鍵の融合と、サツマイモの絵
ホテルの部屋に戻り、落ち着いたところで、はじめは儀式の中で起きた精神世界での出来事――エアリアルの強襲と、アンナとの再会、そして不思議な絵筆についてのことの顛末を語ろうとした。
「あ、待ってください!」
はじめが口を開きかけた瞬間、アズマがそそくさと立ち上がり、部屋の四隅に魔力を込めて防諜結界を張り巡らせた。空間に淡い光の膜が広がり、すぐに透明になって消える。
「ふぅ、これでよし」
アズマが額の汗を拭うと、ベッドの上でゴロゴロしていたカエデが身を乗り出した。
「なにそれー、なんかキラキラしてて綺麗だねー、あおちゃん!」
(……無視しよう)
アズマは苛立ちを堪え、聞こえないフリをして少し頑張ったが、ふと視線を感じて横を見ると、はじめが困ったように苦笑いしていた。
(ハッ! 私としたことが、大恩あるはじめさんを困らせてしまった……!)
アズマは深く反省し、しぶしぶカエデの方を向いて、抑揚のない棒読みで質問に答えた。
「これは、防諜結界です。外部からの魔法等を使った盗み聞きや、盗聴・盗撮などから部屋を守る事が出来ます」
「ふーん」
カエデは全く興味がなさそうな生返事を返すと、「あ、さっきルームサービスで届いた熱くて食べられなかった焼き芋
そろそろ食べやすい温度になってるかも?」と独り言を呟き、紙袋の中から焼き芋を取り出してモグモグと食べ始めた。
「ちょっと! 人に質問しておいて、その態度はなんですか!!」
ぷりぷりと怒りそうになるアズマを、横からマナが「まぁまぁ、落ち着いて」と宥めすかす。
アズマがハッとしてはじめの方を見つめると、彼の表情は少し和らいでいたので、(はじめさんが怒っていないなら、まぁよしとしましょう)と、アズマはスッと気持ちを切り替えた。
気を取り直して、はじめはことの顛末を語り出した。
精神世界での絶体絶命の危機や、アンナが助けてくれたこと。
アズマは、自分の儀式がはじめを死の淵に追いやっていた事実を知り、胸の前で両手を組んで終始ハラハラとした顔で聞いている。
マナは、アズマの心配そうな顔を見て(こーして見ると、イオリちゃんとそっくりねー)と内心で思いながら、どこかぼんやりとしていた。
カエデは特に話に興味がないのか、黙々と焼き芋を平らげ続けている。
そんな中、クレアだけが腕を組み、極めて冷静かつ真剣にはじめの話に耳を傾けていた。
「――と、いうわけなんだが。現実のこの世界に戻ってきた時には、俺の持っている『鍵』は元の二つのままだったんだよな」
はじめは懐から、自分が元々持っていた鍵と、アリスから受け取った鍵の二つを取り出して見せた。
「クレア。これをどうやって、あの精神世界で使った『絵筆』にするのか分かるか?」
「精神世界での奇跡をそのまま現実の物質に適用して『絵筆』にする方法は分からないな。
だが、二つの鍵を融合させれば、鍵から引き出せる『力』自体は増えるはずだ。……とりあえず、融合だけしてみよう」
クレアが的確な助言を出す。
はじめはクレアの指示通り、二つの鍵を両手に握り、魔力を流し込んで意識を集中させた。
すると、二つの鍵が眩い光を放ちながら溶け合い、見事に一つの鍵へと融合を遂げた。
「おぉ……。鍵の色も、形も少し変わるんだな」
はじめは新しくなった鍵を手のひらで転がしながら、「しかし、この鍵の仕組み、未だに謎だなぁ……」と首を傾げた。
その話をなんとなく聞いていたカエデが、口の周りに焼き芋のカスをつけたまま反応した。
「へー! はじめちゃん、絵描けたんだー! じゃあ、おいもの絵を描いてみてよ!」
そう言うと、カエデは自身の空間収納から、なぜか画用紙と鉛筆を取り出して、はじめの前にドンと置いた。
「なんでお前、こんなもの持ってるんだ?」
はじめが驚いて尋ねる。
「うーん……。空腹を感じた時に食べ物がない時、これにおいもの絵を描いて、空腹を紛らわせていたのよ。
アンナちゃんと旅してた時は、いつも順風満帆でお腹いっぱいってわけにはいかなかったからねぇ……」
カエデは当時の過酷な旅路を思い出し、少し遠い目をして語った。
(カエデも、俺たちが知らないところでそれなりに苦労していたんだな……)
はじめは少し同情しつつ、鉛筆を手に取った。
(しかし、絵を描くなんて子供の頃以来だ。ブランクもあるし、上手く描けるだろうか……)
不安に思いつつも、はじめは記憶の中にあるサツマイモの形を思い浮かべながら、画用紙にサラサラと鉛筆を走らせた。影のつけ方や、皮の質感などを思い出しながら、慎重に描き進めていく。
十数分後。
「よし。……まぁまぁ上手く描けたかな」
はじめは描き上がった画用紙を皆の前に掲げて見せた。
「ほぉ……上手いじゃないか。特徴をよく捉えられている」
クレアが感心したように頷く。
「まぁまぁね」と、マナも偉そうに評価する。
「すごいです、はじめさん! 本物のさつまいもみたいです!」
アズマは目を輝かせて、手放しではじめをべた褒めした。
皆の反応に、はじめが少しホッとして鼻高々になった、その時だった。
「…………ヘッタクソ!」
カエデだけが、画用紙を指差して、冷酷なまでに容赦のない酷評を言い放ったのだ。
「えっ」
カエデのそのあまりにもストレートで手厳しい一言に、部屋の空気が一気に極寒の大地の寒波のように凍りついた。
はじめは持っていた画用紙を落としそうになるほど、強烈な精神的ダメージを受けた




