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朝の陽光と、回らない舌〜後編〜

リフリッジをそっとベッドに寝かしつけ、乱れた掛け布団を直してやる。


後ろではまだマナが「はじめちゃんったら顔が真っ赤~」と茶化していたが、それにかまっている余裕は今の彼にはなかった。


大きく息を吐き出したはじめの脳裏に、ふと昨夜の公園での会話がよぎった。


『あんたの母親……たまこのことも含めてね』


そうだ。クレアは確かにそう言っていた。


はじめの記憶の中にある実の母親、たまこ。


ある日突然、リフリッジを連れてきて、父親に押し付けるようにして姿を消した無責任な女。


居間へ戻ると、開け放たれた縁側の縁に腰を下ろし、クレアが朝の冷たい空気の中で煙草を燻らせていた。


彼女の白衣の裾が、微かな風に揺れている。


「……クレア」


はじめが声をかけると、クレアはゆっくりと振り返った。


「昨日、途中で終わってしまった話だけど……たまこは、今何をしているんだ? あいつは、まだ生きているのか?」


その問いを聞いた瞬間、クレアの表情からスッと温度が消えた。


彼女は手元の灰皿に煙草を押し付け、ぶっきらぼうな声で吐き捨てた。


「ああ。生きているとも。無駄に元気さ。……だがね、人の親としては心の底から軽蔑するよ」


その冷たい響きに、はじめは思わず息を呑んだ。クレアが他人にここまで露骨な嫌悪感を示すのは珍しかった。


「軽蔑……? 一体、何があったんだ。あいつは俺たちを捨てて出て行った後、どうなったっていうんだよ」


クレアは新しく煙草を取り出そうとした手を止め、鋭い視線を真っ直ぐにはじめに向けた。


「いいかい、ぼうや。今のあいつは『たまこ』なんて地味な名前は使っていない。


自らを『ハートの女王』と名乗っているのさ」


「……は? ハートの……女王?」


あまりにも突拍子もない名前に、はじめは間の抜けた声を上げた。


「そうさ。どこでどうやって手に入れたのかは知らないが、あいつは強力な『若作りの魔法』を手に入れてね。


実年齢とは掛け離れた、まるで若い娘のような容姿を保っているんだ。


そして、自分の城に……見目麗しいイケメンの男性ばかりを何十人も侍らせて、彼らに自らを『ママ』と呼ばせてふんぞり返っているんだよ」


「な……っ」


はじめの頭の中が真っ白になった。


魔法で作った偽りの若さ。


金で囲った男たちのハーレム。


そして、自分たち本当の子供を捨てておきながら、見知らぬ男たちに「ママ」と呼ばせているという異常性。


「さらにタチが悪いことにね」


はじめの絶句をよそに、クレアは淡々と事実を告げる。


「あいつは莫大な資金をどこからか調達して、『ハートの王国』なるふざけた国まで立ち上げやがったのさ。


もちろん、そんなおままごとのような国を、クロベキアやその背後にいるキシアが正式に認めているわけがない。


……おそらく、裏で役人たちに天文学的な額の賄賂をバラ撒いて、黙認させることで強引に国を成り立たせているんだろうね」


クレアの言葉が、重い鉛のように、はじめの心にのしかかっていく。


莫大な資金。


若作りの魔法。


そして、国を丸め込むほどの賄賂。


到底、かつて村にいた平凡な主婦に用意できるものとは思えなかった。


ERageや空中要塞フロウディアの鍵、そしてキシアの闇。


それらと同じくらい深く、実の母親もまた、世界の歪みの中心に足を踏み入れていることは明白だった。


「……嘘だろ」


はじめは震える両手で顔を覆い、その場にガクリと膝をついた。


自分と、熱病に苦しんでいたリフリッジを捨ててまで彼女が選んだ人生が、そんな醜悪で狂気に満ちたものだったという事実。


腹立たしさを通り越し、ただただ底知れぬショックと羞恥心がはじめの胸を締め付けていた。

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