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過去からの解放と、まどろみ

魔法陣が眩い光に包まれ、次の瞬間、はじめの視界が現実世界へと強引に引き戻された。


「ぐっ……あぁ……っ!」


意識が戻った直後、全身に叩きつけられるような疲労感と、骨の髄まで響く激痛が駆け巡った。


冷や汗が一気に吹き出し、はじめは力なくその場に崩れ落ちる。


「はじめさん! はじめさん!! よかった……本当によかったぁ……っ!」


温かい感触が、はじめの胸に飛び込んできた。


ポチだった。


彼女ははじめの胸元に顔を埋め、声を上げて泣きじゃくっている。


泣き腫らしたその顔はぐちゃぐちゃに濡れ、かつての気高い守護龍の面影はどこにもなかった。


「……無事生還できたようだな。信じていたぞ」


クレアが肩から力を抜き、安堵の表情を見せた。


ポチがはじめにしがみついて泣いていると、ポチの背中がふわりと揺らぎ、人の顔がついた『大きな人魂』のようなものが、ぬるりと這い出てきた。


「!」


クレアが反射的に身構えるが、ポチが涙目でそれを静止した。


「……待ってください。アレは……私に忌まわしい名前をつけた『ひろふみ』の、今の姿だと思います」


はじめは朦朧とする意識の中で、その人魂を眺めた。


茄子のヘタのような奇妙な髪型、おでこが広く二重アゴが目立つ、いかにも不遜そうな中年男の顔。


(……なんだか、いらじを人間にしたら、あんな感じの顔になりそうだなぁ……)


はじめはそんな呑気なことをぼんやりと考えた。


ひろふみという男の怨念か、あるいは執着か。


人魂ははじめ達に構うこともなく、ゆっくりと、風船が浮き上がるように空の彼方へと消えていった。


「怪我はないか? 儀式の最中、随分と血を吐いていたようだが……」


クレアが懸念を口にする。


「……精神世界でエアリアルに、だいぶ痛めつけられたからな……。全身が痛い……」


はじめが掠れた声で答えると、クレアは眉をひそめた。


「エアリアルと対峙したのか……! それほど過酷な儀式だったとは。よく生きて戻ってきてくれた」


ポチはようやく泣き止んだが、まだしゃくりが止まらず、呼吸が整っていない。


それでも、はじめを見つめるその瞳には、深い安らぎと感謝が浮かんでいた。


「よかった……本当に、よかった……」


「動けるか? 肩を貸そう」


クレアがはじめの腕を引こうとしたが、はじめは静かに首を振った。


「……ちょっと悪いんだけど。……強烈な眠気が来てて、立てそうにないや」


はじめの言葉に、ポチは優しく微笑むと、はじめの頭をそっと撫でた。


「ゆっくり、休んでくださいね。……もう、何も心配いりません」


その柔らかな手つきと温もりに、はじめの意識は急速に遠のいていく。


儀式の重圧から解放され、心身ともに限界を迎えたはじめは、安心して深い眠りへと落ちていくのだった。

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