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更地になる聖域と、無自覚な責任

夜が明け、柔らかな朝の日差しがキシアの町を照らし始めた。


新しい名前を授かり、いつものフリルとレースたっぷりの服に着替えたアズマは、よほど嬉しかったのか、朝からずっと満面の笑みを浮かべてニコニコとしていた。


「今まで、肩にずっしりと重い鉛のようなものが乗っていた感覚があったのですが……今は心も体も軽くなって、まるで新しく生まれ変わったようです!」


アズマはフリルの裾を揺らしながら、はじめに向かって嬉しそうに報告した。


「それはよかった」


はじめが微笑ましく頷いていると、見回りを終えたクレアが歩み寄ってきた。


「最後にひとつ、気になっていたので聞きたいのだが」


クレアは周囲の『和洋折衷の妙ちくりんな建物』を見回しながら尋ねた。


「この場所は、アズマの住む場所という事でいいのか?」


「はい、基本的にはそうです。ここで目立たないように、ひっそりと暮らしています」


アズマは少し照れくさそうに頷いた。


「本来であれば、キシアの『オド様』の信仰に合わせた立派な龍神殿になる予定だったのですが……私の魔力と不調和を起こしてしまって、こんな変な形の場所になってしまいました」


アズマは少し肩を落とし、寂しそうに視線を伏せた。


「町の人は、龍そのものへの信仰心は持っています。


でも、私個人の事を信仰の対象とは見ていないので……町の人がこの場所を訪れる事は、決してありません」


「そうか……。まぁ、答えづらい事を聞いてしまって悪かった」


クレアが気を遣って謝罪する。


(こんな場所に、誰にも必要とされずにポツンと一人で暮らしていたのか……)


はじめは、アズマの孤独な生い立ちを思い、不憫に感じて胸がチクリと痛んだ。


忌まわしい名前で縛られ、誰からも信仰されず、ただ一人で町を見守るだけの生活。


「……なぁ、アズマ。良ければ、俺たちと一緒に来ないか?」


はじめは、ごく自然な口調でそう提案した。


その言葉を聞いた瞬間、アズマはバッと顔を上げた。


まるで、雨の日に捨てられていた子犬が、心優しい人に拾われた時のような、キラキラと輝く瞳。


フリルの下から生えた立派な龍のしっぽが、ブンブンとちぎれんばかりに左右に振られているのが見えた。


「は、はじめさんが良ければ……是非、ご一緒させてください!!」


アズマは食い気味に、二つ返事で了承した。


(またか……)


一部始終を見ていたクレアは、額に手を当てて深くため息をついた。


(またコイツは、女心――相手は男だが――に付け入る事が上手いな……。本当に、天性の才能なのか?)


はじめのあまりにも無自覚なタラシっぷりに、クレアは半ば呆れ返っていた。


「……では、この龍の場所とやらはどうなるんだ?」


気を取り直してクレアが尋ねる。


「私がいなくなれば、この町にふさわしい次の守護龍が現れるまで、ここは更地になるでしょう」


アズマは少し寂しそうに微笑んだ。


彼は今までひっそりと暮らしてきた『和洋折衷の聖域』を、名残惜しそうにしばらくの間じっと眺めていた。


やがて決意したように振り返ると、何やら古い呪文のようなものを静かに唱え始めた。


すると、大理石の神殿や木造の鳥居が、光の粒子となってポロポロと崩れ落ち、幻のように空間に溶けて消えていった。


建物の名残が完全に消え去り、ただの何もない土の更地へと戻る。


アズマが最後に、その荒涼とした更地に向かって『ふっ』と優しく息を吹きかけると、土の中から瞬く間に青々とした草花が生い茂り、美しい緑の草地へと様変わりした。


「すごいな……。こんな事もできるのか」


生命を芽吹かせるその神秘的な光景に、クレアが感嘆の声を漏らす。


「まぁ……一応、龍ですから」


アズマは頬を染めて、恥ずかしそうにモジモジと答えた。


その様子を見たクレアは、鋭い視線をスッとはじめに向けた。


「おい、はじめ。一緒に連れて行くと言った以上、お前がちゃんと責任を取ってやれよ」


「は? なんの事だ?」


はじめは心底不思議そうに首を傾げた。


ただ一人ぼっちの奴を仲間に誘っただけで、なぜ責任問題になるのか全く理解していない。


(全く、コイツは……自分の言動が相手にどれだけ重い意味を持つか、ことの重大さを少しは理解しろ)


はじめのきょとんとした顔を見て、クレアは心の中で深く深くため息をつき、呆れ果てるのだった。

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