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強制的な儀式と、茄子の餞別

夜が明け、キシアの冷たい空気が町を包む中、一行はアリスの屋敷で旅立ちの準備を整えていた。


「私はここでお別れになるから、とりあえずその『儀式』とやらをやっておくれ」


アリスが荷造りを終えたマナに向かって、事もなげに頼み込んだ。


「えっ、儀式ってなんぞやー?」


その単語を聞きつけたカエデが、目を輝かせて興味津々でやってきた。


カエデが騒いでいるのが気になったのか、クレアも静かに二人の後ろへと歩み寄る。


「(とりあえず、信者は多い方がいいよね……)」


マナは一人でこっそり納得し、コクリと頷いた。


その様子を見ていたはじめが、横から口を挟む。


「お前、信者が欲しいなら自分から『信者になってくれ』って頼めばよかっただろ」


「まぁ……私、一応神様なんだから。自分から『信者になって』ってすがるみたいに頼むのも変だし……」


マナが少しバツが悪そうに視線を逸らす。


「リフリッジの時は、自分から思いっきり提案してただろうが」


「うるさいわね! そんな細かい事をいちいち覚えてなくていいから!!」


痛いところを突かれたマナが、顔を真っ赤にして必死に言い訳をした。


「私から言い出したものの……こんなのの信者になって、果たして得する事があるのかねぇ」


アリスがマナの威厳のなさを前に、呆れたようにため息をついた。


「そこ、うるさい! もう、めんどくさいからみんなまとめて信者になーれ!!」


半ばヤケクソ気味になったマナが、空間から取り出した杖を振り回し、空中に光る陣を素早く描いた。


次の瞬間、マナの杖の先から放たれた光が三つに分かれ、アリス、クレア、そしてカエデの胸元へと吸い込まれるように入っていった。


すでに入信済みであるはじめには、特に何事も起こらなかった。


「おおーっ! ……って、あれ? これで終わり?」


光を浴びたカエデが、自分の体をペタペタと触りながら拍子抜けしたように首を傾げる。


「よく分からないが……これでマナは満足なのか?」


クレアも自身の掌を見つめながら、不思議そうに呟いた。


一方のアリスは、静かに目を閉じて自身の内側に意識を向けていた。


「まぁ……なんとなく、繋がりはわかったよ。


こちらから何か言う事があれば、遠慮なくコキ使わせてもらうよ。クックック」


「……神様をコキ使うって発想がナチュラルに出てくるのが怖いわ」


不敵に笑うアリスを見て、マナが本気で少し引いていた。


ドタバタとした儀式も無事に終わり、ついにアリスの屋敷から旅立つ時がやってきた。


手入れの行き届いた屋敷の庭に出ると、アリスは肩をすくめて笑った。


「なんだか、あんた達とはこれで別れるような気がしないねぇ」


「お前が作ってくれた旅券、道中で有効に活用させてもらう。恩に着る」


クレアが真摯な表情で礼を言う。


「保存食、いーっぱい貰っちゃった! ありがとうね、アリスちゃん!」


カエデがパンパンに膨らんだ空間収納を叩いて満面の笑みを浮かべる。


「私も、さっきよりも少し身体が軽くなったわ。……ありがとう」


信者が増えたことでキシアでの制限が少し緩和されたのか、マナも素直に感謝を述べた。


「それじゃあ、行くか」


はじめが周りを見て、門へ向かって歩き出そうとしたその時だった。


『ブゥゥゥゥン!!』


庭の隅に待機していた巨大な茄子・いらじが、突如として大きな声を上げた。


「おっと、そうだった。あんたに『鍵』を渡す約束だったね」


アリスが思い出したように手を打つと、いらじは「ブゥン!」と短く返事をした。


アリスは懐をゴソゴソと探り、鍵を取り出してはじめに渡した。


「いらじ……。お前、あの時の約束をちゃんと覚えててくれたんだな」


散々敵対視されていたはじめだったが、その義理堅さに少し感心し、いらじの巨体へと無防備に近寄っていった。


その瞬間。


『ブゥン!!!』


いらじの太い腕が目にも留まらぬ速さで振り抜かれ、はじめの頬に強烈なストレートパンチがクリーンヒットした。


「ぐほぉっ!?」


はじめはカエルのような無様な声を上げ、庭の芝生の上を勢いよく吹き飛ばされて転がった。


「『餞別せんべつだ、遠慮なく取っておけ』だってさ。クックック」


アリスがいらじの言葉を腹を抱えながら通訳する。


(……コイツにちょっとでも情けをかけた、俺がバカだった)


土まみれになりながらフラフラと立ち上がったはじめは、いらじに対する一切の感傷を捨て去った。


騒がしい別れを終え、はじめ達はアリスの屋敷を後にし、キシアの大通りへと歩き出した。


しかし、その直後。


「ま、待ってください……!」


路地裏の影から、昨日のフリルを纏った龍の少女が、おずおずとはじめ達を呼び止めてきたのだった。


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