町の守護龍と、理不尽な濡れ衣
「その子は、この町の『守護龍』だよ」
いらじのコックピットの中から、アリスがクックックと笑いながら事もなげに爆弾発言を落とした。
「守護龍……?」
はじめが目を丸くしてオウム返しにする。
しかし、カエデは全く動じることはなかった
「そーなんだ~。ねぇ、名前はなんて言うの?」と、木の裏に隠れて震えているフリル姿の少女に気さくに尋ねた。
「この子は自分の名前にコンプレックスがあるからねぇ。言わないと思うよ、クックック」
アリスが面白そうに笑う。
その言葉通り、少女は丸みを帯びた耳をペタンと伏せ、木の裏から頬をプクッと膨らませて言い返した。
「あなたには、言いたくありませんっ!」
その一連のやり取りを見ていたはじめの脳裏に、ある可能性が過ぎった。
フリルの服、しっぽ、そして『龍』というキーワード。
クロベキアにいたイオリと、全く同じパターンだ。
「……龍ということは。やっぱり、こいつも『男』なのか……?」
はじめが恐る恐るアリスに確認する。
「そうだよ。この子も、これでも強い龍だからねぇ。クックック」
アリスの笑い声と共に確定が下された瞬間、カエデがサッと顔をしかめ、はじめの方をジロリと見た。
そして、木の裏の守護龍(男の娘)に向かって大声で忠告した。
「気をつけて! あの男に何か変なことされそうになっても、絶対に断ってね!」
「…………」
マナが両手を頭の後ろで組み、「あーあ。またカエデちゃんがうるさくなりそうねぇ……」と呆れたように天を仰いだ。
すると、木の裏の守護龍が、カエデに向かってピシャリと正論を言い放った。
「いきなり見ず知らずの私に抱きついてきたあげくに、自分のお友達の悪口を言うような人には、絶対に名前を教えたくありません!」
「うー……悪いのははじめちゃんなのに」
カエデは納得がいかない様子で、ジロッと恨めしそうな目をはじめに向けてきた。
(今のこの流れで、なんで俺が悪くなるんだよ!!)
はじめは心の中で全力のツッコミを入れたが、もはや口に出して訂正する気力すら湧かなかった。
隣では、マナが「うんうん、理不尽だよね、わかるよ」といった同情の顔をして、はじめの腰をポンポンと優しく叩いている。
「はぁ……」
はじめは深く、深いため息をついた。
「お前たちは、本当にいつもどこへ行っても何かしらの騒ぎを起こすな……」
半ば呆れ果てた口調で、クレアがこめかみを押さえた。
カエデの奇行のせいで完全に警戒モードに入ってしまった不機嫌な守護龍を、マナが「ごめんねー、あの子ちょっと悪気はないんだけど変わってるだけだから」と苦笑いしながら宥めている。
「まあ、とりあえず今日はもう遅い。立ち話もなんだし、私の家に泊まっていっておくれ」
アリスが提案し、いらじのハッチを閉めた。
キシアに到着して初めての町。
色濃い疲労と相変わらずのトラブルの気配を抱えながら、一行はアリスの案内で彼女の家へと向かって歩き出すのだった。




