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魔法のロープと、青年の喝

透明な床の上で、クレアの銀の剣閃と、青年の鋭い体術が交差する。


二人は即席のコンビとは思えないほど息の合った連携を見せ、魔物と化したオーナーの猛攻をギリギリのところで捌き続けていた。


その激しい戦闘を、アズマの張った結界の中から見つめながら、はじめは手の中にある太いロープを握りしめ、拘束のタイミングを必死に図っていた。


「アズマ、このロープはどうやって使えばいいんだ?」


はじめが尋ねると、アズマは結界を維持したまま答えた。


「そのロープには、対象に向かって投げれば『自動的に巻き付いて縛り上げる魔法』がかかっています。

ただ当てるだけで大丈夫です」


「投げれば勝手に巻き付くのか……。それなら俺にもできるかもしれない」


はじめが少しだけ安堵の表情を浮かべる。


「はい。私は、倒れているにぃにのお父様をこの結界で守らなければならないので、加勢に行くことができません……。拘束は、にぃにだけが頼りです」


アズマが申し訳なさそうに、しかし強い信頼を込めた瞳ではじめを見つめた。


「分かった。投げればなんとかなるんだな。やってみる!」


はじめはいちかばちか覚悟を決めると、アズマの結界から飛び出し、激しい戦闘が繰り広げられている前線へと駆け出した。


「はじめ! そのロープで拘束するつもりか!?」


剣で魔物の爪を弾き返しながら、クレアが鋭い声で確認する。


「ああ! 隙を作ってくれ!」


「やるなら早くやってくれ! こっちもそんなに余裕があるわけじゃないんだ!」


青年が魔物の豪腕をダッキングでかわし、反撃の掌底を打ち込みながら叫んだ。


「今だッ!」


魔物の体勢が崩れた瞬間を見計らい、はじめは渾身の力で魔法のロープを投げつけた。


ロープは蛇のように宙をうねり、魔物の巨体へと向かっていく――。


しかし。


「ガァァァァッ!!」


魔物は直感的に危機を察知したのか、太い腕を乱暴に振り回し、飛んできたロープを力任せに弾き飛ばしてしまった。


バチンッという音と共に、ロープがあらぬ方向へと転がっていく。


「くそっ、弾かれた!」


はじめが舌打ちをする。


魔法のロープとはいえ、相手に触れなければ効果は発揮されない。


「チッ……! まだ力が余っているようだな」


クレアが剣を構え直し、隣にいる青年に視線を向けた。


「もう少しあいつを弱らせる必要がある。……頼めるか?」


「うへぇ……」


青年は露骨に嫌そうな顔をして耳を伏せたが、すぐにため息をついて構えを取った。


「まぁ……乗り掛かった船だ。仕方ねぇ、やってやるよ!」


そのやり取りを見て、魔物化したオーナーは本能的に「このままでは不利だ」と悟ったのだろう。


「ゴアァァァァァァッ!!」


空間を震わせるような凄まじい雄叫びを上げると、その全身の筋肉がさらに異常に膨張した。


残りの力を全て振り絞り、怒りに満ちた血走った双眸が、もっとも弱く厄介な動きをしている『はじめ』へと一点に集中する。


ズンッ!!


床を蹴り砕くような勢いで、魔物がはじめに向かって一直線に突進してきた。


「しまった、はじめを狙っている! 避けろ、はじめ!!」


クレアが慌ててカバーに入ろうと地面を蹴るが、魔物の執念の突進の方が一瞬早かった。


「なっ……!?」


はじめは強烈な殺気に当てられ、足がすくんで一歩も動けなくなってしまった。


巨大な影がはじめを覆い尽くし、鋭く尖った凶悪な爪が、はじめの身体を真っ二つに引き裂こうと振り下ろされる――。


(殺される……!)


はじめが死を覚悟して目を閉じた、まさにその刹那。


「甘えんだよッ!!」


突風のごとく割り込んできた青年が、空中で独楽こまのように回転し、魔物の振り下ろされる腕の側面に、華麗かつ強烈な『横蹴り』を叩き込んだ。


ゴガァッ!という鈍い衝撃音と共に、魔物の腕の軌道が大きく逸れ、鋭い爪ははじめの顔の横スレスレの空気を切り裂いて床に激突した。


「ボサっとすんな!!」


青年が着地と同時に、呆然としているはじめの胸ぐらを掴んで怒鳴りつけた。


「命を懸けた戦闘中だぞ! 足引っ張って死にたいのか!? 気合い入れろ!!」


「ッ……!」


青年の鋭い喝に、はじめはハッと我に返った。


恐怖で竦んでしまった情けない自分。


思うように動けない己の無力さに対する強烈な苛立ちが、ドロドロと胸の奥から湧き上がってくる。


(俺は……親父を助けるためにここに来たはずじゃないのか!)


「……すまん。もう大丈夫だ!」


はじめは自分自身の頬を両手で強く叩き、青年に力強く頷いてみせた。


「フン。その目なら、次は外さねぇだろうな」


青年は短く笑うと、再び身を翻してクレアの横に並び立った。


魔物化したオーナーは外した爪を床から引き抜き、忌々しそうに低い唸り声を上げる。


再び距離をとり、互いに荒い息を整えながら、次なる一撃のチャンスを狙ってジリジリと睨み合う。


静寂と極度の緊張感が透明な広間を完全に支配していた


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