されたはじめは、妹の背中を見送りながら心配そうに眉を寄せた。


「……大丈夫かな。また台所で一悶着起きなきゃいいけど」


すると、向かいに座るクレアが、ふっと柔らかく笑った。


「きっと大丈夫さ。ああ見えて、リフリッジも根は素直ないい子だからね」


シーンは切り替わり、台所。


「ちょっと、カエデさん! ストップ、ストップです!」


少女の悲痛な叫び声が響いていた。


まな板の上には、朝食の時にも見た青や紫の毒々しい葉っぱや、得体の知れない木の実が山積みになっている。


カエデがまたしても、あの「味は絶品だが直視できない謎の料理」を錬成しようとしていたのだ。


少女は慌てふためきながら、カエデが鍋に謎の粉を投入しようとするのを両手で必死に止めようとしていた。


「大丈夫だって! 味はバッチリなんだから!」


カエデは全く悪びれる様子もなく、自信げに胸を張る。


「味もそうですけど、見た目も大事なんです!」


いつもはオドオドしている少女が、この時ばかりは珍しく強気になってカエデに抗議していた。


どうやら彼女には、料理のルックスに対する強いこだわりがあるらしい。


「何やってるの?」


その時、背後からスッと声がした。


リフリッジだった。


「ひっ……!」


振り向いた少女は、リフリッジの姿を認めるなり、ビクッと身体を震わせ、また怒られるのではないかと肩をすくめた。


しかし、リフリッジは少女を睨みつけることもなく、カエデの鍋の中身とまな板の上の食材を冷静に見下ろした。


「……ここは、こうした方がいいと思うよ」


リフリッジは静かにそう言うと、カエデの手から包丁を受け取り、慣れた手つきで調理を始めた。


少女は思わず拍子抜けして、パチクリと瞬きをした。


てっきり「私のお兄ちゃんの台所で何勝手なことしてるの!」と怒鳴られると思っていたからだ。


リフリッジの料理の腕は、村でも評判になるほど抜群だった。


奇妙な色の食材も、彼女の手にかかれば見事な下処理で鮮やかな色合いに変わり、手際よく、そして美しく料理が完成していく。


漂ってくる香りも、朝の強烈なものとは違い、とても上品で食欲をそそるものだった。


「おおーっ、コレならバッチリです!」

完成した大皿を見て、カエデが目を輝かせて拍手をした。


「私もリフリッジちゃんみたいに、見た目の良い料理もできるように研究しないとですねぇ」


「……別に、これくらい普通だよ」


リフリッジは少し照れくさそうに顔を背けた。


先ほどまでの殺伐とした空気はすっかり消え去り、台所には、年頃の女の子三人による和やかで温かい雰囲気が満ちていた。


「お待たせー!」


居間の扉が開き、カエデを先頭に、リフリッジと少女が湯気を立てる大皿を持ってやってきた。


テーブルに並べられたのは、彩りも鮮やかで、見ているだけでお腹が鳴りそうなほど見事な料理の数々だった。


クレアがはじめの脇腹を軽く肘で小突き、得意げな顔で囁いた。


「ほら、大丈夫だと言ったとおりだろ?」


はじめは、怒っていたリフリッジが普段通りの柔らかい表情に戻っているのを見て、心底安堵の表情を浮かべた。


「ああ。本当によかった……」


和気あいあいと食事が始まる。


はじめのホッとした顔を見て、少女も嬉しそうに胸を撫で下ろした。


(もしかして、またリフリッジさんに怒られちゃうかも……?)


少女の頭の中に、先ほど家の前で見せられた夜叉のようなリフリッジの顔がフラッシュバックし、恐る恐る彼女の様子を窺う。


しかし、リフリッジは少女の視線に気づくこともなく、「美味しいね、カエデちゃん」と微笑みながら、何事もなかったかのように淡々と食事を進めていた。

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