22、魔法てまえや
悲しみには時間が必要です。でも一番必要なのは、希望です。
ママ、ママ、ママ、ママ!
うそだよね?
ママがお空にいっちゃって、もうあえないなんてうそだよね?
わたし、しんじないわ!
いつもの公園へ行けば、きっとママにあえる!
ママにあえるよね!
あれ?なんで?ここ公園だったはず。
なんだかへんなたてものがたっている。
場所はまちがえていないよね。
だって、ことはちゃんちがとなりにあるもの。
いつこんなたてものができたんだろう?
ママといつもきていた公園がかわっちゃうなんていや!
ナントカテマエヤ?
かんじがよめない。
「いらっしゃいませ」
へんなたてものから、目がぎょろぎょろしたふとった男の子がでてきた。
「まほうてまえやにようこそ。こちらへきたということは、何か悲しいことがあったのでございやすね」
まほう?
「おにいさん、まほうがつかえるの?」
「いいえ。あくまで『まほうてまえや』、まほうになる前まででございやす」
まほうがつかえるわけじゃないんだ。
「なんだ。やくにたたないお店ね」
「そんなことはないでございやす。魔法てまえやのじまんの『これからの人生地図』はすごいでございやすよ」
「なによ、それ?これからのじんせいちず?これからのじんせいってなんのこと?」
「これからはじまる未来のことでございやす」
「みらいがおもったのとおなじになるの?そうじゃなきゃ、役に立たない」
「なかなかかしこい子でございやすな」
「ばかにしているの?!」
もういらいらする。
ママがここにいてくれたら、わたしをばかにしたらおこってくれるのに。ママ。
「魔法てまえやはあくまで魔法ではないでございやすから、人生がおもいどおりになるわけではないでございやす。ただ、心が……心からかなえたいという未来を見せてくれるでございやす」
「そんなこと、今はどうでもいい!ママ、ママ、ママァ」
「おじょうさん、お母様をなくされたのですか?」
「そうよ!パパがママはお空へ行ったって!ママに会いに私もお空へ行く!」
「お空へ行くには、おじょうさんにはあと90年たりないでございやす」
「ママァ、ママァ」
「まほうでママをいきかえらせてよお」
「さすがに魔法でもそれはむりでございやす」
「まほうなんてだいっきらい」
「ここへ来たのも、おじょうさんに魔法てまえやがひつようだったから。『これからの人生地図』やってみませんか?」
「ママがいないんだったら、なにもいらない」
「まぁ、そういわずに。おじょうさんのこれからの人生を地図にするでございやす」
「わたしのこれからなんて……」
「どんな学校へ行って、結婚はするのかとか、知りたくないでございやすか?」
「でも……どうせママはいない」
「だからこそ。ママがいなくても幸せになれるかどうか知っておくとよいでございやす」
「ママがいなきゃ幸せじゃない」
「本当にそうかどうかみてみることをおすすめするでございやす。さいあく、それを見てからママのいるお空へ行くかどうか決めてもおそくないでございやす」
ごくり。
「おや?つばをのみこんだでございやすね。リラックスしてください。きっとおじょうさんにとってすてきな未来でございやすよ」
「いちばんかなえたいことがわかるの?それなら、ママにあうことだわ」
「『これからの人生地図』は心の底をうつすんでございやす。心の底はおじょうさんの心のおくのおくのおくのおく。いちばんふかいところにあるものでございやす」
「だから?」
「心からのぞむこと。それを見せられるのは、世界広しといえど『魔法てまえや』だけ」
「ふうん。じゃあ、わたしが一番したいことなの?」
「そうでございやす」
「じゃあ、やっぱり、ママにあいたい」
「人の生き死に、つまりお空にいった人とは魔法でも会えないのが定めでございやす。それを頭に入れて、じゃあ、さっそく広げてみましょう」
「ママぁ、ママぁ」
「おじょうさん、ママの姿は見えなくとも、きっとママを感じるでございやす」
「ママを?それならやる」
「なにこれ?何も書いてない茶色い紙じゃない」
「この紙の上にてをのせてほしいでございやす」
図工室っぽいにおいがする。
それにつめたい。
「こう?」
「そうでございやす」
「あっ、空中にわたしがうつってる!」
「まず一年後でございやす」
「あっわたしだ。なんでないていないで、いっしょうけんめいべんきょうしているの?」
「りっぱでございやすよ」
「今までだったらママがみてくれたのに。うええん」
「でも一年後、なかずに一人でべんきょうできている。よいことでございやすな」
「わたし、ママを忘れちゃったの?」
「次に二年後でございやす」
「えっもう?」
「おや?ママのお墓参りをして熱心に語りかけているでございやす」
「よかった。ママを忘れたわけじゃなかったんだ」
「四年後を見てみましょう。中学校が見えますね」
「あっ、ことはちゃんと同じクラスだ。うれしい」
「おおっ、それから三年後に行く高校、ここらへんで三番目に頭が良くて有名なところではないでございやせんか」
