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青い手帳と、ニール鉱山への道

アリスの案内で通された屋敷の食堂は、辺境の町とは思えないほど豪華な造りだった。


大きなテーブルの席につくと、小型の茄子ゴーレム『すでいらじ』たちが、自分たちの背丈ほどもある豪勢な料理の皿を次々と器用に運んできた。


しかし、はじめに対する強烈な敵対心は完全には隠しきれないのか、他のメンバーにはスムーズに配膳するくせに、はじめの前に来た時だけ「ギギ……ブゥン」と音を鳴らし、ひどくぎこちない動きで皿をドンッと乱暴に置いていく。


テーブルに並べられた料理はどれも非常に美味しそうだったが、はじめは皿を前に腕を組んで目を細めた。


「……なぁ。これ、こいつらの恨みで毒でも入れられてはいないだろうな?」


「もう、そんな事ないってば! じゃあ私が毒見してあげる!」


隣に座っていたカエデが待ってましたとばかりに身を乗り出し、はじめの料理をバクバクと食べ始めた。


「あっ、おい!」


「んぐんぐ……うん、大丈夫! 毒入ってないよ!」


カエデは満面の笑みで、ぐちゃぐちゃに食い散らかされた汚い食べ残しの皿をドンとはじめの前に返した。


「いや……もういらない」


はじめはげっそりとして、その残飯を拒否した。


「仕方ない。私のを少しやろう」


見かねたクレアが、自身の皿から手付かずの料理をいくつか取り分けてくれた。


「私も、今の状態じゃそんなにたくさん食べられないから。これ、あげるわ」


マナも呆れながら、自分の料理を少し分けてはじめの皿に乗せてくれた。


「くちゃくちゃ……すばらしい友情ダネ!」


まだ口の中に料理を詰め込んだままのカエデが、咀嚼音を鳴らしながら能天気に笑う。


「はぁ……」


はじめは本日何度目かわからない深いため息をつきながら、分けてもらった料理を口に運んだ。


食後。


アリスが懐から一冊の『青い手帳』を取り出し、テーブルの上ではじめ達に向けてスッと差し出した。


「これは……?」


クレアが手帳を手に取り、中身を確認する。


「私の方で偽造しておいた、キシアの旅券パスポートさ」


アリスは紅茶のカップを傾けながら答えた。


「キシアの公共機関で使われる『特殊なインク』を使って書いてある。大都市の厳重な検問でも行かない限りは、これでどこでも切り抜けられるはずさ」


アリスの説明によると、キシアの町の入り口には警備兵と一緒に、インクの成分をチェックする魔導装置のようなものが備え付けられているらしい。


この特殊インクで書かれていないと、偽造とみなされて即座に弾かれてしまうのだ。


そしてそのインクはキシアの国家機密であり、外部の者が簡単に入手したり作成したりすることは絶対に不可能な代物だという。


「何から何まですまないな。……本当に助かる」


クレアが真摯に頭を下げる。


「気にするな。あんた達は約束を守って私をここまで連れてきてくれたんだ、これくらいはお安い御用さ」


アリスはクックックと笑って手で制した。


「それで? あんた達の本来の目的地は何処だい? そこまでのルートを書いた地図も作ってやろう」


「『ニール鉱山』だ」とはじめが答える。「ここからどれくらいかかる?」


「ニール鉱山か……少しまってておくれ」

アリスは少し考え込むと、羊皮紙とペンを取り出し、迷いのない手つきで何やら地図のようなものを描き始めた。


しばらくして、完成した地図がはじめに手渡される。


「ここからなら、歩いてだいたい『2週間』くらいかかるね。馬車を使えばもっと速いけど、あんた達は密入国者だ。変に勘づかれても厄介だろうから、目立たないように徒歩で行く事をおすすめするよ」


「2週間か……」


はじめは頭の中で計算した。


仮面の男が提示した親父の命の期限は『3ヶ月』

クロベキアを出発してここまでの旅路で、すでに2週間ほどが経過している。


ここからさらに2週間歩いたとしても、まだ十分に時間は残されている。


「……問題はないと思う。なら、決まりだな」


「よし。とりあえず今日は、みんなこの屋敷でゆっくり休んでおくれ」


アリスが立ち上がり、すでいらじ達に片付けの指示を出した。


ふと見ると、はじめの分の料理まで食べて完全に満腹になったカエデが、テーブルに突っ伏して幸せそうに丸い耳を少しピクピクさせながら寝息を立てていた。


「では、みんなお疲れ様」


クレアがカエデをひょいと抱き抱え、寝室へと向かっていく。


皆が引き上げた後、はじめは今日出会ったあのイオリにそっくりな守護龍の事がふと気になり、片付けをしているアリスに尋ねた。


「なぁ、アリス。あの守護龍の名前、本当はなんて言うんだ?」


アリスは振り返り、肩をすくめた。


「知ってはいるけどね。あの子も、自分の名前を気にしてこんな田舎まで逃げてきたんだ。……それは、本人があんた達に話したくなった時に、直接聞いてみる事だね」


「そうか……」


はじめが納得して頷いたその時、背後からニヤニヤと笑う声が聞こえた。


「あれれ~?」


いつの間にか背後に立っていたマナが、はじめの顔を覗き込んでニヤリと笑う。


「はじめちゃん、あの龍の子のこと、そんなに気になるの~? リフリッジちゃんやイオリちゃんが聞いたら、どう思うかな~?」


「お、お前なぁ! 別にそういう意味で気になったわけじゃ……!」


マナの意地悪なからかいに、はじめが慌てて反論の声を上げる、キシアでの騒がしくも静かな夜の光景が更けていった

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