甘い芋の写実と、膨らむ不安
「はじめさんの絵が下手くそなんて……! そういうあなたはどうなんですか、どうぶつの人!」
アズマが顔を真っ赤にして、ぷりぷりと怒り出した。
恩人であるはじめを侮辱されたことが、自分のこと以上に許せなかったのだ。
「ふふん。見てなさいよ」
カエデは得意げな顔で鼻を鳴らすと、はじめが置いていた鉛筆をひったくるように手に取り、画用紙に向き直った。
一行は、静かにその様子を見守った。
迷いのない筆致で、さらさらと鉛筆が走る。
十数分後、カエデが「はい、完成!」と画用紙を突き出した。
そこに描かれていたのは、鉛筆一本で描いたとは思えないほど、圧倒的な質感を持ったサツマイモだった。
皮の細かな凹凸、土の付いたリアリティ。もし色がついていたら、その場に本物が転がっていると錯覚しそうなほどの出来栄えだった。
「…………っ!」
それを見たアズマは、言葉を失って悔しそうな顔を浮かべた。
ぐぬぬと唸り声を上げた後、あてつけのように隣にいたはじめにギュッとしがみつく。
「あー! ちょっと、くっつかないでよ!」
それを見たカエデが、今度は自分が怒り出した。
「どうぶつの人に、私の気持ちなんか分かりません! 指図されたくありません!」
「なによー! あおちゃんのくせに!」
またしても始まった取っ組み合い寸前の言い合いに、マナが「はいはい、もうやめなさいってば!」と、なかば力ずくで二人の間に割り込んだ。
はじめは、カエデの描いた絵をじっと見つめていた。
(……確かに、これだけ描けるなら文句を言うだけのことはあるな)
自分の絵と比較して少しだけ自信を失いつつも、カエデの意外な特技に感心する。
ようやく喧嘩が収まった頃合いを見計らい、クレアが冷静な声で切り出した。
「そろそろ、この町を出発することも考えた方がいい。ニール鉱山までの道程はまだ長いんだ」
アズマは、はじめに迷惑をかけてはいけないと自分を律し、スッと防諜結界を解いた。
ふと見ると、カエデはアズマにビンタでもされたのか、頬が少し赤く腫れ、ムスッとした顔でそっぽを向いている。
「はぁ……。カエデちゃんは適当すぎるし、アズマちゃんは融通が利かなすぎるのよねー……」
二人の板挟みになったマナが、小さな肩を落として小声で愚痴をこぼしていた。
はじめは、重い空気を感じ取って提案した。
「……今日はドタバタしていて、みんな疲れただろう。ゆっくり休んで、明日出発しよう。それでいいよな?」
クレアとアズマは、すぐに「はい」「異存ありません」と返事をしたが、カエデは腫れた頬をさすりながらムスッとしたままだ。
マナに至っては、心労が顔に出てひどく疲れた顔でため息をついていた。
(カエデのやつ……。俺とマナが喧嘩した時は、あんなにかっこつけて止めに入ったのに。自分の時は全然できてないじゃないか……)
はじめは、以前カエデに説教された時のことを思い出し、内心で少し呆れてしまった。
賑やかを通り越して、まとまりのなくなってきた一行。
これからの旅路に、はじめは少しばかりの不安を抱きながら、ホテルのベッドに腰を下ろすのだった。




