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女神の確信と、重なる言葉

朝食後の団欒が落ち着いた頃。


クレアはコーヒーの入ったマグカップをテーブルに置き、隣に座るはじめにだけ聞こえるよう、スッと声を潜めた。


「昨日の実験の結論だがね……」


はじめは居住まいを正し、彼女の横顔を見つめた。


「これは単なる私見だが、あの子供は間違いなく『女神マナ』だと思っている」


「……やっぱり、そうなのか」


「ああ。私が全力で振るった炎の剣が透過して消滅した瞬間……私の脳裏に、かつて私を支配していたERageの精神との繋がりが、一瞬だけフラッシュバックしたんだ。


あんた、北ウォー沼でマナの口からERageの黒い煙が出たと言っていたね?」


はじめが頷くと、クレアは険しい顔で自らの推測を口にした。


「もしかしたら、マナはERageに神としての『力』を奪われているのかもしれない。


だからこそ、あんな不安定な子供の姿になり、ERageは神に等しい規格外の力を手に入れた……」


はじめは内心、心臓が跳ね上がるほど驚いていた。


クレアの鋭い考察は、昨夜の夢の中で大人の姿をしたマナ自身が語っていた凄惨な過去の真実と、寸分違わず完全に一致していたからだ。


(クレアの分析力、凄まじいな……。でも、剣が消えた瞬間にERageと繋がったってことは……)


はじめは、クレアが再びあの悪逆な皇帝の支配下に堕ち、敵に回るようなことが決してないよう、ただ強く心の中で祈った。


「さて、少し場所を変えようか。再び公園に付き合ってもらえるかい?」


クレアが立ち上がり、白衣を翻してはじめを誘う。


その様子を、食器を片付けていたリフリッジが逃すはずもなかった。


愛する兄と大人の色気を持つ女医が、またしてもコソコソと二人きりで出かけようとしているのだ。


「お、お兄ちゃん……またクレアさんと二人でお出かけ……?」


リフリッジの瞳が揺れ、心がざわつき始めたその時。


横からぽすっと小さな手が彼女の背中を叩いた。


「だいじょーぶだいじょーぶ! お姉ちゃん、心配しすぎー!」


マナが背伸びをして、リフリッジの肩をぽんぽんと優しく叩き、なだめようとしている。


「マナちゃんは神様だからわかるよ! はじめちゃんは、お姉ちゃんを置いてどっか行ったりしないから!」


「マ、マナちゃん……」


日頃はわがままな子供のはずのマナが、妙にお姉さんぶった態度でリフリッジを慰めている。


その凸凹で可愛らしいやり取りを見て、はじめは「なんだかんだで、いいコンビだな」と微笑ましく思い、クスッと笑みをこぼした。


しかし、それが最悪の引き金となった。


(ああっ! お兄ちゃんが今、クレアさんを見て意味深に笑った! ま、まさか……本当にクレアさんとデキているんじゃ!?)


リフリッジの乙女の妄想が、あらぬ方向へと猛スピードで暴走を始める。


顔を真っ赤にしてワナワナと震え出し、今にも泣き出しそうなリフリッジを見て、マナは「わわっ、違う違う!」とさらに大げさに身振り手振りを交えながら、コミカルな動きで彼女の誤解を解こうと奮闘し始めた。


「さあ、行くよ」


カオスな居間を背に、はじめはクレアと共に家を出た。


村の道を歩きながら、クレアは白衣のポケットの中でジャラリと重い金属音を鳴らした。


「実はね、今日は人払いを誰かに任せようと思って、ある程度の金……というより、警備隊への『賄賂』を持ってきたんだ。昨日のような騒ぎになっては困るからね」


「賄賂って……クレア、そういう裏工作も慣れてるのか?」


「ERageの兵器として暗躍していた名残さ。褒められたもんじゃないがね」


自嘲気味に笑うクレアと共に、二人は目的の公園へと到着した。


しかし――


「……妙だな」


クレアが立ち止まり、周囲を見渡した。

昼間だというのに、公園には子供たちの遊ぶ声一つしない。


それどころか、公園の周囲の道にすら、村人の気配が全くなかった。


風に揺れるブランコの微かな音と木々のざわめきだけが、不自然なほど静まり返った空間に響いている。


昨日の騒ぎのせいかとも思ったが、それにしてはあまりにも徹底されすぎている。


まるで、見えない絶対的な力が、この空間から強制的に人を遠ざけているかのようだった。


はじめの脳裏に、夢の中で見たマナの不敵な笑顔と、あの神々しい光がよぎる。

クレアの脳裏にも、炎の剣を透過させ、警備隊の認識をいとも容易く書き換えた、あの不可解な神の力がよぎっていた。


二人は顔を見合わせ、全く同じタイミングで、声を合わせて呟いた。


「マナだな」


「マナだな」


ぴったりと声が重なった瞬間、はじめとクレアは互いにハッとして目を見開いた。


「え……?」


「おや……?」


(なんで、はじめがマナの仕業だと確信しているんだ?)


(クレアも、マナがやったって完全に気づいてるのか?)


両者共に「何故それを知っている?」という驚きと疑問の表情を浮かべたまま、静まり返った無人の公園の入り口で、二人の間に奇妙で不思議な沈黙が降りた。

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