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鬼道残轍ーキドウザンテツー  作者: 団栗
序章【半鬼ノ少年】
3/13

其ノ参『堕ちる』


 ――『お前は何者だ』

 

 その言葉に鬼道丸の鼓動が跳ねた。

 

 確かに鬼道丸の中にあった魂の揺らぎ。

 まるでそれを見透かしたかのように『朧』の言葉が彼の心を抉った。


 そして、その声音は心の中に響く声と――。

 

「うが、あぁあ!!」

 

 頭を抱え、のた打ち回る鬼道丸。

 

「ぼ、ぼくは…僕…ボク…!」

 

 すでに鬼道丸の眼の半分以上が黒く変色している。

 

 黒い瘴気が全身から滲み出し、鬼道丸の気配がみるみる人ならざるものへと変わってゆく。

 

(マズいな…)

 

 ジンは悔しげに唇を噛んだ。

 

 朧の脅威が去った今。

 次なる脅威は――『鬼道丸』。


 (あの時と同じ――)


 かつて一度だけ。

 鬼道丸が鬼化したことがあった。

 

 『鬼哭封印』を破り、『鬼』と化した鬼道丸は少なくとも『上鬼格(じょうきかく)』に匹敵する力があった。

 

 ジンはひとりで鬼道丸の鬼化を鎮めた。

  

 だが、その胸元には今でも残る痛々しい傷があった。

 

 鬼道丸が――『十歳の頃の話』

 

 鬼道丸はあの頃より格段に強くなっている。

 

 もし、『今』の鬼道丸が鬼化すれば――。


 『覚悟』を決めなければいけない。

  

 じわり、と鬼道丸の体から漏れ出す黒い瘴気。


 それは霧となって空高く昇っていく。

 

「鬼道丸!正気を保て!」

 

 そう言うと、ジンは右手に淡い光を灯した。


 そのまま鬼道丸の胸に押し当てる。

 

――天道術(てんどうじゅつ)鬼哭封印(きこくふういん)】!

 

 鬼道丸の『鬼』を封じていた『鬼封術式』。

 

 それが『朧』の手によって破られた。

 違う――揺さぶられた鬼道丸の感情が身の内から強引に封印を食い破ったのだ。

 

 完全に鬼に呑み込まれる前。

 鬼道丸の鬼化を沈静化しなければならない。

 

 既存の術式が壊れる前に、ジンは急いで新たな術式を撃ち込む。

 

 だが、ジンの必死な封印術も今の鬼道丸を抑え込むことはできなかった。


 まるで底無しの奈落に落ちるような――。

 体の感覚が急激に遠のき、視界を黒い影が覆い尽くしてゆく。

 

「――し、しょ…」

 

 ジンを見上げた鬼道丸が掠れた声を絞り出す。

 

 だが、虚しくもその双眸からフッと理性の光が失せ、完全に黒く染まった。

  

 ドン――


 黒い瘴気が衝撃波となって周囲に拡がる。


 鬼道丸から噴出した瘴気の奔流。 

 呑み込まれたジンは為す(すべ)なく吹き飛ばされた。

 

 その最中、ジンは咄嗟に宙を舞う『赤い襟巻』を掴み取る。

 

 空中で身を翻し、体勢を立て直したジン。

 ザザッと地に着地すると、すぐさま鬼道丸へと視線を向けた。

 

 舞い上がった土煙の中、ゆらりと人影が立ち上がる。

 

 その背後、これまでふたりが暮らした小屋。

 これまでジンと鬼道丸が積み上げてきた『人』として生きた生活の痕跡。


 もはや見る影もない。

 木っ端微塵に吹き飛んでしまっていた。


 そんな中――

  

 血色に閃く双眸、理性の光を失った瞳が真っ直ぐにジンを見据えた。

 

 血管のように全身に巡らされた黒い紋様。 

 渦巻く濃密な黒い瘴気の中、佇む鬼道丸が放つ凄まじい圧が止めどない風圧となってジンへと襲い来る。

 

「…鬼道丸!!」

 

 短く名を叫ぶ。


「きど、う、うぅ…僕…オ、オレはぁ…」

 

 両手で頭を抱えた鬼道丸が狂ったように地面に何度も頭を打ち付ける。


 その姿はまるで――

 必死に抵抗しているようにも見えた。

 

 かすかに自我が残っているのか――。

 

 額が裂け、周囲に血が飛び散る。

 だが、鬼道丸が止める気配はない。

 

