14、みこちゃんと赤ちゃん
弟、妹がほしかったあの頃の自分を思い出します。
みこちゃんは、少しみんなからはなれた、さくらの木の下でひとりぼっちでおべんとうを食べようとしていました。
『おかあさん、わるい子はきらいだよね。お父さんがいたら、なんていうだろう?それに……もうあやかちゃんとはなかよくできないかな?』
きのうのことでした。
「みこちゃん、わたしの家であかちゃんが生まれるんだよ」
まあるいお月さまのような顔をくしゃくしゃにして、あやかちゃんはわらいました。
みこちゃんはなんだかわからないけれど、からだがいっしゅんあつくなって、おもわずこういっていました。
「うちにも、あかちゃんが生まれるんだ。」
「わぁ、すてき。じゃ、いつか四人であそべるね」
みこちゃんのむねがずきんとしました。
つぎの日、あやかちゃんのお母さんがみこちゃんのおかあさんにそのことをはなしました。
「みこちゃんにも弟さんか妹さんができるのね。たのしみですね」
「え?どういうことですか?」
みこちゃんのおかあさんは、すべてをしると、みこちゃんの目をみてききました。
「みこちゃん。どうしてうそついたの?」
みこちゃんは、そういわれると、うわ~んとなきだしました。
「だってだって、わたしだってあかちゃんがほしいもん!弟か妹がほしいもん!あやかちゃんだけずるい」
そのとき、あやかちゃんがいったのです。
「ずるくなんかないよ。わたしがいい子だったから、あかちゃんがきたってパパがいってたもん」
みこちゃんは、じぶんにはいないパパということばをきいて、よけい声をはりあげてうわ~んとなきました。
『わたしは、うそをつくわるい子だ。わるい子だから、あかちゃんがこないんだ。だから、きっとお父さんもいないんだ』
おかあさんは、みこちゃんがうそをついたのをしっても「うそはだめだよ」といったきり、いつものおかあさんでした。
でも、家にかえると、ときどきなにかをかんがえているように、だまるときがありました。
みこちゃんは、そのとき『わたしがわるい子だからかな?』とむねが苦しいのでした。
けさ、みこちゃんがかおをあらっていると、おかあさんがあわててとびこんできて、早口でいいました。
「みこちゃん。おかあさん、今日ね、かいしゃにはやくいかなきゃならなくなったの。ほいくえんまでは、おばあちゃんがきてくれるから、おばあちゃんといっしょにいってくれる?」
「うん」
おかあさんは、いそがしそうにおけしょうをしたり、きがえたりしています。
とうぜん、みこちゃんとはなすひまなどありません。
『おかあさん……』
みこちゃんは、なんだかなきそうになりました。
うそをついてから、おかあさんがとおくにいってしまったかのようにかんじていたからです。
けさのことをおもいだしながら、みこちゃんは、くらいきもちでおべんとうのふたをあけました。
ところが……
「うっわぁ!」
みこちゃんのほおが、ぷっくりとあかくなりました。
そこには、のりやチーズやたまごでつくられたみこちゃんのえがおが、ピンクのでんぶのハートでかこまれています。
そのうえ、たこさんウィンナー、はたがささったポテトサラダ、からあげ、うさぎのりんごなどみこちゃんのだいすきなものがたくさんはいっているではないですか!
こんなだいこうぶつだけのおべんとうは、うんどうかいなどとくべつな日だけです。
『おかあさん、わたしのこときらいになったわけじゃないんだ』
みこちゃんは、ほっとしてうれしくなりました。
すると、またあやかちゃんのかおがうかんできました。
『あやかちゃんととりかえっこしたいな』
そうおもい、みこちゃんは下をむきました。
こころがじんじんしています。
『でも、でも……あやかちゃんはきっとわたしのこときらいになったよね』
「みこちゃん」
そのとき、あやかちゃんがみこちゃんのうしろからこえをかけてきました。
「ここでいっしょにおべんとうたべていい?」
みこちゃんのかおがぱっとあかるくなりました。
「うん、いいよ。いっしょにたべよう」
「みこちゃん。きょうわたしのおべんとうをみてわらわないで。みこちゃんにだけならみせられるから」
「どうしたの?」
ふしぎにおもって、あやかちゃんのおべんとうをみると、コッペパンひとつだけです。
「ママ、あかちゃんがおなかにいるでしょう。そうするときもちわるいときがあるんだって。それでつくれなかったの」
みこちゃんは、じぶんのおべんとうをさしだしました。
「あやかちゃん。わけっこしてたべようよ」
あやかちゃんは、みこちゃんのおべんとうをみて、まんまるの目をさらにまんまるにして、いいました。
「わぁ、おいしそう!これ、みこちゃんのかお?かわいい!ほんとうにもらってもいいの?」
「うん。かおもおかずもはんぶんこしよう」
「ありがとう。みこちゃんはやさしいね。だからだいすき」
みこちゃんは、ただただうれしくなって、気になっていたことをいえました。
「ごめんね、あやかちゃん。うそついて」
「うん、いいよ。わたしもうそついて、ママにおこられたことあるもん」
みこちゃんとあやかちゃんは、なかよくおべんとうとコッペパンをはんぶんこしました。
おむかえのじかんです。
みこちゃんとあやかちゃんはじぶんのおかあさんをみつけると、かけあしでかけよっていきました。
あやかちゃんがおかあさんのおなかをさすっています。
みこちゃんは、それをみておかあさんのかおにじぶんのかおをくっつけて、いいました。
「おかあさん、おべんとう、とってもおしかったよ」
おかあさんもみこちゃんにぴったりかおをくっつけていいました。
「みこちゃんがよろこんでくれるのが、おかあさん、いちばんうれしい」
「どうして?」
「みこちゃんはおかあさんのいちばんのたからものだから」
そういうと、おかあさんはみこちゃんをぎゅっとしました。
すると、みこちゃんはあやかちゃんをあまりうらやましくなくなりました。
「おかあさん、あのね。うそついたこと、あやかちゃんにきちんとあやまることができたんだよ。わたし、もうわるい子じゃないよね」
「それはえらかったね。うそをついてもあやまることができるなんて、とてもよい子だよ。みこちゃんはあかちゃんがいなくても、もうりっぱなおねえさんだね。おとうさんも天国でほめているよ」
「うん」
「どんなときでもね、なにがあってもね、お母さんと天国のお父さんは、みこちゃんが一番たいせつでだいすきだからね」
そういうと、おかあさんはみこちゃんをもっとつよくだきしめました。
「え?お父さんも?」
「そう。お父さんも」
みこちゃんは、おかあさんのむねの中でいつまでもそのことばをくりかえしていました。
おわり
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