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神の通信と、邪悪などうぶつの疑い

精神世界での過酷な死闘を終え、現実へと帰還したはじめ。


彼はポチが『龍の場所』の神殿の奥に急遽こしらえたベッドの上に横たわり、泥のように深い眠りについていた。


よほど精神と肉体の疲労が抜けきれていないのか、夜が明けても一向に目を覚ます気配がない。


「……このまま、ずっと眠っていて大丈夫なのか?」


はじめの寝顔を見下ろしながら、クレアが心配そうに尋ねた。


「はい。儀式は無事成功しましたし、加護の揺り戻しも収まっています。


本来ならなんの問題もないはずなのですが……」


ポチも少し不安そうに眉を下げ、はじめの額に乗せた濡れタオルをそっと取り替えた。


「そうか……。まあ、あれだけの負担を強いられたんだ。無理もないだろう」


クレアは一つ息を吐き、視線を神殿の入り口へと向けた。


「(それにしても……ホテルに置いてきたマナとカエデは、大人しくしているだろうか?)」


クレアが二人の様子に思いを馳せた、まさにその時だった。


突然、空間が淡く発光し、クレアとポチの眼前に『ホログラム』のような立体映像がフワリと浮かび上がった。


マナと精神が繋がったのだ。


『やっほー。どうしたの、クレアちゃーん?』


映像の中から、マナのひどくのんきで間延びした声が響いてきた。


そのマナの背後では、テーブルの上に山盛りにされた『おいも料理』を、カエデが野生動物のように一心不乱に平らげている姿がはっきりと映し出されている。


「これは……マナと繋がっているのか? 念話のようなものか?」


クレアが驚いてホログラムに問いかける。


『そーよー。信者になったからね、ちょっと力を使えばこれくらいできるわ。……で、何か問題でもあったー?』


口元に芋の欠片をつけたまま、マナが首を傾げる。


「いや、儀式は無事成功した。だが、はじめがまだ眠っていて、すぐにはそっちに戻れそうにない。もう少し待っていてくれ」


クレアが現状を簡潔に伝えた。


『りょーかーい。わかったー、じゃあカエデちゃんと一緒にホテルで待ってるねー』


マナは軽く手を振ると、プツリと通信を切った。


空間に浮かんでいたホログラムが光の粒となって消え去る。


その一連のやり取りを横で見ていたポチは、信じられないものを見たというように目を丸くし、ワナワナと震えていた。


「い、今の離れた場所を繋ぐ通信は、間違いなく高度な『神の御業みわざ』はず……! でも、神にしてはあまりにも頭が悪い話し方をしています……!」


ポチはビシッと、先程までホログラムでカエデが映っていた空間を指差した。


「あの、邪悪などうぶつ……! まさか、崇高な神をあんな愚か者にしてしまうような、恐ろしい力を持っているのですか!?」


「いや、違う。誤解だ」


クレアは即座に訂正し、ため息をついた。


「マナは、このキシアでは『オド様』とやらの影響で信仰心がないから、活動に制限がかかっているらしい。


幼児化したようなアホっぽい発言も、その制限のせいで力が弱まっているからだと言っていた」


「……だとしたら、いいんですけど」


ポチはまだ疑わしそうに目を細めた。


「やはり、あの『どうぶつの人』は信用できません。神をたぶらかすなんて……!」


ポチはぷりぷりと怒り出してしまう。


すっかりカエデに対する『邪悪な生き物』という偏見が定着してしまったようだ。


そんな神殿での騒がしいやり取りなどお構いなしに。


ベッドの上のはじめは、静かな寝息を立てながら、ただひたすらに深い深い眠りにつき続けていた。

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