すでいらじの襲撃と、茄子の怨念
アリスの案内で到着した彼女の故郷の家は、一行の想像をはるかに超える思いのほか大きな屋敷だった。
「わぁー、すっごくおっきいお家だね!」
カエデが立派な門構えを見上げて感嘆の声を上げる。
周囲に人の気配は全くしないものの、庭の植え込みから石畳に至るまで、隅々まで行き届いた管理がされているのが素人目にもわかった。
アリスはいらじのコックピットから降りると、屋敷の重厚な扉を開け、中へと入っていった。
はじめ達もそれに続く。
しかし、薄暗いエントランスに足を踏み入れたその瞬間だった。
暗闇の中で、不気味な赤い目のようなものが無数にピカッと光った。
次の瞬間、空間に『ピーガーッ』という耳障りな音が鳴り響いた
続けて「ブゥン……!」という不気味な声と共に、暗闇から何かが一斉にはじめに向かって襲いかかってきたのだ。
「うおっ!?」
「止まれ!!」
はじめが身構えるより早く、アリスが鋭い大声を上げた。
その鶴の一声で、襲いかかってきた影たちはピタリと空中で一斉に停止し、そのままボロボロと床に転がった。
「ゴホッ……ゴホッ、ゲホッ……!」
急に大きな声を出した無理が祟ったのか、アリスは床に手をつき、ひどく苦しそうに激しく咳き込んだ。
アリスが荒い息を吐きながらパチンと指を鳴らすと、屋敷全体にパァッと明るい灯りがともった。
床には、いらじをそのまま小さくしたような『小型の茄子のゴーレム』が複数体、コロンコロンと転がっている。
「これは……外のいらじに似ているようだが」
剣の柄に手をかけていたクレアが、警戒を解かずにアリスに尋ねた。
アリスはまだ息を整えながら、口角を上げて笑った。
「いらじのプロトタイプ……『すでいらじ』さ。
こいつらも、はじめの事が大嫌いみたいだねぇ……。
侵入者と認識して、すぐに敵認定したようだ。クックック」
「いや、笑いごとじゃないんだが……!」
はじめが床に転がる小さな茄子たちを指差して抗議する。
「なるほど。それで、こいつらがこの屋敷の番人といったところか」
クレアが屋敷の清潔さに合点がいったように頷く。
「番人だけじゃない。屋敷の管理なんかも、このすでいらじがやってるよ。こんななりだが、意外と手先は器用だからねぇ。クックック」
アリスはゆっくりと立ち上がると、クレアに向き直った。
「とりあえず、はじめが敵ではないとこいつらに教え込むから、ちょっとの間、あいつを守ってやっておくれ」
「わかった。任せておけ」
クレアがはじめの前に立ち、盾となるように身構える。
アリスが再び指を鳴らすと、床に転がっていたすでいらじ達が一斉に起き上がり、すぐさまはじめを赤い目でギロリと睨みつけた。
アリスがすかさず、何やら複雑な呪文のようなものを早口で唱え始める。
再起動直後で動きが鈍いのが幸いした。
すでいらじ達は「ブゥン……」と小さな敵対音を鳴らしてはじめに飛びかかろうとしたが、すぐに動きが止まり、やがてその不気味な赤い目が、穏やかな『青色』へと変わって大人しくなった。
「よし。コレでこいつらが危害を加える事はないよ」
アリスが息をつき、呪文を解いた。
安全が確保されたのを見て、カエデが不思議そうに首を傾げる。
「ねぇ。なんで茄子のゴーレムに、はじめちゃんはこんなに嫌われてるんだろうね? 子供の頃に、茄子を食べ残しした怨念とかかな?」
「知らねぇよ! 茄子なんか食べ残した事もないよ!」
はじめが全力で濡れ衣を否定する。
マナも「さすがに茄子にそこまでの知能はないでしょ……」と苦笑いしていた。
「まぁ、何はともあれ。とりあえず食事でもして、今後の事を話そうじゃないか」
アリスがすでいらじ達に片付けを指示しながら、一行に向かって歩き出す。
「こっちだ。案内するよ」
アリスの導きにより、一行は清潔に整えられた屋敷の食堂へと案内されていくのだった。




