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カエデの説教と、青春の握手

快適な神の空間から現実のキシアの大地へと帰還した一行。


冷たい朝の空気を吸い込みながら、カエデが大きく背伸びをした。


「いやー、あのベッドすっごく良かったねぇ。毎日あそこで寝たいなー」


カエデの無邪気な感想に、クレアも「同感だ」と静かに頷いた。


野営の疲れを微塵も感じさせないスッキリとした顔つきになっている。


いらじのコックピットにいるアリスは、自身の懐から手帳を取り出し、夢の中で書きなぐった文字が無事に残っているのを確認して、心底安堵したように息を吐いていた。


一方、マナはいつものちんちくりんな子供の姿に戻っていた。


はじめは昨日の夢の空間での追いかけっこで、結局大人の姿のマナに追いつくことはできなかった。


図星を突かれてからかわれた事は確かに腹立たしいが、これから敵国キシアを旅する上で、いつまでもあんなくだらない事で怒り続けていても仕方がない。


はじめはそう自分に言い聞かせ、一応怒りを収める事にした。


しかし、やはり気まずさは拭えず、はじめは無意識のうちにマナと目を合わせないように避けていた。


「あれー?」


そんな二人の微妙な距離感に、カエデが首を傾げた。


「二人とも、どうかしたの? 喧嘩でもしたのー?」


(相変わらず、デリカシーってもんがない奴だな……)


はじめが気まずそうに顔をしかめる中、マナがぽつりと口を開いた。


「まぁねー。……でも、からかいすぎた私が悪かったから。ゴメンね、はじめちゃん」


マナは素直にはじめに向かって頭を下げた。


だが、はじめのプライドと感情が完全に追いついておらず、ついムッとしたままそっぽを向いてしまった。


その態度を見た瞬間、カエデが眉を吊り上げた。


「コラ! はじめちゃん!!」


カエデがはじめの肩をガシッと掴み、強引にマナの方へと振り向かせる。


「謝ってる相手に、そんな態度とっちゃダメでしょ!」


「っ……」


無理やり向き合わされたはじめの視線の先で、マナはいつもの人を食ったような茶化す顔ではなく、ひどく真面目で申し訳なさそうな顔をしていた。


「二人とも、変なところで素直じゃないんだから! ほら、はじめちゃんもちゃんと謝って!」


カエデが母親のように説教をする。


「どうして俺が謝らなきゃいけないんだよ!」


はじめがムキになって言い返した。


自分はからかわれてキレただけだという思いがある。


しかし、カエデは一切引かず、いつになく真剣な、厳しい表情でピシャリと言い放った。


「ずっとこんな事で喧嘩するつもり!? キシアはね、仲間同士でギスギスしてるような関係のまま乗り越えられるほど、甘い場所じゃないんだよ!!」


「え……」


はじめは思わず面食らった。


いつもは食べ物のことしか考えていないような、能天気で底抜けに明るいカエデが、こんなにも真剣で大人びた表情を見せるとは思わなかったのだ。


仲間を思いやるカエデの真っ直ぐな言葉が、はじめの胸にスッと落ちた。


少しの沈黙の後。


はじめは頭を掻き、気まずそうに視線を落とした。


「……ごめん。俺も、大人げなかった」


それを聞いたカエデの表情が、パァッといつもの明るい笑顔に戻った。


「ヨシ! じゃあこれで喧嘩は終わり! ほら、二人とも握手して!」


「なんで握手なんだよ……」とはじめが呆れるが、カエデは「いいからいいから!」と強引に二人の背中を押し歩み寄らせた。


仕方なく、はじめとマナはぎこちなく手を差し出し、しっかりと握手を交わした。


「コレで、もう仲直りしたね?」


カエデが満面の笑みで二人に確認する。


はじめとマナは顔を見合わせ、少し照れくさそうにコクリと頷いた。


少し離れた場所から、クレアはその一連のやり取りを静かに見つめていた。


(青春、か……)


クレアの瞳の奥に、ほんの少しだけ羨望の光が混じる。


(私がもし、ERageの手に落ちていなければ……あんな風に仲間とぶつかり合い、笑い合うような、普通の『思い出』も作れたのだろうか……)


風に揺れる髪をかき上げ、クレアはフッと小さく自嘲気味に微笑んだ。


「何やら、綺麗に解決したようで良かったねぇ」


いらじのコックピットの中で、アリスがリラックスした様子で肩の力を抜いていた。


どうやら彼女も、はじめとマナの間のわだかまりを密かに気にしていたらしい。


朝日がキシアの荒涼とした大地を照らし始める。


くだらない意地もわだかまりも綺麗に溶けた一行は、気持ちを新たに前を向き、アリスの故郷へと向けて再び歩き出すのだった。

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