「え?一番の百合丘高校じゃないの?」
「三番目でございやす」
「そんな……私は百合丘高校がいい。だってママとパパがその高校へ行ったんだもん。わたしもそこがいい」
「まぁ、つづきを見てみるでございやす」
「ママ、ママ。どうしよう?百合丘高校じゃないよ~」
「でも、その高校へ通っているおじょうさんは楽しそうでございやすよ」
「ほんとうだ。いつもにこにこわらってる。あっ、男の子から告白されている」
「あっことはちゃんがオーディションにうかって、テレビに出ている。わたしテレビに出るアイドルとともだちでいるんだ」
「すごいでございやすな」
「わぁ、テストで一番をとっている!」
「じゅうぶん幸せでございやすな」
「けど、私がずっと行きたかった高校とはちがう」
「おじょうさん、卒業式をみてみるでございやす」
「わたし、みんなの前で発表している。『朝日高校に入って良かったです』っていっている」
「あっさとえちゃん。さとえちゃんも朝日高校なの?この前私がおなかが痛くなった時、私をおぶって保健室へいってくれた優しい子なの。ともだちになりたかったんだ。朝日高校もいいな」
「それがしんじつでございやす」
「しんじつ?」
「ほんとうのことという意味でございやす。それよか、せいせきがよいので、大学まで試験なしでいかれるでございやす」
「大学なんてよくわからないけれど、ママがいてくれたら、よろこんでくれたのに……。ママァ、ママァ」
「おもいきり、ないたほうがよいでございやす。おや?大学を卒業したら、学校の先生になるでございやすね」
「学校の先生?私の夢なの。夢がかなうの?」
「学校の先生になったら、おお、すごくせいとをだいじにする先生になるみたいでございやすな」
「わぁ、たくさんのせいとがそつぎょうしきでなきながら、ありがとうをわたしにいっている。パパから聞いたお話とおんなじだ」
「おじょうちゃんのパパは学校の先生でございやしたか」
「そうなの。すごく人気があるんだよ」
「つぎは、結婚式でございやす。結婚されるでございやすなぁ」
「パパがママの写真をもってないている」
「おあいては……」
「いい!それは見せないで」
「どうしてでございやすか?」
「だってすきな子がいるんだもん。その子じゃなかったら、ショック」
「なるほど。ではここはとばすでございやす」
「子供も生まれるでございやすね」
「えっわたし、お母さんになるの?」
「そうでございやす」
「すごい。でも……もういいや」
手を地図の上からどけたら、未来のわたしもきえた。
「どうしたでございやすか?続きをみないでございやすか?」
「もういいの」
「気にいらない未来だったでございやすか?」
「ううん。ぎゃく。うれしかった。ママの夢だったの、学校の先生になること。ママはなれなかったから、パパはすごいんだよっていつもいっていた」
「そうでございやすか。むすめであるおじょうさんもその夢をかなえるのでございやすね」
「うん。ママがいないのはすごくさみしいけど、パパがいろいろ先生のことをおしえてくれるみたいだから、きっと先生はたのしいっておもった」
「そうでございやすな」
「それとわたしがママになることもママの夢だったの」
「おじょうさんに話していた?」
「そう。こどもはたからものだって。いつか七海もこどもをうみなって」
「そうでございやしたか」
「ママ。わたしの夢、いろいろかなうよ。高校も百合丘高校じゃないけれど楽しそうで。大学にも行って。でも一番うれしいのはママの夢もかなうこと。わたし、学校の先生になるんだよ、こどももうむんだって」
なみだがでてくる。
ママが生きていたら、たぶん
「七海!さいこうじゃない!」っていう。
なみだのむこうでママがわらっている。
「わたし、お空へは行かない。ママの夢をかなえてあげるの」
「かなうといいでございやすな」
「えっ!?かなうといいってどういうこと?」
「その言葉通り、おじょうさんの夢がかなうと良いとおもっているでございやす」
「今までのうそだったの?!全部いんちき?」
「ちがうでございやす。あくまでこれは心のおくのおくの一番深い所でかなえたい夢。それをかなえるにはただ生きていくだけでなく、努力がひつようでございやす」
「どりょく?どりょくって?」
「べんきょうをしたり、家族や友達となかよくしたり、とにかく自分のできることをがんばることでございやす」
「うん、やる。そうすればかなう?」
「そうでございやす。かなうチャンスは、ものすごく大きくなるでございやす。かなえたいことはもともとおじょうさんの中にねむっている力を知っているから、そうしたいと思うのでございやす。ぜったいにかなわない夢は、「これからの人生地図」では見せないでございやすから」
「むずかしい。それってはっきりいって、かなうの?かなわないの?」
「おじょうさんしだいでございやす」
「『これからのじんせいちず』で見たことでも、どりょくしても、かなわないことってあるの?」
