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魔槍の強襲と、左腕の加護

立ちすくむはじめの姿に、実家の前に佇んでいた人影がゆっくりと振り返った。


「おや……。こんなところにいたのですか、少年」


『魔槍エアリアル』


その口調はあくまで紳士的で、礼儀正しい振る舞いだった。


しかし、その細められた瞳の奥には、路傍の石ころを見るような、明確にはじめを見下す冷酷な光が宿っていた。


かつて味わったあの圧倒的なまでの死の恐怖が蘇る。


はじめはガクガクと震える膝を必死に堪え、強気な態度を作って声を張り上げた。


「こ、ここになんの用だ……!」


「何……私の仲間のメス犬がチンタラとしていて、いつまでたっても『鍵』を持ち帰らないからね。痺れを切らして、直々に私が取りに来たのさ」


エアリアルは、言葉の節々に絶対的な余裕と不敵な態度を見せ隠れさせながら、薄く笑った。


(戦っても、絶対に勝てない相手だ……!)


はじめの頭の中で、生存本能が警鐘を鳴らし続ける。


イオリの助けもないこの状況で、まともにやり合えば一瞬で殺される。


はじめは震える手を伸ばし、懐から『鍵』を取り出した。


「……これを渡せば、妹や家族には手出しをしないと誓うか?」


はじめが必死の交渉を持ちかける。


「ええ、いいでしょう。約束しよう」


エアリアルは満足げに頷き、はじめの持つ鍵に向かって手を伸ばした。


(これで、切り抜けるしかない……!)


はじめは目を伏せ、鍵を差し出した。


しかし――次の瞬間。


エアリアルが受け取ろうとした鍵は、まるで幻影のように、彼女の手をするりとすり抜けた


「……ん?」


先程までエアリアルの顔に張り付いていた余裕の笑みが、一瞬にして消え去った。


代わりに浮かび上がったのは、自らのプライドを泥で塗られたような、どす黒い『怒り』の表情だった。


「……小僧? これは一体、なんの真似だ?」


地を這うような低く冷たい声が響く。


「え……? いや、これは……」


はじめ自身にも何が起きたのか分からず、答えに詰まった。


儀式によって作られた精神世界だから生じた現象なのかもしれない。


しかし、そんな事情をエアリアルが知る由もない。


「答えられないか。なんの真似だと聞いている!!」


激昂したエアリアルが右手を天に掲げた。


その掌から凄まじい熱量を持った巨大な火球がほとばしり、背後にあるはじめの実家へと容赦なく放たれた。


「あっ……!」


ズドォォォォンッ!!


爆音と共に、一瞬にして見慣れた我が家が真っ赤な炎に包まれる。


「私を小馬鹿にした覚悟は出来ているんだろうな」


燃え盛る炎を背に、エアリアルが身の丈ほどもある禍々しい魔槍の切っ先を、はじめの胸元へと突きつけた。


はじめは恐怖で完全に足がすくみ、一歩も動くことができない。


蛇に睨まれた蛙のように硬直するはじめに向け、エアリアルが槍を構えて大きく踏み込んだ。


「惨たらしく死ね! 小僧!!」


ドスッッ!!!


回避する間など全くなかった。


エアリアルの放った神速の槍が、はじめの心臓の位置を正確に貫き、その凄まじい威力ではじめの身体は後方へと大きく吹き飛ばされた。


「アハハハハハッ!!」


エアリアルが愉悦の表情を浮かべ、槍についた血を想像するように、長い舌で自らの唇を舐めずり回す。


……しかし。


「がはっ……、ハァッ……ハァッ……!」


はじめは、胸に焼けるような激痛を感じてはいたものの、なんとほぼ無傷の状態でゆっくりと立ち上がったのだ。


ポチの言っていた通り、直感で差し出した左腕から淡い光が漏れ出し、致命傷を防いでいた。


「……ほう。何らかの加護を受けているのか! 忌々しい!」


一撃で仕留められなかった事に苛立ったエアリアルが、さらに連続で槍の刺突を繰り出してくる。


ガキンッ! ゴッ! ドガァァンッ!!

はじめは防ぐことも躱すこともできず、ただサンドバッグのように強烈な衝撃を受け、何度も何度も地面を転がり弾き飛ばされた。


(ポチの加護がなければ、最初のひと突きで間違いなく終わっていた……!)


はじめは血の味のする唾を吐き捨て、激痛に耐えながら必死に思考を回す。


(でも、ここからどうすればいいんだ!?)


倒す事など到底不可能。


逃げる事も叶わない。


バチバチと音を立てて崩れ落ちていく燃え盛る実家を背景に、エアリアルが再び槍を構え、ジリジリとはじめへと歩み寄ってくる。


次なる、そして確実な死をもたらす追撃を仕掛けようと、魔槍が不気味な光を放ち始めた

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