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神の不眠と、和洋折衷の祭壇

「……絶対に、そこのどうぶつの人は儀式に連れて来ないでくださいね!」


去り際、ポチはカエデを指差して強い念押しをした。


「別に興味ないからいいよーだ!」とカエデがそっぽを向くのを確認すると、ポチははじめに向き直り、「とりあえず、深夜12時に私が祀られている『龍の場所』へ来てください」と言い残して、人混みの中へと消えていった。


「あーあ。あんな生意気な子には、美味しいおいもを見つけても絶対に分けてあげないんだから!」


ポチの姿が見えなくなってから、カエデがぷりぷりと怒りながら不満を口にした。


一行はアリスの屋敷ではなく、クレアが町の中心部に借りた古びたホテルの一室へと戻った。


アリスの屋敷は監視の目(すでいらじ等)が多く、元幹部のクレアとしては独立した拠点の方が動きやすいと判断したのだ。


深夜の儀式に向けての打ち合わせが、薄暗いランプの光の下で行われた。


「私は儀式そのものには参加できないが、何かあった時のための連絡役、あるいは護衛として同行しよう」


クレアが冷静に引き受けてくれた。


はじめとしても、命がけの儀式に一人で向かうよりは心強い。


一方、カエデの扱いに頭を悩ませていたところ、マナが手を挙げた。


「あの龍の子とカエデちゃんが顔を合わせるとややこしくなるのが目に見えてるから、私が残るわ。今夜は夢の領域には行かずに、ここでカエデちゃんを見張っておく」


「お前、寝なくても大丈夫なのか?」


はじめがマナの体調を気遣って尋ねる。


「私は神様だからね。食っちゃ寝しなくても平気なのよ」


マナは得意げにフフンと笑った。


「人間であるあなた達を混乱させないために、あえて同じような生活リズムに合わせてるようなもんだからね」


「えーっ!」


横で聞いていたカエデが、信じられないものを見るような目でマナを見た。


「そんな生活、絶対つまらないよ! ちゃんと美味しいものを食べて、ぐっすり寝るのが一番の幸せなのにー!」


「まぁ価値観は人それぞれだけど……。とにかく、私が見ているから安心して、その改名儀式とやらに行ってきなさい」


マナは自分の小さな胸をポンと叩いて請け負った。


「わかった。カエデ、お前は絶対に変な気を起こすなよ。大人しく寝てろ」


はじめが念を押すように注意する。


「わかってるよー! あんな生意気な子のところなんか、頼まれたって行かないんだから!」


カエデはホテルのベッドにダイブし、ふてくされたように毛布を被った。


時は過ぎ、深夜12時少し前。


はじめとクレアは、ポチが指定した『龍の場所』へと到着した。


そこは、キシアの辺境の町にあるとは思えない、摩訶不思議な空間だった。


大理石でできた西洋の神殿のような荘厳な柱が立ち並んでいるかと思えば、その奥には立派な木造の鳥居や注連縄しめなわが飾られた、和風の神社のようなやしろが鎮座している。


二つの全く異なる文化が、チグハグに、しかし奇妙な調和を保って融合していたのだ。


「ここが龍の場所か……? なんだか、妙ちくりんな場所だな」


はじめは周囲の和洋折衷な建造物を見回しながら、困惑したように呟いた。


「油断するな。何が起こるか分からない、気を引き締めていけ」


クレアが静かに腰の剣に手を添え、鋭い視線で周囲を警戒する。


その時、静寂に包まれた神殿の奥から、鈴を転がすような澄んだ声が響いた。


「――お待ちしておりました。どうぞ、こちらへ」


声の主が現れた瞬間、はじめは息を呑んだ。


月明かりに照らされて歩み出てきたポチは、昼間のフリル服とは全く異なる、幻想的かつ神聖な雰囲気を纏う『女神のような衣装』を身に纏っていた。


薄絹の羽衣が夜風にふわりと揺れ、その姿は性別を超越した神秘的な美しさを放っている。


(……いや、男なんだけどな)


はじめは頭の片隅で冷静なツッコミを入れつつも、その圧倒的な存在感に目を奪われるのだった。

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