表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

103/155

夢の世界の女神と、取り憑く影

心地よい呪文の響きと共に意識が沈み、次に目を開けた時、はじめ達は白く輝く雲の上に浮かぶ神殿のような『夢の世界』に立っていた。


「さあ、ゆっくり休んでちょうだい!」


声のする方を見上げると、そこにはいつもの子供の姿ではなく、豊満なプロポーションと神秘的なオーラを纏った『真の女神の姿』のマナが立っていた。


空間には全員分のふかふかのベッドが用意されており、マナは腕を組んで非常に得意げな顔をしている。


「わぁー、すっごくふかふか!」


カエデがさっそくベッドにダイブし、その柔らかさを確認して目を輝かせた。


「マナちゃんは、いつもこんないいベッドで寝てるんだねぇ」


「まぁ……神様だからね!」


マナがフッと鼻で笑い、さらに得意げなドヤ顔を見せつける。


その傍らで、クレアは神の奇跡を前にしても相変わらず冷静な表情を崩さず、静かにベッドの感触を確かめていた。


「……いちいち得意げになってて、なんかウゼェな」


はじめが、呆れたような辛辣な言葉を投げかける。


マナははじめの方を一瞬チラリと見て、ふっと余裕の笑みを浮かべた。


「まぁまぁ。下々の者の嫉妬を一身に受けるのも、寛大な神様の役目だからね」


「あ?」


はじめの眉間にシワが寄り、さらにイラッとした表情を返す。


「ここから先のキシアの旅で、何が起こるか分からないんだから。はじめちゃんも、もう少し心に余裕を持った方がいいよ」


マナが少し上から目線で忠告する。


「うるさいな! 言われなくてもわかってるよ!」


最近のストレスも相まって、はじめは感情的に声を荒げた。


「ふーん……」


マナはニヤニヤと笑いながらはじめに顔を近づけ、小声で囁いた。


「まさか、男として自信がないから、そんなに苛立ってるの?」


そしてマナは、あろうことか挑発的な笑みを浮かべながら、手で**『卑猥なハンドサイン』**を作ってはじめの目の前で見せつけてきたのだ。


「お前なぁ……!! いい加減にしろよ!!」


完全に堪忍袋の緒が切れたはじめが、マナの胸ぐらを掴もうと勢いよく手を伸ばした――その瞬間。


ピタッ。


はじめの身体が、まるで石像になったかのように突然ピクリとも動かなくなった。


「え……?」


声を出そうと開いたはじめの口から、突如としてドス黒い煙のようなものが勢いよく吹き出し始めた。


「……やっぱりね」


マナが、何かを確信したような真剣な表情で呟く。


吹き出した黒い煙は空中で蠢き、やがて人型を形成していく。


それは、以前はじめ達がERageの拠点で見せられたホログラムに映っていた、あの**『仮面の青年』**の姿に酷似していた。


煙の青年は、夢の空間の浄化の力に当てられたのか、苦しそうに激しく悶えている。


「消えなさい」


大人のマナが冷徹な声と共に手をかざすと、眩い光が放たれ、煙の人物は悲鳴を上げる間もなく霧散して完全に消滅した。


ドサッ。


金縛りが解け、はじめがその場に膝をつく。


「ハァッ……ハァッ……。今のは……なんだったんだ?」


はじめが荒い息を吐きながらマナに問う。


不思議なことに、つい先程まで煮えくり返っていた怒りはすっかり消え失せ、心の中がスッと落ち着いていた。


「はじめちゃん、あいつの怨念みたいなものに『取り憑かれて』たのよ」


マナはいつもの口調に戻り、ペロッと舌を出した。


「だから、わざと感情を激しく揺さぶって、精神の奥底からあの幽霊みたいなのを取り出したの。煽り散らかしてごめんね?」


「……」


理屈は分かった。しかし、いくら除霊のためとはいえ、あそこまで腹立たしいやり方をされたはじめとしては、素直に「許そう」という気持ちには到底なれなかった。


「あの微かな魔力の気配に、全く気が付かなかった……」


クレアが目を見開き、驚愕の表情を浮かべていた。そして、消えた煙の痕跡を見つめながら静かに呟く。


「そうか……。あいつがはじめの父親を……」


一方、アリスは懐から手帳を取り出し、目を爛々と輝かせながら一心不乱にペンを走らせていた。


「マナ。ここから現実に出たら、この手帳に書いた記録はどうなるんだい?」


「ちゃんと物質として維持されるから、消えたりしないわよ。大丈夫」


「そうかい、それは素晴らしい……!」

アリスはホッと安心して、再び恐ろしいスピードで書きなぐる作業に戻った。


ふと見ると、カエデは騒ぎなど全く気にすることなく、すでにベッドで丸くなってぐっすりと寝息を立てていた。


「で? どうだったの?」


マナが再びはじめの前にしゃがみ込み、ニヤニヤと笑いながら顔を覗き込んだ。


「はじめちゃん、そんなに男らしさにコンプレックスがあったの?」


「…………」


はじめは顔を赤くし、無言でスッと目をそらした。


図星だったのか、ただ触れたくないだけなのかは分からない。


「あはは、ごめんごめん!」


マナはケラケラと笑いながら立ち上がると、再びはじめの目の前で、先程の**『卑猥なハンドサイン』**をこれ見よがしに見せつけた。


「てめぇ……!! 絶対に、絶対に許さん!!」


「きゃははははっ! 怒ってる怒ってるー!」


大人の女神の姿のまま子供のようにからかって逃げ回るマナと、顔を真っ赤にして本気で追いかけ回すはじめ。


神聖なはずの夢の神殿で繰り広げられる、あまりにも低レベルな追いかけっこ。


「……やれやれ」


クレアは深くため息をつき、呆れ果てた顔でその騒がしい光景を眺めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