幼児化の危機と、有能な使い魔
アリスは空間収納からいらじを召喚し、その巨大なコックピットに乗り込むと、自身の故郷へと続く道を先導し始めた。
アリスからの伝令の役目を終えた使い魔の鳥・タッキーは、特に他にやる事もないのか、はじめ達を上空から見守るように悠々と飛んでいる。
「アイの~、キズナは~、ポンポコポ~ン♪」
カエデはご機嫌な様子で、キシアの天狗たちに教えてもらったという奇妙な歌を口ずさみながら歩いていた。
その横では、クレアがいつも通り鋭い視線を周囲に配り、淡々と油断なく足を進めている。
アリスの処置によって鍵を体内に取り込んだマナは、キシアの海岸に到着した時の死にそうな顔が嘘のように、すっかり顔色も良く元気を取り戻していた。
「いやー、アリスちゃんに治してもらう前のあの状態のままだったら、さらに『幼児化』を進めないと身体が保てないところだったよ」
マナは隣を歩くはじめを見上げて、ケロッとした顔で恐ろしいことを言った。
「そんな事が出来るのか?」とはじめが驚いて聞き返す。
「うん。ある程度の意識を保ったまま、赤ちゃんまで戻せるわよ。……だけど、そこまで戻っちゃうと、ちょっと前まで考えてた事とかもすぐに忘れちゃうから、ほとんど無力になっちゃうねー」
マナは両手を広げて、あっけらかんと語った。
「今だって大して変わらないじゃないか……。あ、赤ちゃんになったら、ただでさえうるさいのが泣き声で余計にうるさくなるのか。それは勘弁だな」
はじめが呆れたようにため息をつく。
「あのさぁ……最近、私に対して当たりが強くない?」
マナがジト目で口を尖らせる。
「誰のせいでこうなったんだよ。変態どもにサンドイッチにされた俺の身にもなってみろ」とはじめが即座に言い返した。
「なによー!」
「なんだよ!」
二人が本格的な口喧嘩を始めようとした、まさにその時だった。
ガサガサッ!
進行方向の茂みが大きく揺れ、唸り声を上げて獰猛な野生の魔物が姿を現した。
「しまった!」
はじめが声を上げる間もなかった。
上空を飛んでいたタッキーが、弾丸のような凄まじいスピードで急降下してきたかと思うと、その鋭い爪と嘴で一瞬にして魔物の急所を捉え、あっという間に片付けてしまったのだ。
瞬時の判断でクレアも腰の剣を抜いていたが、それよりもタッキーの動きの方が遥かに早かった。
「わぁーっ! タッキー、美味しそうに見えるだけじゃなくて、強いねー!」
カエデが無邪気にタッキーを褒め称える。
(こいつ……やっぱりあの鳥を食べようとしていたのか……)
少し前の出来事を思い返し、はじめは心の中で戦慄した。
「ありがとう。助かった」
剣を鞘に納め、クレアがアリスに向かって礼を言う。
「クックック……礼には及ばないよ」
いらじのコックピットの中から、アリスの余裕に満ちた笑い声が響いた。
クレアは振り返り、まだ言い合いの姿勢を崩していなかったはじめとマナに向けて軽く注意を促した。
「この辺りも魔物が出るようだからな。気を引き締めていけよ」
「ほら見ろ。いざという時に反応できないなんて、神様の形無しだな」
はじめがマナを茶化すように言うと、マナはフンッとそっぽを向いた。
「そんな性格悪いと、女の子にモテないよーだ!」
その後は、タッキーの索敵といらじの威圧感のおかげか特に魔物に襲われることもなく、一行は順調に歩を進めた。
やがて西の空が赤く染まり、徐々に辺りが暗闇に包まれ始める。
「日が暮れてきたな。今日はこの辺りで野営にしよう」
開けた安全な場所を見つけたクレアが提案し、全員がそれに了承する。
長い一日が終わり、キシアでの初めての夜が静かに更けていくのだった。




