仮面の青年と、三人の救助隊
赤いレーザーの線を背に、一行はオーナーに案内されて豪華な屋敷の中へと足を踏み入れた。
玄関ホールでは、ピシッと整った制服を着たメイドたちが一列に並び、優雅な所作で一行に挨拶をした。
はじめは(いつものカエデなら『お姉さんたち可愛いねー!』とか馴れ馴れしく絡んでトラブルを起こすんじゃないか……)とヒヤヒヤして振り返ったが、予想に反してカエデは黙りこくったままだった。
彼女はまだ何かを考え込んでいるようで、眉間にしわを寄せて鼻をヒクヒクさせている。
「カエデさん、本当に大丈夫ですか? 変なものでも食べたんですかね?」
アズマが不思議そうに首を傾げる。
「まぁ……いつもこれぐらい大人しくしてくれると、こっちとしては手がかからなくていいんだけどね」
マナは肩をすくめて呟いた。
「さぁ、こちらへ」
オーナーの案内により、一行は広々とした大広間へと通された。
豪華な調度品やふかふかのソファが並んでおり、どうやらここで話をするらしい。
一行がソファに腰を下ろすと、黒服を着た執事が分厚い資料の束を持って部屋に入ってきた。
「ロルフさん、と言いましたか……」
オーナーは執事から資料を受け取り、パラパラとページをめくって確認した。
「記録を見た限り、幸いなことに事故の被害者リストにその名前はないようですね」
「本当ですか……!」
はじめが安堵の息を漏らす。
「それなら、親父はここで働いていたんでしょうか? 何らかの手がかりはありますか?」
はじめが前のめりになって尋ねると、オーナーは再び執事へ視線を向けた。
「少々お待ちを。彼についての詳細な記録を調べてきなさい」
「かしこまりました」と執事が一礼し、再び部屋を出て行く。
しばらく待っている間、先程のメイドがワゴンを押して現れ、一行の前に温かい紅茶を淹れてくれた。
「良ければお召し上がりください。長旅でさぞお疲れでしょう」
オーナーが穏やかに微笑む。
さらに数分待つと、執事が新たな書類を手に戻ってきた。
オーナーはその書類を受け取り、目を通しながら少し驚いたような顔をした。
「……なるほど。ロルフさんという方は、どうやら『アイナー様』と一緒に行動されているようですね」
「アイナー様?」
聞き慣れない名前に、クレアが鋭く反応する。
「ええ。クロベキアの王族の方です。いつも、不思議な仮面をつけておられる方でしてね」
オーナーのその言葉に、はじめはハッとした。
(クロベキアの王族で、仮面……! 間違いない、例の『仮面の青年』だ!)
親父がなぜクロベキアの王族と一緒に行動しているのかは謎だが、手がかりとしては十分すぎる。
「そのアイナー様は、今どこにいるんだ?」
クレアが真剣な表情で問うと、オーナーは重々しく首を横に振った。
「それが……地滑りが起きた時に、アイナー様は『残された作業員を救出に行く』と自ら現場へ向かわれまして。
それ以来、連絡が取れていないのです」
「なんだって……!?」
「そろそろ丸3日になります。何事もなければいいのですが……」
オーナーの言葉に、大広間にどんよりとした重い空気が漂った。
「俺も……俺にも、救出活動を手伝わせてください!!」
はじめがソファから立ち上がり、身を乗り出して頼み込んだ。
「いや、それはできません。素人の方にはあまりにも危険です! 救助は我々専門の者にお任せください」
オーナーがすかさず両手で制止する。
そのやり取りを見ていたクレアが、冷静な声で割って入った。
「オーナー。ニール鉱山は、山の斜面を削る『露天掘り』の鉱山だろうか?」
「え、ええ。そうですが……」
オーナーが戸惑いながら答えると、クレアはまっすぐに彼の目を見据えた。
「私は過去に、鉱山での土砂崩れにおける救助の経験がある。
さらに、傭兵としての場数も踏んでいる。
……私が全責任を持つ事で、同行させる事は可能だろうか?」
その堂々とした交渉に、オーナーは少し困った顔をして腕を組んだ。
「……今は正直、人手が圧倒的に足りない状況です。
経験者がいてくれるのはありがたい。……わかりました。
救助への同行を許可しましょう。ただし、二次災害を起こさないよう、くれぐれもよろしくお願いしますよ」
「感謝する」
クレアが力強く頷く。
「我々も、明日ニール鉱山の事故現場へ向かう予定です。同行するのは……あなたと」オーナーが指を差す。
「クレアだ」
「それから、あなたと」
「はじめです」
「最後に一人だけ……」
オーナーが次の人員を指名しようとした、その時だった。
「私が……私が行きます!」
アズマがスッと立ち上がり、真っ直ぐに立候補した。
オーナーは、明らかに幼い少女のような外見で、おまけにフリルの服を着ているアズマを見て少々困惑した。
しかし、彼女のスカートの下から覗く立派なしっぽを見て、ハッとした。
「もしかして……龍族の方ですか?」
アズマは真剣な表情で、コクリと力強く頷いた。
龍の力があれば、土砂の撤去などにも大いに役立つはずだ。
「……承知しました。では、明日はこのお三方に同行していただきましょう」
はじめ、クレア、アズマの三人が鉱山へ救助活動へ行くという事で、無事に話がまとまった。
「明日出発するまでの間、仲間同士で確認作業をしたい。一部屋、貸してもらえないだろうか」
クレアが申し出ると、オーナーは「もちろんです。ごゆっくりおくつろぎください」と快く了承した。




