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飛行許可証と、歩き出す一行

アリスといらじに見送られ、はじめ達一行はついにキシアの辺境の町を後にした。


目指すは、次なる目的地『ニール鉱山』である。


町を囲む外壁を抜け、長く続く荒野の道に足を踏み入れたところで、カエデが歩き疲れたように大きな伸びをした。


「ねぇねぇ、あおちゃん。ニール鉱山とかいうところまで、私たちを乗せて飛んでいけないの? 龍なんでしょ?」


カエデが、隣を歩くアズマのフリルの袖をちょんちょんと引っ張りながら尋ねた。


アズマは歩みを止めず、前を向いたまま極めて事務的な口調で言い返した。


「……『飛行許可証』をお持ちですか?」


「ひこう……なにそれ? はじめちゃん、そんなの持ってる~?」


カエデがきょとんとして振り返る。


「いや、アリスからは特にもらってないな……」


クレアが首を横に振って答えた。


「なら、無理ですね」


アズマは淡々と事実を告げた。


「許可なく空を飛べば、キシア軍の配備している『空中魔法兵器』に、問答無用で蜂の巣にされちゃいますから」


「えぇーっ、蜂の巣!? なんか物騒な国だねー」


カエデが呑気な声を上げる。


その危機感のなさに、アズマは呆れたように無言で深いため息をついた。


そのやり取りを聞いていたクレアが、興味深そうに口を挟んだ。


「飛行許可証が必要ということは……このキシアでは、人間が乗って空を飛べる乗り物がすでに実用化されているのか?」


「ええ。大都市の大富豪や特権階級の人間なら、個人で飛空艇のようなものを持っている事もあるそうです」


アズマは真面目に答えた。


「ただ、ずっと田舎の町に住んでいた私には、具体的な形状までは分かりません。


……田舎では乗り物がない代わりに、守護龍が住民を背に乗せて移動する事があるんです。


ですが、空に巨大な龍が飛ぶと不用意な混乱を生み出してしまうため、そういった場合でも町長などが発行する『飛行許可証』が必要になるんです」


「なるほど、空の交通整理というわけか。それで、お前は人を乗せて飛んだことはあるのか?」とクレア。


アズマは少し寂しそうに視線を落とした。


「……いいえ。私は、一度も利用された事はありません」


忌まわしい名前で呼ばれることを恐れ、誰とも関わらず、町民からも信仰されずにひっそりと生きてきた彼女に、空を飛ぶ頼み事をする者などいなかったのだ。


その少ししんみりとした空気を、カエデの無邪気すぎる一言がぶち壊した。


「そっかー。あおちゃんはちゃんと名前を教えてくれないから、みんなも使いづらくて乗せてもらえなかったんだね……」


カエデとしてはただ納得しただけのつもりだったのだろうが、そのあまりにもデリカシーのない発言に、場の空気がピシッと凍りついた。


「っ……!!」


アズマはパッと振り返り、みるみるうちに涙目になりながら、頬をパンパンに膨らませてカエデをギロリと睨みつけた。


しかし、言い返す言葉が見つからなかったのか、すぐに「プイッ」とそっぽを向いてしまった。


(……本当に、子供みたいだな)


クレアは、長命な龍族の威厳が微塵も感じられないその反応に、内心でため息をついた。


「あ、ごめんて! 今のは私が悪かったから、機嫌なおしてよ、あおちゃん!」


カエデが慌ててアズマの肩を叩くが、アズマは頑なに顔を背けたままだ。


「……ふんだ」


アズマは短くそう吐き捨て、カエデと絶対に目を合わせようとしなかった。


「はぁ……。まぁ、取っ組み合いの言い合いにならないだけ、関係は良くなってるのかなぁ……」


マナが疲れた顔で、本日何度目か分からないため息をこぼす。


そのマナの横顔を、はじめが覗き込んだ。


「なぁ、マナ。こういう面倒くさい状況も、お前の言う『因果』ってやつなのか?」


はじめは、今までマナに振り回されてきた鬱憤を晴らすかのように、この上なく清々しい満面の笑顔で問いかけた。


「違うわよ! バカな事言ってないで、はじめちゃんもちょっとは仲裁に協力してよね!」


マナはジロリと恨めしそうな目ではじめを睨みつけた。


「俺は遠慮しておく。巻き込まれたくないからな」


はじめは軽口を叩きながら、空を仰いだ。


カエデのご機嫌取りの声と、アズマの意地を張った沈黙。そしてマナの愚痴が入り混じる。


一行はそれぞれに微妙な雰囲気を出しつつも、果てしなく続く荒野の道を、ニール鉱山へ向けて徒歩で進んでいくのだった。

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