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夜明けの指切りと天空からの光〜前編〜

バチッ!


はじめとマナは、全く同じタイミングで目を見開き、スプリングを弾くようにベッドから飛び起きた。


夢の世界での情報共有を終え、現実の肉体へと意識が鮮明に帰還したのだ。


「いっ、たぁ……んん……お兄ちゃんが……すごい女の人で……むにゃむにゃ……」


はじめのベッドの上では、リフリッジが完全にショートした頭のまま、まだうわ言を漏らしてぐっすりと眠りこけていた。


「……ちょうどいい。目を覚まされても、今は説明している時間がない」


「そうだね、はじめちゃん」


はじめの言葉に、マナはいつものわがままな子供の表情を消し去り、真剣な顔つきで深く頷いた。


二人は一切の無駄口を叩かず、足音を忍ばせながらも矢のような速さで寝室を飛び出し、夜明け前の冷たい空気が張り詰める外へと駆け出していった。


目指すは、村から少し離れた隣町。


夢の中でマナが辿ったマジックアイテムの痕跡は、間違いなくそこを指し示していた。


「はぁっ……はぁっ……!」


舗装されていない夜道を、二人は全速力で駆けていく。


「はじめ……ちゃん……!」


隣を並走するマナが、小さな体で息を切らしながら尋ねてきた。


「……戦闘になるよ! 覚悟は出来てる!?」


「あぁ!」


はじめは短く力強く返事をしたが、走りながら握りしめた自分の拳が、ガタガタと小刻みに震えていることに気がついた。


武者震いか、それとも恐怖か。


脳裏にフラッシュバックするのは、南ウォー沼で遭遇した怪物『4号』の圧倒的な暴力。


丸太のような腕で薙ぎ払われ、為す術もなく蹂躙され、内臓が破裂するほどの重傷を負わされたあの絶望の記憶だ。


(ダメだ! 怯えるな、勇気を振り絞れ!)


はじめは奥歯を強く噛み締め、自分自身を必死に鼓舞した。


左手に握った鍵の重みが、彼にわずかな勇気を与えてくれる。クレアが再びあの狂気に支配される前に、絶対に間に合わせなければならない。


しばらく走り続けると、霧の向こうに隣町の輪郭がぼんやりと浮かび上がってきた。


街道沿いにポツンと建つ、古びたホテル。


クレアは間違いなく、あの建物のどこかに潜んでいるはずだ。


「あそこだ!」


ホテルの敷地に飛び込むなり、マナは迷うことなく一番端にある部屋のドアへ一直線に向かった。


そして、小さな体からは想像もつかないような勢いで飛び蹴りを放ち、盛大にドアをぶち壊したのだ。


ドバァァァンッ!!


木っ端微塵に吹き飛ぶドアの破片。


「ごめんね……ホテルのおじさん! 後ではじめちゃんが……しっかり弁償するから!」


マナは息を切らしながら、大声で謎の宣言をした。


「えええっ! なんで俺が払うことになってるんだよ!」


後ろから追いつき、息も絶え絶えになっていたはじめが思わずツッコミを入れる。


こんな緊急事態だというのに、相変わらずマナの行動は規格外だった。


だが、これだけ派手な爆音を立てたというのに、ホテルの他の部屋からは文句の一つも聞こえてこない。


町全体が、死んだように静まり返っている。


「マナちゃんの力で、この町の住人はクレア以外全員、朝までぐっすり眠らせてあるから大丈夫!」


舞い散る土埃の中、薄暗い部屋の奥のベッドから、気怠げな人影がゆっくりと身を起こした。


「……いったい、なんなんだこの騒ぎは?」


クレアだった。


彼女は目を擦りながら、ぶち破られたドアと、そこに立つ息の上がった二人を信じられないものを見るような目で見つめた。


「クレアちゃん!! 指切り!!」


マナが、喉が裂けんばかりのすごい大声で叫んだ。


意味のわからない要求に一瞬眉をひそめたクレアだったが、マナの尋常ではない真剣な表情と、必死に伸ばされた小さな小指を見て、瞬時に思考を切り替えた。


(なんなんだ一体。だが……マナがこんなに切羽詰まった表情をしているなら、ただ事では無いのだろう)


クレアはベッドから飛び起きると、無言でマナの元へ駆け寄り、その小さな小指に自分の小指をしっかりと絡ませた。


「……神の加護プロテクト、展開!」


指切りをした瞬間、マナの指先から淡い光が放たれ、クレアの全身を薄いベールのように包み込んだ。


「良かった……間に合った……」


マナはそう呟くと、身体の中の全ての力を使い果たしたようにヘナヘナとその場に座り込んでしまった。


はじめも膝に手をつき、激しく肩で息をしながら、安堵の表情でその光景を見守っていた。


(よかった……これで、クレアがERageに支配されることは……)


まさにその時だった。


「ぁ……あ、あああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


突如として、クレアが喉を掻きむしりながら激しい絶叫を上げ、部屋の床をのたうち回り始めたのだ。


「クレア!? どうしたんだ!」


「うそっ、プロテクトは間に合ったはずなのに……精神干渉じゃない!?」


マナが青ざめて叫ぶ。


直後、深夜の暗闇を切り裂くように、急に真昼の太陽が出現したかのような異常な明るい光が、ホテル周辺一帯を照らし出した。


『ゴゴゴゴゴゴ……!』


空気がビリビリと震える。


はじめが思わず外の夜空を見上げると、天空の彼方から、轟音を伴った一条の凄まじい『光の線』が、こちらに向かって真っ直ぐに落下してくるのが見えた。


「伏せろっ!!」


ドゴォォォォォォォォンッ!!!


隕石が衝突したかのような爆音が響き渡り、ホテルの前庭の地面が激しくえぐり取られた。


吹き荒れる暴風と土煙が収まると、そこには赤熱した小さなクレーターが出来上がっていた。


「ゲホッ、ゴホッ……なんだ、何が起きた……!」


はじめが煙を払いのけながらクレーターの中を凝視すると、そこには一つの人影があった。


ゆっくりと立ち上がったのは、一人の少女だった。


年の頃はアンナと同じくらいだろうか。


しかし、その身から放たれるプレッシャーは異次元だった。


少女は右手に、あの玉座に浮かんでいたのと同じ禍々しい『水晶玉』を掲げ、左手には身の丈ほどもある細身の槍を握りしめている。


冷たく、一切の感情を排した氷のような眼光が、クレーターの底から真っ直ぐにはじめたちを射抜いた。

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