「止せ!また俺に――」

 

 そこまで言い掛け、ジンはぐっと口を噤んだ。


 続く言葉を咄嗟に飲み込む。 

 ジンは縋る思いで『鬼』に抗う鬼道丸を見詰めた。

 

 だが、そのわずかな希望もすぐに潰える。

  

 突如として動きを止めた鬼道丸。


 次に彼が顔を上げた時、もはやそこに鬼道丸の面影はなかった。

 

「――『鬼』!」

 

 見開かれた鬼道丸の双眸は完全な『鬼眼』。

 

 覚醒した彼の声音はいつものそれとは全くの別物――濃密な殺気を宿した禍々しい気配が渦巻いた。


 ぐっと奥歯を噛み締めたジン。

 覚悟を決め、おもむろにその場で身構えた。


 瞬間――


 這うように地を駆けた鬼道丸。


 瞬く間に――ジンとの間合いを詰める。

 

 その動きに、これまで積み上げてきた『人』としての技の研鑽はない。


 その体を支配するのはただ身の内から溢れ出る殺戮本能。

 『鬼』と化した鬼道丸は獣のように容赦なくジンへと襲い掛かった。

 

「さっきの続きしょうぜぇ!?」

 

 狂気の笑みを浮かべた鬼道丸。

 右腕に瘴気を纏わせ、己の腕を鋭利な刃と化す。

 

一本()()ったら飯当番!」

 

 急接近する鬼道丸――

 

 ジンは無意識に『天断』の火力を抑えた。


 浄火が燻る刃が横に薙ぐ。

 

 が、その白刃が届く直前。

 地を蹴った鬼道丸がジンの頭上を飛び越えた。

 

 頭上からの一撃――

 

 鋭利な刃と化した鬼道丸の手がジンの首筋を狙う。

 

 無駄のない急所を狙った一閃。

 

 それを寸前で読む。

 わずかに首を傾けて避けたジン。


 鋭い痛み――


 頬がわずかに裂け、視界に血が舞った。

 

 ダンと深く踏み込んだジンが『天断』を振りかぶり、その鋭い眼が無防備な鬼道丸の姿を捉えた。

 

――殺れる(とれる)

 

 致命傷を狙った太刀筋。


 瞬間、はっと我に返る。


 気付けば、ジンは鬼道丸に本気の殺意を向けていた。

 

 長く鬼との戦いから離れていたジン。 

 久方振りに感じた頬を伝う――鋭い痛み。

 

 それがジン本来の闘争本能を目覚めさせた。

 

 裏を返せば、鬼道丸の『鬼』としての圧はジンを本気にさせるほどに強大――。

 

 咄嗟にジンは理性を保ち、『天断』を振るう手を止めた。

 あのまま振り抜けば、確実に斬っていた。

 

 一瞬の躊躇の後、ジンは強烈な足蹴りを繰り出す。

 

「アッハハ!斬らねぇのぉ?」


 蹴り飛ばされた鬼道丸。

 受け身も取らず、無造作に地面に転がった。

 

 ジンは動揺する。


 鼓動が高鳴り、かすかに手が震える。


 (俺は今――)

 

 ふと『天断』を握る腕に視線を落とした。

 

「鬼道丸を…」

 無意識下の己の殺意を自覚したジン。

 

 その動きがわずかに止まる。 

 その隙を――鬼道丸は見逃さない。

 

 常人離れした身のこなしで、

 その場に起き上がり、再び地を蹴った。


 意趣返し――

 鬼道丸が蹴りを繰り出す。


 咄嗟に『天断』の峰で受けるジン。

 

 だが、その衝撃を殺し切れず、

 ザザザ、と構えたまま、後方へと後退った。


「利くだろォ…?オレの〝蹴り〟――」


 にっかりと嗤う鬼道丸。

 その顔は――鬼道丸のものじゃない。

 

 完全に『鬼』へと堕ちた。

 

 ジンは乱れた呼吸を抑えるように深く息を吸った。

 

(すでに手遅れ――)


 もはや『鬼』として封印するしかない。

 覚悟を決め、ジンはスッと瞳を閉じた。

 

「許せ――」

 

 スッと静かに瞳を開いたジン。


 その眼には淡い光が宿っていた。


 『天断』を足許に突き立てて手を放すと、パンと両掌を合わせる。

 

 同時に、彼の体が淡い光に包まれた。

 

