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和洋折衷の魔法陣と、蘇る絶望

ポチの案内に従い、神殿と神社が融合したような施設のさらに奥深くへと進むと、開けた石造りの広場に出た。


その床には、ぼんやりと青白く発光する巨大な『魔法陣』が描かれていた。


西洋の魔術文字ルーンのような幾何学模様と、東洋の八卦や梵字のような意匠が複雑に絡み合った、これまた和洋折衷のひどく妙ちくりんなデザインである。


「ここが、儀式の場です」


ポチは魔法陣の手前で立ち止まり、振り返って静かに説明を始めた。


「この儀式では、参加する者が『過去で一番困難だった出来事』が幻影として精神世界に再現されます。


……あなたは、その過去の困難を乗り越えて今ここにいるのですから、本来であれば必ず乗り越えられるはずなのです」


ポチはそこで一度言葉を切り、不安げに目を伏せた。


「でも……儀式の中では、精神への『大きな揺り戻し』が発生します。これによって、参加者は『やっぱり自分には過去を乗り越えられない』

と錯覚させられるような、過酷な精神的重圧を受ける事になります。


そこで心が折れ、乗り越えられなかった場合……」


ポチは言葉を濁し、悲痛な顔で口をつぐんだ。


言われなくてもわかる。その時は、現実の肉体ごと『帰らぬ人』になるのだ。


「……私から、はじめさんに『加護』を授けます。手を出してください」


ポチが一歩近づき、両手を差し出した。


はじめは、右腕を出そうとして、ふと動きを止めた。


(……いや、こっちだな)


なんの根拠もないが、なぜか「そうした方がいい」という強烈な直感に従い、はじめはあえて『左腕』をポチの前に差し出した。


ポチははじめの左手を両手でそっと包み込むと、目を閉じ、その手の甲に静かに唇を落とした(キスをした)


「おっ……」


その瞬間、はじめの身体全体が温かく、そして淡い神秘的な光に包み込まれた。


加護の力が全身に行き渡っていくのを感じる。


(相手が男だとわかっていても……こんな美少女みたいな格好の奴に手の甲にキスされるのは、なんだか妙な気分になるな……)


はじめは少し顔を熱くしながら、内心複雑な感情になった。


「では、魔法陣の上へ」


ポチが目を開き、これまでになく神経を尖らせた、真剣な表情で促した。


クレアが「武運を祈る」と短く声をかけ、はじめは深く頷いて魔法陣の中央へと足を踏み入れた。


陣の中央に立つと、足元の青白い光が急激に強さを増した。


視界がぐにゃりと歪み、周囲の大理石の柱や鳥居の景色が、水彩画が溶けるように混ざり合い始める。


(過去の困難な出来事とやらが再現されるのか……俺にとっての一番の困難って、なんだ?)


はじめが光の中でぼんやりと考えていると、やがて視界がクリアになり、足元に土の感触が戻ってきた。


完全に景色が切り替わった。


そこは、キシアの夜の神殿ではない。


青空が広がる昼間の光景。目の前には、見慣れた木造の家があった。


「おぉ……」


はじめは思わず声を出した。


そこは間違いなく、クロベキアにある『実家』だったのだ。


まるで本当に故郷へ帰ってきたかのような、変な感動と郷愁を覚える。


だが、その感動は一瞬で凍りついた。


実家の家の前には、一人の『見覚えのある人物』が立っていた。


リフリッジでもない。


義理の母でもない。


そして、助け出そうとしている父親でもない。


そこに静かに佇んでいたのは、かつて自分たちを文字通り蹂躙し、絶対的な力の差を見せつけ、深い絶望と無力感を刻み込んだ強敵。


ERageの最高幹部の一人、**『魔槍エアリアル』**の姿だったのだ。


「…………ッ!!」


はじめの全身の毛穴が開き、心臓を鷲掴みにされたような強烈な戦慄が走った。

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