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嫉妬の顔芸と、震えるしっぽ

すっかり陽が昇り、明るくなった村の道を抜け、はじめとクレア、そしてフリルの少女の三人はようやく我が家へと辿り着いた。


家の前では、誰かを探すようにキョロキョロと首を振っているリフリッジの姿があった。


昨夜のパニックから無事に目覚め、姿を消したはじめたちを心配して外で待っていたらしい。


「あ……」


はじめの姿を見つけた瞬間、リフリッジの顔に花が咲いたような満面の笑みが浮かんだ。


「お兄ちゃ――」


しかし、その声は最後まで紡がれなかった。


リフリッジの視線が、はじめの背中に隠れるようにしてピッタリとくっついている、見知らぬ『フリルの少女』の姿を捉えたからだ。


(えっ!? 誰!? また新しい女の子!?)


リフリッジの顔からスッと笑顔が消え去り、どす黒い雲がかかったように表情が曇る。


(マナちゃんと一緒に急いで出て行ったと思ったら、なんでそんなことになってるの!?


それとも、アレは姿が変わったマナちゃんなの!?


いや、でもあんなしっぽ生えてなかったし……!)


リフリッジの心の中では、激しい動揺と疑心暗鬼の嵐が吹き荒れていた。


傍から見ると、驚き、怒り、悲しみ、そして嫉妬と、まるで顔芸でもしているかのように彼女の表情はコロコロと激しく変わり続けている。


「ひぃっ、見つかった……!」


少女はリフリッジのただならぬ気配を察知し、とにかく慌ててはじめの服の袖をギュッと強く掴み、完全にその背中に隠れようとした。


そんな二人の様子を後ろから眺めながら、クレアは心底楽しそうに微笑んでいた。


当のはじめ本人は、妹の表情が夜叉のように変貌していることに全く気がついておらず、「ただいま」と呑気に手を挙げようとしている。


(やれやれ、妙に鈍感なところがあるね、このぼうやは)


クレアははじめの背中を見ながら、心の中で呆れ半分、感心半分で思った。


(だからこそ、こんなに次から次へと女の子をたらしこめるのかもしれないがね)


時計の針を少しだけ戻す。


はじめの家が見えてくる少し前の道すがら、はじめの背中を歩いていた少女が、急にソワソワと落ち着きなく辺りを見回し始めた。


「だいじょうぶかな、だいじょうぶかな……?」


小さな声で呟きながら、自分の指をモジモジと絡ませている。


「急にどうしたんだ?」


はじめが振り返って尋ねると、少女は上目遣いでオドオドと答えた。


「あの……リフリッジさんって、とても嫉妬深い人なんでしょう? 私なんかがお邪魔して見つかったりしたら、ご迷惑なんじゃ……」


「えっ」


はじめは驚いて足を止めた。


「どうして、リフリッジのことや、あいつが嫉妬深いなんて知ってるんだ?」


白龍だった彼女とは今日初めて会ったばかりだ。


妹の性格など知る由もないはずである。


はじめが純粋な疑問をぶつけると、少女はハッとして口元を押さえた。


「あ、あの……それは……はじめさんに恋心を持っているなんて、知らなくて……」


しどろもどろになりながら弁解しようとする少女。


はじめは、責めるつもりなど全くなく、ただ優しく気遣うような目で見つめ返した。


しかし、その真っ直ぐな瞳と目が合ってしまった瞬間、少女は顔をポンッ!と音が出そうなほど真っ赤に染め上げた。


「ご、ごめんなさい! ひたすらごめんなさい……!」


「いや、謝ることじゃないだろ。俺はただどういう関係だったのかなって……」


結局、少女がパニックになって謝り続けるばかりで、はじめはどうして彼女がリフリッジの乙女心を把握しているのか、その真相を聞き出すことはできなかったのだ。


そして、現在。家の前。


「……お兄ちゃん、おかえりなさい」


先ほどの満面の笑みとは打って変わって、地を這うようなトーンの落ちた冷たい声。


リフリッジの目は一切笑っておらず、はじめの背後に隠れたつもりになっている少女の姿に完全に釘付けになっていた。


睨みつけられた少女は、恐怖のあまりスカートから覗く純白のしっぽをブルブルと震わせている。


その凍りつくような修羅場の空気をぶち破る、場違いなほど明るい声が響いた。


「あ、はじめちゃん達おかえりなさい! 朝起きたら姿が見えなくなってたから、心配してたんだよー」


エプロン姿のカエデが、家の扉からひょっこりと顔を出したのだ。


昨夜、睡眠を邪魔された怒りで手刀を振り下ろしていた殺気立った様子は微塵もなく、すっかり普段の穏やかな態度に戻っていた。


「あ、でもマナちゃんはどうしたの? それと……はじめちゃんの後ろに隠れてる子は?」


カエデが無邪気に首を傾げて尋ねる。


(せっかくお兄ちゃんを問い詰めようとしていたのに……!)


リフリッジは、絶好の追及のタイミングを邪魔されたと感じ、カエデに向けてチッと舌打ちしそうなほどの冷たい目を向けた。


そして、再びゆっくりとはじめに向き直る。


「……お兄ちゃん」


少しとげのある、しかし有無を言わせぬ絶対的な圧を秘めた声で、リフリッジが呼びかけた。


「どういうことになってるのか……ちゃんと、一から説明して?」


逃げ場を塞ぐような鋭い視線が、はじめの顔にグサリと突き刺さった。

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