マグマの上の透明な遺跡と、仮面の青年
奇妙にえぐり取られたような、不気味な採掘痕の坑道を奥へ奥へと進んでいく一行。
ツルハシで削られたものではないその道は、うるさく反響する足音だけが頼りの、息が詰まるような空間だった。
しばらく進むと、突然その道が行き止まりになったように見えた。
いや、岩壁で行き止まっているのではない。
坑道を完全に塞ぐように、ブクブクと波打つ『泡』とも『膜』ともつかない、半透明の奇妙な物体が立ち塞がっていたのだ。
「なんだ、これは……魔物の巣か?」
クレアが警戒しながら剣を抜き放ち、その不気味な膜を刃で切り裂こうと一歩前に出た。
「待ってください、クレアさん!」
すかさずアズマが叫び、クレアの腕を掴んで静止した。
「どうした、アズマ」
「……分かりませんが、それを剣で無理やり切ってしまうと、なんだかすごく『嫌な予感』がしたんです」
アズマは真剣な表情でそう言うと、首から下げていた『青い勾玉』を手に握りしめ、そっとその奇妙な膜へと近づけた。
すると、勾玉が放つ青白い龍の魔力に呼応するように、膜の表面が波立ち――シュルシュルと音を立てて左右に分かれ、人が一人通れるほどの丸い
『空間』がぽっかりと開いた。
「よし、通れそうです!」
アズマの直感と不思議な力に、クレアは小さく息を吐いて剣を下ろした。
「……助かった。私の判断ミスだったかもしれないな」
アズマが開いた空間を抜け、さらに奥へと進む一行。
やがて、狭く息苦しかった坑道が急に開け、信じられない光景が目の前に広がった。
「なっ……なんだ、ここは!?」
はじめが驚愕の声を上げる。
そこは、地下深くとは思えないほど途方もなく広大な『空間』だった。
足元には、水晶かガラスのように全体的に透明感のある未知の素材で構成された、滑らかで巨大な人工物の床が広がっている。
そして、その透明な床のはるか下には、ドロドロと煮えたぎる赤黒い『マグマ』の河が激しくうねりながら流れていた。
どうやら彼らは今、マグマの真上に浮かぶように建造された、巨大な人工の遺跡の上に立っているらしい。
「オーナー! あんた、この鉱山の地下にこんな場所があるなんて聞いてないぞ!」
クレアが鋭くオーナーを問い詰めるが、オーナー自身も目を丸くして周囲を見渡していた。
「わ、私も……こんな空間は見た事がありません。ニール鉱山の地下に、こんな巨大な建造物が眠っていたなんて……」
彼のその驚きようは、どうやら演技ではないようだった。
「それにしても……不思議だな」
はじめが周囲を見渡して呟く。
「さっきまでの坑道はあんなに息苦しくて暑かったのに、ここでは全く暑さを感じない」
足元のすぐ下をマグマが流れているというのに、この空間の空気はひんやりとしていて澄み切っていた。
クレアがしゃがみ込み、コンコンと透明な床を硬い剣の柄で叩いて確認する。
「……マグマの熱を完全に遮断している。これほど断熱性が高く、かつ強靭な素材など見た事がない。
一体、どんな技術で作られたものなのか……皆目見当もつかないな」
一行は警戒を強めながら、その透明な広間をさらに奥へと進んでいった。
すると、広間の中心付近に、このSF的な超技術の空間には全く似つかわしくない、古びた石造りの『祠』のようなものがポツンと鎮座しているのが見えた。
「あれは……なんの祠だ?」
クレアが目を細め、その正体を確かめようと祠に向かって一歩足を踏み出した、その時だった。
「――動くな!」
突如、空気を震わせるような鋭く冷たい声が、空間の何処からか響き渡った。
「ッ! 誰だ!?」
クレアが即座に剣を構え、はじめとアズマも背中合わせになって周囲を見渡す。
「上です、にぃに!!」
アズマが指差した先。
マグマの赤い照り返しを受ける透明な空間の、はるか上空。
そこには、重力を無視するようにフワリと空中に浮遊し、冷徹な視線ではじめ達を見下ろしている
――あの『仮面の青年』、アイナーの姿があった。
圧倒的な強者の気配を放つアイナーがはじめ達の前に立ちはだかった