 その身を包んだ光が収束し、ジンの背にひとつの光球が発現する。 

 そして次の瞬間、ポンと弾けるように巨大な『赤達磨(あかだるま)』が空中に顕現した。

 

――【|天道達磨『不転翁』《てんどうだるま『ふてんおう』》】

 

 片目を閉じた髭面、手足のない無機質な真紅の体。 

 天道の力を帯びたその『赤達磨』がズゥンとジンの背後に落ち、鈍い衝撃を地に走らせる。


 そして、『赤達磨』の片目がぐるりと眼下のジンを見下ろした。

 

「なんじゃあ、ジン!急に呼び出しおって!」

「悪いな、『不転翁(ふてんおう)』。少し手を貸してくれ」 

 野太い声を響かせた『赤達磨』――『不転翁』が不機嫌そうにジンを睨む。

 

 だが、彼は振り返りもせず、ただ眼前の鬼道丸を見据えていた。

 そんな彼の様子に事態の深刻さを察知した『不転翁』。

 スッと鬼道丸へと目をやると、変わり果てたその禍々しい姿に思わず片目を見開いた。

 

「むむぅ?ありゃあ、まさか鬼道丸か?」

「説明は後だ!まず鬼道丸を鎮める…!」

 

 いつになく余裕のないジン。

 その焦りを感じ取り、『不転翁』は黙って状況を飲み込んだ。 

「合点承知!久方振りに暴れるか!」 

 己の天道の力を解放した『不転翁』。 

 にかりと豪快な笑みを浮かべ、ドッと淡い光を周囲に押し拡げる。 

 それは『太陽神(たいようしん)』の浄火に満ちた領域。

 スン、と音のように広がった光の円。 

 その領域に囚われた瞬間――迸る黒い瘴気の勢いが『太陽神』の浄火によって弱まった。

 

「う、ぐッ…」

 

 領域に囚われた鬼道丸が低く呻く。 

 その刹那――ドンと爆発的に加速した鬼道丸が目にも留まらぬ速さで無手のジンへと襲い掛かった。


 即座に足許の『天断』を引き抜く。 

 受けの構えを取ったジンが鬼道丸の攻撃を正面から受け止めた。

  

 ガキィン――全体重を乗せた鬼道丸の貫手。 

 ジンの心の臓を狙うが紙一重で『天断』に受け止められる。

 

 常人離れした膂力と速度、そして人の急所を理解した正確な狙い。

 

 並の鬼狩りならば今ので終わっていた。 

 そして、ジンでさえ一瞬でも反応が遅れていれば、()られていた。

 

「ぐ、ぬぅ…!目を覚ませ…鬼道丸!!」

 

 額に汗を滲ませ、ジンが鬼道丸の貫手を押し返す。

 

 血色に染まった鬼道丸の鬼眼。

 まるで無邪気な子供のように輝きを放つ。 

 そして、口元には笑みを浮かべていた。

 

「死ね。死ねよ!壊れろ!ほらほら!」

 

 狂気に呑まれた鬼道丸の理性の檻が砕け散る。

 これまで抑圧していた感情が溢れ出し、享楽的な声を上げる――。

 

「オレは強いだろ!なぁ、ジンさんよぉ!」 

 ガチチ、と『天断』の刀身が軋む。

 鬼道丸は強引に貫手をジンの胸に突き立てる。

 普段は決して見せぬ狂気の形相がそこにはあった。

 

 ジュウウ、と鬼道丸の貫手が焼ける。

 神器『天断』の刀身に宿る『太陽ノ浄火』に焼かれても、鬼道丸は一切気にする素振りを見せない。

 

 『半鬼』という身の上だからか。 

 瘴気を断つ『天断』の神力は、鬼道丸の『人』の部分に反応して、その効力が半減しているようだった。

 

 防ぎ切れず、鬼道丸の貫手がジンの左肩を貫いた。

 

 紙一重――心の臓を狙った貫手。

 ジンはかろうじてその軌道を逸らした。

 

「ぐッ…!!」

 

 ブシュ、とジンの左肩から鮮血が噴き出し、鬼道丸の頬に飛び散る。

 

 ぺろり、と鬼道丸がその血を舐め、さらに貫手を突き刺そうと力を込めた


「今日こそアンタから『一本()()るぜぇ!」

 

 さらに奥、ジンの致命に至ろうと鬼道丸の貫手がさらにジンの肩に食い込んだ。

 

