青年との、捕獲作戦
「ガアァァァァァァッ!!」
魔物と化したオーナーが、正気を失った獣の咆哮を上げ、はじめ達に向かって猛然と襲いかかってきた。
「させません……ッ!」
アズマが『青い勾玉』の力を振り絞り、透明な結界を展開してその強烈な一撃を真正面から受け止める。
凄まじい衝撃に結界がミシミシと軋み、アズマの顔に疲労の色が浮かぶ。
「チッ……厄介な置き土産を残していきやがって!」
クレアが結界の外へと飛び出し、剣を振るって魔物の注意を引く。
しかし、相手は屈強な魔物。
クレアの剣技をもってしても、容易には隙を見せない。
はじめは動けない父親の姿に後ろ髪を引かれながらも、現状を打開するため、マナと繋いだ『信者の絆』の念話を急いで起動した。
『あ、はじめちゃん? そっち、なんかすごい音してるけど大丈夫!?』
空間にマナとカエデのホログラムのような姿が浮かび上がる。
「マナ! 緊急事態だ。アイナーの呪いで、オーナーが巨大な魔物にされてしまった!」
はじめは切羽詰まった声で状況を伝えた。
「このままクレアが戦って倒せば、おそらくオーナーは死んでしまう……! 何とかならないか!?」
『えぇっ、オーナーさんが!?』とマナが驚く横で、おまんじゅうの粉をつけたカエデがひょっこりと顔を出した。
『なんだー、そんなことなら心配ないよ! 適当に弱らせてこっちに持ってくれば、私の精霊の力でその呪い、解除してあげるから!』
「そんな事ができるのか……!?」
はじめが半信半疑で尋ねると、カエデは「ふんすっ」と自信たっぷりに小さな胸を叩いてみせた。
『任せなさいって! ああいうのは私の得意分野だから!』
カエデの頼もしい(?)言葉に希望が見えたが、現実は厳しい。
「……とは言っても、今クレアが一人で応戦してるが、手加減して生け捕りにできるような相手じゃないぞ……!」
はじめが焦燥感を滲ませて叫ぶ。
クレアは防戦一方で、致命傷を避けるのに精一杯の状況だった。
その時だった。
「――やれやれ。ここで姿を現す予定ではなかったんだけどね」
突如、空間を切り裂くような一筋の『光の筋』がマグマの上空から飛来し、はじめ達と魔物の間にスッと降り立った。
光が収まると、そこに現れたのは一人の青年だった。
カエデのような精霊なのか、その頭にはピンと立った『キツネの耳』があり、腰の後ろでは『大きな白いしっぽ』がゆらゆらと揺れている。
青年は瞬きする間もなく魔物の懐(間合い)へと潜り込むと、その巨体に向かって素早く、かつ重い掌底を叩き込んだ。
「ガ、ハッ……!?」
ドスッという鈍い音と共に、魔物化したオーナーの巨体が大きく後方へとたたらを踏む。
(強い……!)
クレアが驚きと共に目で合図を送ると、青年は軽く頷き返し、軽快なフットワークで魔物のヘイト(敵意)を自分へと引きつけてくれた。
「どこの誰かは分からないが……助かる!」
クレアが青年の援護に回り、反撃の糸口を掴む。
その光景を念話越しに見ていたマナが、はじめに問いかけた。
『はじめちゃん、例の「絵筆(鍵)」とやらは使えそう? 相手を弱らせるのに何か役に立つかもしれないわよ』
「くっ……!」
はじめは懐からあの不思議な『鍵』を取り出したが、ただの鍵の形状をしたそれをどう使えば魔法の絵筆になるのか、全く使い方が分からず苦悩した。
すると、結界を維持していたアズマが「えいっ」と自身の空間収納から、太くて頑丈な『ロープ』を取り出し、はじめに手渡した。
「にぃに! 絵筆が無理なら、とりあえずコレを使って縛ってください!」
念話の向こうで、カエデが感心したように手を叩く。
『おー。色々と用意周到だねぇ、アズマちゃん』
「……よし、隙を見てコイツで拘束する!」
はじめはロープを握りしめ、覚悟を決めた。
一方、念話の画面越しに戦場の様子を眺めていたカエデは、クレアと共に魔物を翻弄している青年の姿から目が離せなくなっていた。
(……それにしても、あの耳としっぽの青年。戦っているあの姿……どこかで見たような……?)
カエデが、自身の記憶の底にある「ある名前」と目の前の青年の姿を重ね合わせながら不思議そうに首を傾げた




