魔竜の覚醒と、変わり果てた父
「ここに俺たちを呼んだ理由は何だ!」
はじめが、アイナーを強く睨みつけて叫んだ。
その傍らで、アズマは床を転げ回って苦しむオーナーのもとへ駆け寄り、両手をかざして必死に癒しの力を発動させていた。
「無駄なことを……」
アイナーはアズマのその行動を冷ややかに見下ろし、鼻で笑う。
「答えろ!」
はじめが再度怒号を飛ばすが、アイナーはそれに答えることなく、目を閉じて何やら深く精神を集中させ始めた。
「……『鍵』を融合させてきたか。好都合だ」
アイナーがぽつりと独り言のように呟き、はじめに向かってスッと右手をかざした。
「ッ!?」
次の瞬間、はじめの身体は目に見えない強力な力で縛り付けられたように、ピクリとも動かなくなってしまった。
「 貴様ァッ!」
それを見たクレアが床を蹴り、鋭い踏み込みでアイナーへ飛びかかり剣を一閃する。
しかし、アイナーの周囲に張られた強固な防御結界に激しく弾かれ、火花を散らして後方へ吹き飛ばされた。
「な、なんだこれ……!」
動けないはじめが胸元へ視線を落とす。
はじめの胸のあたり――『鍵』をしまってある場所から、突如として強烈な光の線が放たれ、広間の中心にある石造りの『祠』に向かって真っ直ぐに伸びていったのだ。
光の線が接続された瞬間、祠全体が神々しく、そして禍々しく光り輝き始めた。
ドドドドド……ッ!!
空間全体を揺るがすような激しい地鳴りが鳴り響く。
祠の周囲を流れていた赤黒いマグマが、まるで意思を持った生き物のように持ち上がり、光り輝く祠の中へと滝のようにどんどんと吸い込まれていく。
「くっ……!」
揺れが酷く、立っていることすらままならない。
「こっちへ!!」
アズマが大声で叫び、青い勾玉の力を解放して半球状の強力な防御結界を張った。
動けないはじめをクレアが抱え上げ、アズマの結界の中へとなんとか逃げ込む。
オーナーは未だに顔を歪めて苦しみもがいていた。
やがて、極限まで光り輝いた祠の輪郭が歪み、膨張し――その姿を巨大な『竜』へと変貌させた。
しかし、それはイオリやアズマのような、どこか神聖で朗らかさを感じる龍の姿とは全く別の存在だった。
全身にドロドロのマグマを纏い、岩のごとき強固な鱗と無数の棘を生やした、不気味かつ異形な姿。
「あれは……『魔竜』!」
アズマがその恐ろしい姿を見て、震える声で叫んだ。
アイナーはゆっくりと宙を舞い、目覚めた魔竜の巨大な背に降り立った。
「ご苦労だった」
アイナーが魔竜の首筋を撫でる。
「……それが目的か! 父さんはどうした!」
結界の中から、はじめが血を吐くような声で叫んだ。
「あぁ……お前達をおびき寄せるための『エサ』か。……約束通り返してやろう」
アイナーは冷酷に笑うと、空中に空間の穴を開き、そこから一人の男を無造作に引きずり出した。
「父さん……ッ!?」
はじめは目を疑った。
床に転がされたその男は、確かに父親のロルフだった。
しかし、生きてはいるものの異常なまでに痩せ細り、まるで老人のように全身の生気を吸い尽くされて年老いていたのだ。
「あ……、う……」
虚ろな目をしたロルフの口から、意味を成さない声が漏れる。
彼は目の前にいるはじめの事も、自分が誰であるのかすらも全く分かっていない様子だった。
「父さん……! 嘘だろ……!」
はじめの絶望の声が空間に響く。
「ほら、ちゃんと返してやったぞ。……もうお前達に用はない」
アイナーはまるでゴミでも捨てるかのように言い放ち、魔竜に指示を出した。
「ギィルルォォォォーーーッ!!」
魔竜が空間を震わせる凄まじい叫び声を上げると、目の前の虚空に、漆黒の亀裂が走った。
「最後にお前達にプレゼントだ」
アイナーがそう言うと、魔竜が倒れているオーナーに向かって、何やら呪文のようなものを低く呟いた。
「ガ、アァァァァァァッ!!」
オーナーがこれまでにない苦悶の絶叫を上げる。
その身体が内側から膨張し、服が弾け飛び、皮膚がどす黒く変色していく。
あっという間に、人間の姿を失った『巨大な魔物』へと変化してしまった。
「ハハハハハッ!!」
絶望に突き落とされたはじめ達と、暴れ狂う魔物を残し
魔竜に乗ったアイナーが高笑いを響かせながら、空間の亀裂の中へと消えていった




