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アンナの微笑みと、奇跡の絵筆

燃え盛る炎の音も、エアリアルが放つ絶望的な魔力の波動も、すべてが遠のいていく。


エアリアルが巨大な魔槍を振り下ろそうとしたその瞬間、はじめの周囲だけ、まるで時間が完全に停止したかのような不思議な感覚に包まれていた。


「どう? あなたの『やりたい事』は見つかった?」


隣に立つアンナが、穏やかで涼やかな瞳ではじめを見下ろして聞いてきた。


「やりたい、事……?」


はじめは戸惑いながらアンナを見上げた。


さっき、意識の底に沈みかけた時も、声だけの何者かに同じような事を問われた。


だが、意味がまったく分からなかった。


(この絶体絶命の窮地と、俺のやりたい事に、一体なんの関係があるんだ……?)


生きるか死ぬかの瀬戸際で、なぜ将来の夢のような事を語らなければならないのか。


「それがどんなに些細な事でも、子供っぽい事でも。


……それを自分で否定したり、バカにしたりしてはダメよ」


アンナは、はじめの内心の葛藤を見透かしたように優しく言った。


はじめは、まだ質問の真意を掴みきれずにいた。


しかし、先ほどの混濁した意識の中で見た情景が、ふと脳裏に蘇る。


――「はじめちゃんは絵が上手ね~。将来は画家さんになるのかな?」


そういえば、子供の頃の俺は、絵を描くのがとても好きだった。


来る日も来る日も、夢中になって画用紙に色を塗っていた。


いつから絵を描かなくなったのか、はっきりとは覚えていない。


だが、妹の具合が悪くなり、家族がそれどころではなくなってからは、一切筆を持つことは無くなった事だけは、はっきりと覚えている。


家族のために、親父を助けるために。


そんな使命感だけでここまで走ってきた。


でも、もし『俺自身』が本当にやりたい事は何かと聞かれたら。


「……やりたい事……。俺は、絵を描く事、かもしれない」


はじめは、自分の口から出たその言葉に戸惑いながらも、アンナに向かって正直に答えた。


「そう……」


アンナは満足そうに、そしてとても優しく微笑んだ。


次の瞬間、アンナの身体が眩いほど激しく光り出し、はじめの懐に入っていた『鍵』へと吸い込まれるように融合していった。


「なっ……!?」


はじめが驚く間もなく、鍵の形がぐにゃりと変わり始める。


さらに、アリスから受け取っていたもう一つの鍵も光を帯びて浮かび上がり、アンナと融合した鍵と一つに合わさった。


強烈な光が収まった後、はじめの手に握られていたのは、剣でも盾でもなく――見慣れぬ不思議な形をした、一本の立派な『絵筆』だった。


その絵筆を握った瞬間、全身の細胞が歓喜の声を上げるような感覚が走った。


あれほど限界を迎えて疲弊しきっていた体力も、エアリアルから受けた致命的な傷も、幻であったかのように完全に治癒している。


それどころか、今まで感じたことのないような力が、体の奥底からとめどなく満ち溢れてきていた。


「なんだ、これは……!?」


はじめは自分の身体と、手に握られた絵筆を交互に見つめ、信じられない思いで驚愕した。


『この世界は精神世界……物理法則とは異なることわりで動いている世界。


だから、こうして私とも会話できた。驚く事はないわ』


目の前から姿を消したアンナの声が、はじめの心の中に直接、温かく語りかけてきた。


『さぁ……。あなたの過去と、決着をつけましょう……』


アンナの静かな囁きが心に響いたその時、止まっていた時間が再び動き出した。


目の前には、巨大な魔槍を振り下ろそうとするエアリアルの姿。


だが、はじめの瞳にはもう、かつての怯えや絶望は一切無かった。


不思議な絵筆を力強く握りしめ、かつての強敵を真っ直ぐに見据えた

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