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因果の糸と、守護龍の願い

アリスの屋敷から旅立とうとしたはじめ達を、路地裏から現れたフリル姿の龍の少女が呼び止めた。


「あの……突然ですが、あなたは**『因果』**って信じますか?」


彼女は自分でも恥ずかしい事を言っている自覚があるのか、フリルの下から覗く丸みを帯びた耳まで真っ赤に染め上げて、モジモジとしながらはじめを見上げた。


その初々しい様子を見たカエデが、はじめの背後にスッと回り込み、ジト目で小声で囁いた。


「……この、ケダモノ」


「はぁ!?」


はじめが理不尽な罵倒に抗議しようとしたが、それよりも早く、顔を真っ赤にした少女がカエデに向かってピシャリと言い放った。


「そこの『どうぶつの人』は、話がややこしくなるから口を出さないでください!」


「ええーっ!? なんでまた私が悪いことになるのー!?」


カエデが不満を爆発させて騒ぎ出したが、これ以上揉め事になるのを避けるため、マナが「はいはい、こっちおいで」とカエデの首根っこを掴んでズルズルと引き離していった。


(因果、か……)


はじめはカエデの騒ぎを横目に、その単語を反芻した。


そういえば、マナの奴にも「因果の手伝い」と称して無理やりあの狂気の儀式に付き合わされたのだった。


その瞬間、はじめの脳裏に、油出ヌルヌルになり、黒光りした肉体美を持つ白天狗の熱烈なウィンクが鮮明にフラッシュバックした。


「うおぉぉっ!!」


はじめは身の毛がよだつ悪寒を振り払うように、首をブンブンと激しく左右に振った。


「あっ……ど、どうかされましたか? やっぱり、突然こんな変な事言われても困りますよね……」


首を振りまくるはじめを見て、少女は自分が不審がられているのだと勘違いし、しっぽを丸めてあからさまに落ち込んでしまった。


「いや、気にしなくていい。こいつの個人的なトラウマだ。話を続けてくれて構わない」


クレアが一歩前に出て、冷静にフォローを入れた。


「『因果』とやらについて、私も知っておいた方がいいような気がするからな」

「! ありがとうございます……!」


少女はパッと顔を輝かせ、クレアに向かって深々と頭を下げた。


「とりあえず、立ち話もなんですし……そこの喫茶店にでも入りませんか?」


「提案はありがたいが、私たちは旅行者でな。諸事情があって、この国のお金を十分に用意できていないのだが……」


クレアが正直に懐事情を明かす。


「大丈夫です! 私が奢りますから、安心してください!」


胸を張って言い切る少女の言葉に、はじめは「そこまで言うならご馳走になろう」と頷き、はじめ、クレア、そして龍の少女の三人は、すぐそばにあったレトロな雰囲気の喫茶店へと足を踏み入れた。


ドアをくぐる直前、背後から「あーっ! ずるい!!」というカエデの叫び声が聞こえた気がしたが、マナが必死に口を塞いで止めてくれているようだった。


はじめはそっと目を逸らし、ドアを閉めた。


喫茶店の1番奥の、人目につかないボックス席に座る三人。


少女は席に着くなり、何やら短い呪文のようなものをつぶやいた。


すると、席の周囲の空間が微かに歪み、透明のカーテンのような障壁が張り巡らされた。


「これで、外に話し声が漏れる事はありません」


少女がホッと息をつく。


「単刀直入に聞くが、お前の言う『因果』とはなんだ?」


クレアが早速本題を切り出した。


少女は姿勢を正し、真剣な表情で語り始めた。


「因果とは……普通の人は感じ取る事もなく、自然とその流れに沿って選択していくものです。


ですが、神や精霊、あるいは強大な魔力など『特別な力を持った存在』であれば、その因果の糸に意図的に介入し、運命に変化を起こしたりする事ができるのです」


「マナも因果がどうとか言っていたが……要するに、それって『運命』みたいなものか?」


はじめが尋ねると、少女は少し困ったように微笑んだ。


「正確に説明するのは難しいですが……似たようなものと思っていただければ問題ないです」


「それで? お前はどういう因果があって、我々と接触してきたんだ?」


クレアが鋭い視線を向ける。


少女は膝の上でギュッと両手を握りしめ、意を決したように真っ直ぐにはじめ達を見た。


「実は……私の**『名前』**を変えるために、あなた達に協力をお願いしたいのです」


(……名前を変える?)


はじめはポカンとした。


「因果」という世界の真理に触れるような壮大な話から、いきなり「自分の改名手続き」という極めて個人的な頼み事にスケールダウンしたのだ。


一体、彼女のコンプレックスである「名前」と「因果」に、どういう関係があるのだろうか。


はじめは頭の中に疑問符をいくつも浮かべた

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