青い勾玉と、ふりかけの加護
オーナーから借りた広々とした大部屋に集まると、アズマはすぐさま部屋の四隅に魔力を飛ばし、手慣れた様子で『防諜結界』を張り巡らせた。
外からの盗聴や干渉を完全にシャットアウトする、安全のための絶対条件だ。
「よし。これで誰にも聞かれることはない」
クレアが小さく頷き、部屋の中心のテーブルに集まった一行を見渡した。
そして、フリルのスカートを直しているアズマに視線を向ける。
「アズマ。明日の救助活動だが……お前、その姿(フリルの服)のままで大丈夫なのか? 鉱山は足場も悪く、危険だぞ」
「はい、問題ありません」
アズマは自信ありげに頷くと、空間に小さな収納結界を展開し、そこから一本の鎖を取り出した。
鎖の先には、深海のように透き通った『青い色の勾玉』がぶら下がっている。
「これは……?」とはじめが尋ねる。
「この勾玉に、私の『龍の力』を移しておけるんです」
アズマは勾玉を首から下げ、宝物のように両手で包み込んだ。
「これがあれば、完全に龍変化していない人間の姿の時でも、龍の強靭な力や魔力をある程度発揮する事ができるようになります。
落石を砕いたり、重い土砂をどかしたりする程度なら造作もありません」
「なるほど。それは都合がいいな」
クレアが感心したように頷くと、アズマは少しだけ表情を引き締めた。
「ただ、代償として……この勾玉から力を本体に戻さない限り、龍変化したとしても本来の巨大な姿と全開の力は得られませんが」
「へー、そんな便利なアイテムがあるんだねー」
カエデが豪華な椅子に座り、足をプラプラとさせた。
「それならアズマちゃん、もしでっかい岩が落ちてきても、はじめちゃんをしっかり守れるね!」
「もちろんです!」
アズマはカエデの言葉に強く頷き、はじめの方へクルリと向き直った。
「にぃには、私が絶対に守ります!!」
その瞳には、熱烈で真っ直ぐすぎる好意と決意の炎が燃え盛っていた。
はじめは「お、おう……頼もしいな」と少し照れくさそうに頭を掻いた。
「よし、隊列はこれで決まりだな」
クレアがテーブルの上にペンを置き、最終確認をする。
「私が先頭に立って安全を確保しつつ進む。
はじめが真ん中で警戒し、アズマが後ろから全体をカバーする。
狭い坑道内ではこれが一番理にかなっている」
はじめとアズマは真剣な表情で頷いた。
「じゃあ、会議もまとまったところで。最後に私からのおまじない!」
それまで静かに話を聞いていたマナが、ピョコンと立ち上がり、自慢の杖を構えた。
「一応気休めだけど、みんなの『運気』をあげておくわ!」
「運気って……」
はじめは呆れたように目を細めた。
「これから危険な救助に行くって時に、ますます神頼みみたいになってきたな」
「まぁ……実際、私にお願いしてるんだから『神頼み』であってるでしょ? 私、一応本物の神だし」
マナがドヤ顔で胸を張る。
「あー……そうだったな」
「そうよ」
なんだか、全く面白くない場末のコントのようなやり取りになってしまった。
マナはコホンと一つ咳払いをすると、杖をくるくると回して神聖な魔力を練り上げた。
「えいっ!」
杖の先端から、キラキラと輝く金色の光の粉が降り注ぎ、はじめ、クレア、アズマの三人の頭上にふんわりと降りかかって消えていった。
「よし! これで運気アップ! 明日は気をつけて行ってきてね!」
マナが満足げに笑う。
その光の粉が降り注ぐ様子をベッドからポカンと眺めていたカエデが、口元を拭いながらボソッと呟いた。
「……なんか、ほかほかのご飯にふりかけかけてるみたい。ふりかけご飯、食べたくなってきたなぁ……」
「お前は本当に……緊張感ゼロだな」
はじめは額に手を当てて深くため息をついた。
これから命がけの救助活動に向かおうというのに、このたぬきの頭の中はいつでも食欲で満たされているらしい。
確認作業の会議が終わり、結界を解いて部屋を出ると、執事が待機していた。
オーナーに声をかけると、客用の豪華な個室をそれぞれ別々に用意してくれているとのことだった。
一行はそれぞれの部屋へと案内される。
親父の安否を案じるはじめ。
未知の脅威を警戒するクレア。
はじめを守る決意に燃えるアズマ。
そして、過去の記憶と目の前の謎に思いを巡らせるカエデ。
それぞれが胸の内に異なる思いを抱えながら、明日のニール鉱山出発に向けて、静かに夜の眠りにつく




