空間の穴と、哀しき土砂の底
アズマの胸元にある『青い勾玉』が激しく明滅し、周囲の空気がビリビリと震え始めた。
直後、アズマの頭上の空間が歪み、ぽっかりと黒く不思議な『穴』のような空間が現れた。
「えいっ、やぁっ!」
アズマはフリルの服が泥で汚れることも一切気にせず、自分の背丈ほどもある巨大な岩を細腕でひょいっと持ち上げると、空中の穴に向かって次々と放り込んでいった。
まるで吸い込まれるように、周囲の細かい砂や瓦礫までもが、風を巻き起こしながらズズズ……とその真っ黒な穴の中へと消えていく。
(……すごいパワーだけど、あの穴はいったいどこに通じているんだろうな……?)
はじめは、次々と消えていく大量の土砂を見ながら、不用意な場所に山ができているのではないかと少しだけ心配になった。
「いやはや……。さすがは龍族の方だ」
その圧倒的な作業効率を目の当たりにしたオーナーが、感嘆の息を漏らした。
「これほどの力を持った龍族は、このキシアでも珍しい。……失礼ですが、あなた方とはどういう関係で同行しているのですか?」
オーナーの突然の質問に、はじめは言葉に詰まった。
(どういう関係って……行きずりの町で出会って、名前をつけて、一緒についてきただけなんだが……)
正直に話すべきか迷っているはじめの横から、クレアがすかさず口を挟んだ。
「この少年の類稀なる人柄に惚れ込み、生涯の忠誠を誓うと決めた龍なのだ」
クレアは全く表情を変えず、真顔でとんでもなく話を盛ってオーナーに告げた。
「ほう……! 生涯の忠誠を……!」
オーナーの目が驚きと感心で大きく見開かれる。
「これほどお若いのに、あれほどの強大な龍族の方にそこまで慕われるとは。
……この少年は、よほどの艱難辛苦を乗り越え、徳を積まれてきたに違いない!」
オーナーははじめの手をガシッと握り、大層な言葉で褒め称え始めた。
(ち、違う! クレアのやつ、適当な事を……!)
話が勝手にどんどん大きくなっていくことに焦ったはじめは、冷や汗を流しながらどう訂正の返事をしようか迷っていた。
その時だった。
「オーナーさん……!」
少し離れた場所で土砂をどかしていたアズマが、切迫した大きな声を上げた。
はじめ達が慌てて駆け寄ると、崩れた岩の下から、土にまみれた作業員の姿が露わになっていた。
しかし、急いでオーナーが駆け寄って脈を確認したが……その作業員は、すでに息絶えていた。
「……遅かったか」
オーナーが唇を噛み締め、静かに首を横に振る。
アズマはその場に膝をつき、泥だらけになった手で胸の前で印を結び、亡くなった作業員に向けて深く、静かな祈りを捧げ始めた。
龍族としての、死者を悼む神聖な儀式だった。
オーナーの指示により、後方で待機していた担架を持った作業員たちが急行してきた。
遺体は担架に乗せられ、その上から真っ白な布がかけられて、静かに運び出されていく。
「……行きます。まだ埋まっている方がいるかもしれません」
アズマは悲しみを堪えるように気を取り直し、再び岩を動かす作業を再開した。
それから夕方まで、はじめとクレアも周囲の安全を確保しつつ、アズマの瓦礫撤去をサポートし続けた。
しかし、奇跡は起きなかった。
日が落ちるまでに、新たに四人ほどの遺体が土砂の中から発見され、運び出されていった。
アズマはその度に手を止め、彼らの魂の安寧を願って祈りを捧げ続けていた。
「……龍族の方にこうして祈りを捧げてもらえれば、無念の中で亡くなった彼らの魂も、きっと救われる事でしょう」
オーナーが、夕陽に照らされるアズマの横顔を見つめながら、静かにそう言った。
やがて鉱山は完全に夜の闇に包まれ、これ以上の捜索は二次災害の危険が高まると判断された。
「……夜も更けてきました。今日の作業は一旦ここまでとし、屋敷へ撤収しましょう」
オーナーの号令で、本日の救助活動は終了となった。
泥だらけになった重い足を引きずりながら、坑道を後にするはじめ。
(……明日はもっと奥へ進むことになる。明日こそ、絶対に親父を見つけ出さないと……!)
夕闇に沈むニール鉱山を振り返り、はじめが強く決意を固めたところで、一行はオーナーの屋敷へと戻っていった。




