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灼熱の坑道と、未知の採掘痕

太陽の光が届かないニール鉱山の奥深く。


整備された安全な採掘ルートから外れ、一行はカンテラの薄暗い灯りだけを頼りに、ゴツゴツとした岩肌の道を慎重に進んでいた。


(……今日で、アイナーというクロベキア王族と連絡がつかなくなってから、すでに5日が経っている)


はじめは、薄暗い足元を見つめながら思考を巡らせていた。


(もし事故に巻き込まれていなかったとして、何事もなかったとしても、これだけの長期間、光の届かない鉱山の奥に入りっぱなしになっているのはどういう理由だ? そもそも、なぜ俺をこの鉱山に呼びつけた? そして……親父は、本当に生きているのか……?)


次々と湧き上がる疑問。


そして、最悪の想像。


不安と焦りが心臓を鷲掴みにし、はじめの額にはジワリと冷や汗が滲んでいた。


「……どうした、はじめ。呼吸が荒いぞ。しっかりしろ」


先頭を歩いていたクレアが足を止め、鋭く、しかし気遣うような声ではじめを振り返った。


その後ろから、アズマも不安げに身を乗り出し、フリルの袖を握りしめながら心配そうな顔ではじめを見つめている。


「……はぁっ、はぁ……いや、大丈夫だ。なんでもない」


はじめは一度深く息を吸い込み、必死に動揺を隠して答えた。


だが、クレアの目をごまかせるはずもなく、内心の焦燥は完全に見透かされていた。


「……辛いのなら、お前だけ屋敷に戻ってもいいんだぞ。ここは私とアズマで調べる」


クレアが静かに提案する。


しかし、はじめは首を強く横に振った。


「いや……行く。親父の事だ。何が起きていようと、俺自身の目で最後まで見届けなければならないんだ」


はじめは両手で自らの頬をパチンと叩いて気合を入れ直し、再び力強く歩み始めた。


そのやり取りを、列の最後尾を歩くオーナーが、全く感情の読めない淡々とした表情で静かに見つめていた。


巨大なすり鉢状の『露天掘り』の区間を完全に抜け、一行は山肌に直接穴を開けたような、狭く息苦しい『坑道掘り』の区間へと足を踏み入れた。


坑道内を進むにつれ、肌にまとわりつくような熱気が次第に強くなっていく。


「……少しずつ、温度が上がってきていますね」とアズマが言う


オーナーがハンカチで額の汗を拭いながら説明を始めた。


「このニール鉱山の地下深くにはマグマ脈が通っておりまして、その影響で坑道内は非常に温度が上がりやすくなっているのです。


普段は冷却装置を稼働させているのですが……先日の事故の影響でシステムが破損し、現在は十分に機能していない状態なのです」


オーナーはさらに続ける。


「非常に汗をかきやすい環境です。脱水症状にはくれぐれも気をつけてください」


その言葉を聞くや否や、アズマがポンと手を叩いた。


「はいっ! 皆さん、お水です!」


アズマは自身の空間収納から冷えた水筒を取り出すと、手際よくコップに注ぎ、クレアとはじめに手渡した。


「……随分と用意がいいな。助かる」


クレアがコップを受け取り、喉を潤しながら感心したように言った。


アズマはえへへと照れくさそうに笑う。


「私なりに、救助活動や探索について一生懸命本で勉強しましたので!


こういう場所では水分補給が一番大事だって書いてありました」


「そうか。偉いな、アズマ。ありがとう」


はじめは微笑んでコップを受け取ると、空いた手でアズマの頭を優しく撫でてあげた。


「えへへ……」


アズマは嬉しそうに目を細め、はじめの手にすり寄る。


過酷な環境の中で、ほんの少しだけ緊張が和らいだ瞬間だった。


しかし、その穏やかな空気は長くは続かなかった。


さらに奥の薄暗い坑道を進んでいたクレアが、ピタリと足を止めた。


「……おい、オーナー。これを見ろ」


クレアがカンテラの光を、坑道の側面の壁面に向けた。


そこには、他の壁面とは明らかに違う、何かにえぐり取られたような『新しく奇妙な掘り方の跡』が、奥へと続く無数のトンネルのように穿たれていた。


通常のツルハシや重機で掘ったような直線的な痕跡ではなく、まるで巨大な爪や牙で乱暴に岩盤を削り取ったかのような、異様な断面だった。


「これは……」


オーナーはその痕跡を見て、わずかに目を丸くした。


「あんた達の作業員が掘ったものか?」


クレアが問いただすと、オーナーは明確に首を横に振った。


「……いえ。私たちがこのような奇妙な掘り進め方をした記録はありません。


第一、これでは落盤の危険性が高すぎます。


私たちが掘ったものでは……ありません」


「じゃあ、一体誰が……?」


(……クロベキアの王族。親父。そして、鉱山側が把握していない謎の採掘痕)


はじめは壁面の不気味な傷跡を見つめながら、背筋に冷たいものが走るのを感じた。


得体の知れない強烈な胸騒ぎがはじめの心を支配し始めた

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