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アリスの故郷と、再びの愛の予感

天狗たちが用意してくれた巨大なテントの寝心地は、思いのほか快適だった。


キシア上陸の最初の朝。


目覚めたクレアは、軽く肩を回しながら深く息を吐いた。


「久しぶりに、朝まで一度も目を覚まさずによく寝た……」


常に気を張っていた元ERage幹部のクレアにとって、それは何よりの休息だったのだろう。


「全くだ。こんな変態の巣窟みたいな場所なのに、意外と寝心地は良かったねぇ……」


アリスも大きく伸びをしながら同意する。


マナも、いつもの快適な夢の空間に移動して寝ていたため、スッキリとした顔で現実世界へと戻ってきていた。


しかし、一人だけ最悪の目覚めを迎えた者がいた。はじめである。


「……カエデ。これは一体、どういうことだ?」


はじめが不満そうに深いため息をつきながら指差した自身の頬には、くっきりと**『人間の歯形』**が刻み込まれていた。


「えへへ……ごめんね、はじめちゃん」


犯人であるカエデは、ペロッと舌を出して全く悪びれることなく語った。


「夢の中で、すっごく大きくて美味しそうなまんじゅうが出てきたから、思い切り噛み付いたの。そうしたら、はじめちゃんのほっぺただったみたい」


「お前の食欲は夢の中にまで干渉してくるのか……」


はじめはズキズキと痛む頬をさすりながら、呆れて肩を落とした。


「さて、これからどうする?」


クレアが表情を引き締め、今後の行動について問いかけたその時だった。


「おや……」


アリスが何かを察知したように空を見上げ、短く口笛を吹いた。


バサバサッ、という羽音と共に、どこからともなく一羽の鳥――アリスの使い魔である『タッキー』が舞い降りてきて、彼女の腕に止まった。


その脚には、小さな手紙の入った筒が結びつけられていた。


アリスは手慣れた手つきで手紙を取り出し、中身にサッと目を通すと、喉の奥で「クックック」と笑った。


「どうやら、鷹茄子歴史研究所における私の後任は、**『セラフィ』**に決まったようだねぇ」


「セラフィ?」とはじめが聞き返す。


「とっても面白い奴さ。偉い人間のコネで研究所に入ってきただけの、どうにも使えない女だったが……


無事に私の後釜に収まったらしい。まあ、扱いやすくて丁度いいよ」


アリスは意味深に笑うと、再びタッキーを上空へと放り投げた。


上空を旋回するタッキーを見上げながら、アリスは何やら「ブツブツ……」と不気味な呪文のようなものを呟き始めた。


通信の魔法か何かだろうか。


(内心、すげぇ気持ち悪いな……)


はじめは少し引き気味になりながらも、黙ってそれを見守った。


やがてタッキーが再びアリスの腕に戻ってくると、彼女は振り返って提案した。


「ここからなら、私の故郷が一番近いね。まずはそこに向かうのはどうだい? 情報収集にも丁度いい」


「私はそれで構わない」


クレアが即座に頷き、はじめも「あぁ、アリスの案内があるなら助かる」と同意した。


マナも特に問題ないという顔をしている。


ふと横を見ると、カエデがアリスの腕に止まるタッキーを見つめながら、指を咥えてよだれを垂らしていた。


(コイツ……まさかタッキーを食べようと思ってないだろうな……)とはじめは内心で戦慄したが、見なかったことにした。


出発の準備が整い、クレアが黄天狗に旅立つことを伝えると、天狗たちは総出で海岸線に集まってきた。


ピーヒョロロ……♪


黄天狗をはじめとする天狗たちが、別れを惜しむように哀愁漂う横笛の音色を響かせる。


そして時折、その美しい音色を切り裂くように、長老シュナンの**「キーーッ!!」**という甲高い猿のような鳴き声が虚空に響き渡っていた。


「みんな、バイバーイ! 美味しいご飯、ごちそうさまー!」


カエデはすっかり感慨深い顔をして、一生懸命に天狗たちへ手を振り返している。


そんなカエデの姿を見つめながら、クレアがふと口を開いた。


「彼らには世話になったな。……また国へ帰る時に、彼らのポータルを使わせてもらう事もあるだろう」


「…………ッ!!」


その言葉を聞いた瞬間。


再び白天狗と赤天狗にオイルまみれでサンドイッチにされる『愛の儀式』の記憶が蘇り、はじめの顔面は一瞬にして土気色になった。


(また帰りに……アレをやるのか……!?)


これから始まるキシアでの過酷な旅の不安よりも、帰還時の儀式への恐怖で一気に気分が底無し沼のように重くなるはじめの姿があった

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