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神の勘と、鉱山の奥に消えた足跡

翌朝、再びニール鉱山へ向かうための準備を整えていたはじめ達だったが、出発の直前、カエデの妙な提案によって少し予定が狂うことになった。


「オーナーさん、お先にどうぞー! 私たち、ちょっと忘れ物しちゃって、すぐ後から追いかけますから!」


カエデの機転(?)により、まずはオーナーとその部下たちだけを先に現場へ向かわせることになったのだ。


オーナーの一行が屋敷を出ていくのを見届けた後、はじめはカエデに向き直った。


「おいカエデ、忘れ物ってなんだよ。わざわざオーナーを先に行かせた理由は?」


カエデは両手でおまんじゅうを口に運び、もぐもぐと咀嚼しながら、いつになく真剣な表情で言った。


「……あのオーナーには、気をつけた方がいいよ」


真剣な表情はいいのだが、いかんせん口の周りにまんじゅうの粉がついている。


(気をつけるべきなのは、こんな真面目な話をしてる時までまんじゅうを食べてるお前の態度の方だろ……!)


はじめの喉元までそのツッコミが出かかったが、彼女の目が本気だったため、すんでのところで言葉を飲み込んだ。


「なんか、ありそうだとは思うねー。

まぁ……神の勘だけど」


隣でマナが、人差し指を顎に当てて適当な感じで付け加える。


「神の勘って、お前なぁ……」


はじめは大きなため息をついた。


昨日の神聖なお祓いを見た後だけに否定しづらいが、マナの言い方が軽すぎて今ひとつ緊張感に欠ける。


「まぁまぁ、それじゃあ今日も行ってらっしゃいのおまじない、運気アップしとくわね!」


マナが気を取り直して杖を構えると、カエデが嬉しそうに声を上げた。


「おー! ふりかけご飯タイムだー!」


「ふりかけ言うな……」


はじめはさらに深いため息をこぼした。


そんな頼りない空気の中、クレアがはじめの肩を叩いた。


「安心しろ、はじめ。何があろうと私とアズマがお前を守る。信じてくれ」


「はい! にぃに!」


アズマがクレアの言葉に強く同調し、瞳をうるうると潤ませながら、これでもかというほど完璧な上目遣いではじめを見つめてきた。


「はいダメダメ、そういうのは。アズマちゃん、あざとすぎー」


その二人の間に、カエデがすかさず手のひらを割り込ませてシャットアウトした。


アズマはまたしても子供のように両頬をパンパンに膨らませ、「もう……カエデさんは意地悪なんだから……」とぷりぷり怒り出す。


当のカエデは、再びまんじゅうを頬張り始めていた。


オーナー達に少し遅れる形で、はじめ、クレア、アズマの三人はニール鉱山の事故現場へと到着した。


「遅かったですね、はじめさん。……昨日のお話ですが、今日はまず、あなたのお父様であるロルフさんの捜索を優先させた方が良いのではありませんか?」


合流するなり、オーナーが責任感の強そうな顔で提案してきた。


はじめは一瞬迷ったが、隣にいるアズマの「まだ埋まっている人がいるなら助けたい」と訴えかけるような、真っ直ぐな眼差しを無碍にすることはできなかった。


「いえ……今日も、まずは残された作業員の方々の救助活動を優先させてください」


はじめの言葉に、アズマの顔がパッと明るくなる。


「ありがとうございます、にぃに! 昨日の作業でおおかたの土砂はどかしてありますから、今日はすぐに終わります!」


アズマは昨日と同じ手順で首元の『青い勾玉』に意識を集中させ、頭上に空間の穴を作り出した。


驚異的な手際で残りの巨大な岩や瓦礫をひょいひょいと穴の向こうへ放り込んでいく。


アズマの言葉通り、太陽が南の空を過ぎ、昼を少し回った頃には全ての崩落現場の土砂撤去が終了した。


しかし、今回も奇跡は起きず、新たに三人の作業員の亡骸が発見される結果となった。


「……確認が取れました」


オーナーが悲痛な面持ちで書類に目を通し、アズマに向かって深々と頭を下げた。


「これで、今回の事故で行方不明になっていた作業員、全員の確認が取れました。あなたのおかげです、龍族の御方」


アズマは静かに首を横に振り、全員が運び出された静かな事故現場へと、心を込めて最後の祈りを捧げた。


悲しい救助活動が一段落したところで、はじめは胸に引っかかっていた疑問を口にした。


「オーナーさん。……親父と、その一緒にいたっていう『アイナー』って人の姿が、どこにも見当たらないんですが」


周囲の鉱夫たちに聞き込みをしていたオーナーの部下が戻ってきて、首を横に振った。


「……やはり、この事故現場の周辺では、アイナー様とお父様の姿は一度も目撃されていないようです」


「そんな……救助に向かったはずなのに、おかしいじゃないか」をはじめが焦りを見せる。


オーナーも不思議そうに眉をひそめた。

「おかしいですね……。本当に救助のためだけに現場へ向かわれたのだとしたら、もう我々の手で発見されていてもおかしくないはず。一体どこへ行かれたというのか……」


クレアが、冷徹な声で呟いた。


「……『作業員の救助』というのは単なる方便で、彼らには最初から、他に何らかの目的があったのかもしれないな」


「別の目的……?」


「ああ。これ以上ここにいても手がかりは出ない。はじめ、アズマ、行くぞ」


一行は、誰も立ち入ろうとしない、暗く不気味に口を開ける鉱山のさらに奥深くへと歩みを進めた。


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