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透過する炎と警備隊の突入

「や、やめてよぉ! こんなことして何がしたいの!?」


静まり返った公園に、マナの悲痛な叫び声が響き渡った。


彼女の鼻先に突きつけられた長剣の刀身に、ボウッ!と赤黒い爆炎が巻き付いたのだ。


じりじりとした熱波が、マナの白い頬を容赦なく炙る。


「ひぐっ、あぁっ……! マナちゃんを食べても、全然美味しくないよ! 泥んこ遊びしたばっかりだし、お腹壊しちゃうよぉ!」


死の恐怖で完全に頭が混乱したのか、マナは自分が調理されて食べられるのだと思い込み、大粒の涙をぼろぼろとこぼして命乞いを始めた。


しかし、剣を握るクレアの瞳に一切の同情はなかった。


口では「ちょっとした実験」と言いながら、彼女は寸止めする気など毛頭ない。


本気で、全力でこの幼い少女を両断するつもりで構えていた。


(……我ながら、ゾッとするほど冷酷だな)


クレアは、怯えて泣き叫ぶマナを見下ろしながら、自らの内面をひどく冷静に俯瞰していた。


彼女がわざわざ『炎の剣』を選んだのには明確な理由がある。


マナの力が本物の「神の御業」であるならば、直接的な攻撃を防ぐだけでなく、マナが縛り付けられている背後の『木』に炎が燃え移るかどうかを試したかったのだ。


もしマナがただの魔力の強い子供なら、彼女もろとも木は黒焦げになる。ERageの生体兵器『3号』として生きてきたクレアの、血も涙もない冷徹な思考回路が導き出した最悪の実験だった。


「ごめんよ、マナ。恨むなら、私という狂気を作った時代を恨みな」


クレアは無慈悲な宣告と共に、炎を纏う長剣を大きく振りかぶり――そして、一切の躊躇なく、全力でマナの脳天へと振り下ろした。


「いやああああぁぁぁっ!!」


マナが鼓膜を裂くような絶叫を上げ、きつく目を閉じる。


灼熱の刃が、マナの柔らかな銀糸の髪に触れようとした、まさにその刹那だった。


「……なっ!?」


クレアは、剣を振り抜く自らの手に「手応え」が全くないことに驚愕した。


マナの頭部に触れる寸前、激しく燃え盛っていたはずの炎の剣が、まるで水に溶ける絵の具のように、刃の先端からズルズルと『透明』になっていったのだ。


振り下ろされた剣は、マナの体と、背後の太い木の幹をすり抜けた。


いや、すり抜けたのではない。


マナという存在を通過した瞬間、金属の刀身も、それに纏わせていた膨大な魔力の炎も、すべてが物理法則を無視してこの世界から「完全に消滅」してしまったのだ。


「ウソ、だろ……」


クレアは柄だけになった武器を握りしめたまま、呆然と立ち尽くした。


マナの体にはかすり傷一つない。


そして当然ながら、背後の木に炎が燃え広がることも、焦げ跡一つ残ることもなかった。


攻撃そのものが「最初から存在しなかったこと」にされたかのような、次元の違う現象。


「……これはいった……」


その言葉を最後まで紡ぐ前に、クレアの体がグラリと傾いた。


先ほどの全力の一撃に込めた魔力が空回りした反動か、それとも神の領域に触れた代償か。


力を完全に使い果たしたクレアは、糸が切れた操り人形のようにその場に力なく倒れ込み、意識を手放した。


「うぇぇぇん! 怖かったよぉ……!」


マナは縛られたまま、わあわあと声を上げて泣きじゃくっている。


その直後だった。


「おい、どけ! 今、中から凄まじい悲鳴が聞こえたぞ!!」


公園の入り口で、必死に人払いの言い訳をしていたはじめが、数人の屈強な大人たちに強引に突き飛ばされた。


「ああっ、待って! 今は点検中で……!」


はじめの制止も虚しく、マナの尋常ではない絶叫を聞きつけた村の警備隊が、一気に公園内へと突入してきた。


警備隊員たちが武器を構えて踏み込んだ先に広がっていたのは、異様な光景だった。


太い木にロープでぐるぐる巻きに縛り付けられ、大泣きしている幼い少女。


そして、その足元で柄だけを握りしめて気を失い、倒れている白衣の女。


「……これはいったい、何の騒ぎだ……?」

先頭に立っていた警備隊の隊長が、あまりの状況に言葉を失い、完全に固まっていた。


しかし、すぐに我に返ると、鋭い声で部下たちに指示を飛ばした。


「怪しい女だ、すぐに拘束しろ! 気を失っている隙に縛り上げろ!」


「はっ!」


数人の隊員が駆け寄り、倒れているクレアをうつ伏せにして素早く縄を打つ。


同時に、一人の女性隊員が慌ててマナの元へ駆け寄り、持っていたナイフで戒めのロープを素早く切断した。


「もう大丈夫よ、可哀想に。怖かったわね……」


女性隊員が優しく抱きしめると、マナはその胸に顔を埋めて「キャンディくれるって言ったのにぃ~!」とさらに大声で泣きじゃくった。


入り口で尻餅をついていたはじめは、クレアが拘束され、マナが保護されるその光景を、ただ青ざめた顔で見つめていることしかできなかった。

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