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鉱山のオーナーと、嗅ぎ覚えのある匂い

「そこのお人。……どうやら、お困りのようですね」


わちゃわちゃと揉めていたはじめ達の背後から声をかけてきたのは、泥や埃にまみれたこの鉱山町には全く似つかわしくない、仕立ての良い上質な服に身を包んだ長身のイケメン男性だった。


その整った顔立ちには、穏やかで紳士的な微笑みが浮かんでいる。


「あなたは……?」


クレアが警戒を解かずに尋ねると、男性は胸に手を当てて優雅に一礼した。


「怪しい者ではありません。私はこのニール鉱山を管理しているオーナーです。


先程、入り口の鉱夫から事情を耳にしましてね……もしかしたら、地滑りに巻き込まれた作業員の家族の方かもしれないと思い、声をかけさせていただきました」


「鉱山のオーナー……」


はじめは一歩前に出ると、すがるような思いで口を開いた。


「俺の親父の名前は『ロルフ』と言います。落盤事故の当事者の中に、その名前の者はいるでしょうか?」


はじめが父親の名前を告げると、オーナーは顎に手を当てて少し考え込む素振りを見せた。


「ロルフ……ロルフ、ですか。確かな記録を確認してみないと分かりませんが、私の記憶が正しければ、事故に遭った者の中にその名前の者はいなかったような気がします」


「本当ですか……!?」


はじめの顔がパッと明るくなる。


親父が無事かもしれないという安堵感が胸に広がった。


「ええ。ですが、詳しい事は私の屋敷でデータと照らし合わせてお話ししましょう。


見ての通り、この町にはあなた方のような客人をもてなす宿泊施設のようなものはありませんので……。よろしければ、私の屋敷へご案内いたしますよ」


オーナーの親切な申し出に、クレアがはじめを見て小さく頷いた。


情報収集と安全な拠点の確保という意味では、これ以上ない好条件だ。


「ありがとうございます。お世話になります」


はじめが頭を下げると、オーナーは「こちらへどうぞ」と歩き出した。


一行はオーナーの後について町の中を進んでいく。


しかし、その列の最後尾を歩くカエデだけは、いつもとは違う真剣な表情で、歩くオーナーの背中をじっと見つめていた。


カエデの鼻がヒクヒクと動く。


(……変ね。この人から、どこかで嗅いだことのあるような匂いがする……。なんの匂いだったっけ……?)


精霊狸としての鋭い嗅覚と本能が、カエデの脳裏にかすかな違和感を警鐘として鳴らしていた。


やがて、町の一番奥まった高台に、周囲の貧しい景観とは明らかに浮いている、要塞のように巨大で豪華な屋敷が見えてきた。


高い石組みの壁に囲まれ、その入り口の門の前には、アリスのいた町で見たような『赤い光の線』――高出力の魔法レーザーによる防犯警備システムが張り巡らされている。


さらに、屋敷の敷地の奥には、砲塔のような何らかの『兵器』らしきものまで鎮座しているのが見えた。


「……ずいぶんと警備が厳重だな。ただの鉱山オーナーの屋敷とは思えないが」


クレアが目を細め、周囲を鋭く観察しながら尋ねる。


その言葉に、オーナーは困ったように苦笑いを浮かべた。


「お恥ずかしい話ですが、この町は荒くれ者が多くてですね。


採掘した貴重な鉱石や物資を狙う暴徒も少なくないのです。自衛のためには、これくらいしなければならなくて」


オーナーは入り口の堅牢な鉄柵の前に立つと、何やら複雑な手信号を行った。


すると、彼の手にはめられていた豪奢な指輪から特定の波長を持った光の信号が走り、門を塞いでいた赤いレーザーの線がスッと消滅した。


「さぁ、どうぞ。中へ」


オーナーが鉄柵の扉を開け、優雅な手つきで一行を招き入れる。


クレアを先頭に、はじめ、マナ、アズマ、そしてカエデが順番に敷地内へと足を踏み入れた。


全員が屋敷の敷地内に入りきったその直後――背後の門で、再び『ジッ』と音を立てて赤い光の線が幾重にも現れ、外への退路を完全に塞いだ。


一行が、まるで巨大な檻の中に自ら入り込んでしまったかのように赤い光が屋敷の入り口を封鎖した

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