城壁の町と、イオリに似た少女
そびえ立つ巨大な防壁に囲まれた、アリスの故郷である町の入り口へと到着した一行。
巨大な門のアーチ、その壁と壁の間の空間には、海上での国境線で見たような『青い光の線』が、蜘蛛の巣のように幾重にも張り巡らされていた。
「警備の人間に許可を取らずにあの線に触れると、大音量で警報が鳴る仕組みになってるんだよ」
いらじのコックピットから顔を出したアリスが、事もなげに言う。
「キシアの町は、どこもみんなこんな感じなのか?」とはじめが呆れたように壁を見上げる。
「まぁね。ここは辺境の田舎町だから警備はこれでも薄い方だけど、大都市に行けば重武装の軍人や強固な魔法兵器が常に護衛していて、魔物や不審者が来たらすぐに迎撃できるようになってるところもあるよ」
そんなキシアの厳重な警戒態勢について話していると、門の奥から、ふぁあっと眠そうに欠伸をしている警備の男が気怠げに近づいてきた。
「……この町になんの用だ」
アリスはコックピットから身を乗り出し、懐から『赤い色の手帳』を取り出して警備の男に手渡した。
手帳を不思議な機械に入れる警備の男、問題のないことを確認した後、手帳の中身を確認した警備員は、「あぁ……アリスか。この町の人間だったな」
と納得したように頷き、はじめ達に視線を移した。
「そっちの連中は?」
「ただの旅行者だよ。私が帰郷するのを手伝ってくれたんだ」
アリスがサラリと嘘をつく。
警備員は面倒くさそうにはじめ達を一瞥した後、
「……そうか。入ってよし」と短く許可を出した。
すると、入り口を塞いでいた青い光の線が、スッと音もなく空間に溶けるように消え去った。
無事に町の中へと足を踏み入れた一行。
周囲の建物の造りや人々の様子を油断なく観察していたクレアが、ポツリとこぼした。
「……この調子だと、ここから先、他の町へ移動したり入ったりするのも相当難儀になりそうだな」
身分証がなければ、町に入ることも補給をすることもできない。
だが、アリスは喉の奥で「クックック」と笑った。
「そこは私に考えがあるよ。ここまで送り届けてもらった、今まで世話になった礼もあるしね」
「おおーっ! なんか見たことない建物がいっぱいあるー!」
カエデは初めて見るキシアの町の風景や、道行く人々の服装が珍しいのか、キョロキョロと忙しなく首を動かして目を輝かせている。
一方、はじめは空を塞ぐような高い壁を見上げて、深いため息をついた。
「こんな高い壁に囲まれて毎日生活してるなんて……俺だったら、息が詰まって気分がおかしくなりそうだ」
「私もそう思ったからね。広い外の世界を見るために、クロベキアの調査員になるべく色々と努力したのさ」
アリスが自嘲するように笑って答えた。
その時だった。
「あ~っ!!」
突然、カエデが町中に響き渡るような大声を上げた。
直後。
「キャーッ!!」
という、可愛らしい少女の悲鳴が路地から上がった。
はじめ達が驚いて悲鳴の方へ視線を向けると、そこにはカエデに背後からガッチリと抱きつかれている一人の少女の姿があった。
たっぷりのフリルやレースがあしらわれた可愛らしい服を身に纏い、腰からは立派な『しっぽ』が生えている。
「な、なんですか!? 離してください!」
少女が必死にもがく。
「イオリちゃん! いつの間にこっちの国に来てたの~?」
カエデが全く悪びれる様子もなく、無邪気な声でスリスリと頬擦りをする。クロベキアで別れたイオリと完全に勘違いしているようだ。
「私は、イオリとか言う人じゃありませんっ!!」
少女は力一杯カエデの腕を振りほどくと、ダダダッと駆け出し、近くの街路樹の太い幹の裏へと隠れてしまった。
「なんですか! なんなんですか、あなたは!」
街路樹から半分だけ顔を覗かせた少女は、恐怖でブルブルと震えている。
怯えて伏せられた丸みを帯びた耳と、フリルの下から覗くしっぽも小刻みに揺れていた。
(確かに、パッと見の雰囲気やしっぽの感じはイオリそっくりだが……よく見ると顔の作りが少し違うな。別人だ)
カエデの突然の奇行と、震えるイオリそっくりの少女。
呆気にとられるはじめ達をよそに、アリスはコックピットからその少女を見下ろし、意地悪く口角を上げた。
「おや……さっそく見つけたようだね。クックック」