「あるでございやすね」
「わたし。夢をかなえられるかしら?」
「ねむっている力が見せた未来でございやす。その力は、かなえたい未来をつれてくるもの。それが魔法でない、魔法てまえやのしんこっちょうでございやす」
「しんこっちょうってなに?」
「そのものがもつすごい力といういみでございやす」
「すごい力?魔法だったらかなえてくれるのに」
「自分の力でないものでかなって、うれしいでございやすか?」
かんがえた、いっしょうけんめいかんがえた。
ママはがんばっても学校の先生になれなかった。
でもいっていたんだ。
「がんばってよかった!あの時がんばったから、塾の先生になってもしっかりした先生になれたんだから」って。
そんながんばり屋のママだもの。
わたしががんばらないで先生になってもよろこばないよね。
「そうだね。それだとちっともうれしくない。ママとわたしの夢はじぶんでかなえる!」
「それに、たとえかなわなくとも、おじょうさんには……うん、だいじょうぶでございやすね」
「そうだね。わたし、がんばる。ママの分も」
「では、魔法てまえや、これにて閉店でございやす。またのおこしはぜったいにございやせん。おじょうさん、お元気で」
「え?え?」
ぴかりとまわりが光に包まれて、わたしは目をぎゅっとつむった。
目をひらくと、そこはいつものこうえんだった。
「あれ?いつもの公園だ」
「夢?じゃなかったよね?」
目をつむると、ママのうれしそうなわらい顔がうかんでくる。
「ママ!お空から見ていて!わたし、がんばるから!」
パパがきっと心配している。
いそいでおうちにかえろう。
まだかなしい。
だけど……。
わたし、ちょっぴりさっきの「まほうてまえや」にありがとうをいいたくなった。
おわり
~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~
磯辺川寺ゆう様が感想欄にてすてきなエピローグを書いてくださいました。許可をとって、こちらに掲載させていただきます。
「よし、帰ろう。」
そう思ったその時、わたしは、さっきの「まほうてまえや」に、ありがとうを言いたくなった。
公園の真ん中。目をぎゅっと閉じた。
あの変な建物・・・そして、目がぎょろぎょろした小太りの男の子を思い浮かべる。
小さな声で、つぶやいた。
「ありがとう。」
その瞬間、どこからか、
「お元気でぇ~で、ございや~す。」
そんな声が聞こえた気がした。
びっくりして、目を開ける。
もちろん、そこには誰もいなかった。
赤く照らされたベンチと、小さく揺れるブランコが、ぽつんとたたずむだけ・・・
でも、なんだか、胸がぽかぽかした。
その時だった。
「七海ぃぃぃっ!」
遠くから、声が聞こえた。
見ると、こちらへ向かって走る男の人。
息を切らして・・・髪を乱して・・・いつも、きちんとしている服も、かなりよれている。
「パパっ。」
「七海!」
パパはわたしの前まで来ると、その場にしゃがみこんだ。
肩で息をして、顔には、汗の粒がいっぱい。
「よかった。本当によかった・・・」
パパの声が、ふるえていた。
わたしは、首をかしげた。
「パパ?」
パパは、急にわたしをぎゅっと抱きしめた。
とても強く。
「心配したんだ・・・七海が、急に家から飛び出していくから。お前までいなくなったら・・・」
パパの肩が少しふるえている。
あれ?パパ、泣いてる。
わたしは、はじめて気づいた。
悲しいのは、わたしだけじゃなかった!
パパも・・・パパも、ママがいなくなって悲しいんだ。
わたしは、パパの服を、ぎゅっとつかんだ。
「ごめんなさい」
「ううん。見つかってよかった。」
パパは、首を横に振った。
しばらく、ふたりとも何も言わなかった。
赤く染まったブランコを、風が、小さく揺らしていた。
ぎゅっと手をつないだ帰り道、わたしは、言った。
「パパっ!」
「ん?」
「わたしね・・・」
少し、言葉を探して息継ぎをする。
「・・・学校の先生になる。」
パパが、驚いた顔をした。
「先生?」
「うん。」
「そうか」
パパは少し笑った。その目には涙が光っていた。
「そうだな。七海は、きっと、いい先生になる。」
「あのね。ママの夢も、私が、かなえるの。」
「あぁ、ママも、すごく喜ぶはずだ。」
パパは、何度もうなずいてくれた。
わたしは、まだ、悲しい。とっても悲しい。きっと、明日も悲しい。次の日も、泣いちゃうかもしれない。
でも、大丈夫っ。
わたしには、夢がある。
かなえたい未来がある。
抱きしめて、手をつないでくれるパパがいる。
見守ってくれるママがいる。
夕焼けの空の向こう・・・きっと、ママが、がんばるわたしのことを見ていてくれるはずだ!
ほんとうのほんとのおわり
~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~
磯辺川寺ゆうさま、ありがとうございました!
最後までお読みくださり、ありがとうございました!