「ジン!何をしておる!」

 

 ジンが力で負けている――

 通常ならあり得ない光景を目の当たりにする。

 

 動転した『不転翁』が慌てて自身の天道術を発動した。

 

――天道術【七転八起(しちてんはっき)

 

 ギン――『不転翁』の片目から強烈な波動が放たれる。

 その波動を受け、鬼道丸は抗う暇すら与えられず、瞬時に地面へと叩きつけられた。

 

「アッハハ!なんだこれぇ!」 

 ダン、と全身を強打する。

 目に見えぬ力で押さえつけられた鬼道丸はその場で身動きできずに大地に這いつくばった。 

「邪魔すんなよ!反則だぁ!」 

 心底愉しげに嗤う鬼道丸。 

 

 これは『不転翁』による領域技。

 相手に『転倒』か『起立』の状態を強制する。


「ジン――此奴は今、己が『鬼』に支配されておる。弟子の面影があるからといって『迷えば』、いくらお前でも死あるのみ!」 

 喝!と鋭い眼光を向ける『不転翁』。 

「すまん…」 

 それに対し、ジンは負傷した肩を庇いながら短く謝る。 

 身に纏う四季院装束、その肩口にじわりと血が滲む。 

 それでも――ジンの背中にはまだ迷いが見えた。 

 地に伏す鬼道丸の凄まじい鬼圧と『不転翁』の術式がせめぎ合う。 

 ギシギシと『不転翁』の不可視の力が徐々に鬼道丸を押さえつけきれなくなる。

 

 今この瞬間、その頸に刃を突き立てれば、すべてが終わる――だが、できない。

 

 ここで諦めることはできない。 

 師として、鬼道丸を信じることを決意する。

 

「あれに…賭ける!」

「ふむ、一か八かじゃな!」

 

 ガハハと『不転翁』が豪快な笑い声を上げる。

 刹那、『不転翁』の姿がわずかな土煙だけを残して、忽然とジンの背後から消え失せた。

 

 と同時、『不転翁』の不可視の力も消えた。


 やっと解放された鬼道丸が深く息を吐く。  

 むくりと起き上がった鬼道丸がすぐさまジンに襲い掛かろうと構えた――。


 しばし睨み合うふたり。

 

 ふと夜の山に静寂が戻った。

 


――天道術『達磨落(だるまおとし)

 

 

 次の瞬間、ズゥン――と遥か上空から『不転翁』の巨体が落下し、鬼道丸の頭上に直接圧し掛かった。

 

 圧倒的な質量による不可避の大技。

 

 鬼道丸は為す(すべ)もなく、その巨体の下、地中深くに封じ込められた。

 

 殺しはしていない。

 だが、しばらく身動きはできない状態。

 

「今じゃあ!やれぃ!」

 

 カッと片目を見開いた『不転翁』が叫ぶ。

 

 即座にジンは両手を地に突き、『不転翁』を中心に光の封印結界を張った。


――天道術『天杭縛(てんこうばく)』!


 ポッと封印結界の上空、四つの淡い光球が発現する。 

 それが同時に降り注ぐと、『不転翁』がフッと消え失せ、地中に埋もれる鬼道丸の両手足に深々と突き刺さった。

 

 鬼を縛る『天ノ杭』。 

 両手両足を地に繋ぎ止める天道の杭打ち。

 

 完全に鬼道丸は身動きを封じられた。 

 そんな彼に静かに歩み寄るジンを地に磔にされた鬼道丸が睨む。

 

 消耗しているジン。

 

 小さく肩で息をしながら、地に伏す鬼道丸の近くで立ち止まった。

 

 手に持つのは『赤い襟巻』。

 ジンはそれに己の気を宿すと、シュルルと鬼道丸の身体を包み込むように巻きつけた。

  

 シン――淀んでいた空気が澄んだ。


 絶え間なく漏れ出していた黒い瘴気――鬼道丸を包む『赤い襟巻』に吸い寄せられていく。


「止めろ!オレは…ま、だ…」


 消えゆく声、血色に染まっていた鬼眼――すぅ、と禍々しい光が失せてゆく。


 フッと鬼道丸は眠るようにそのまま気を失った。

 

 ようやく普段の鬼道丸の姿に戻る。

 

「なんとか、なったか…」

 

 ドサとその場に膝をつき、血が滲む左肩を押さえたジンが周囲を見渡した。

 

 残されたのは、瓦解した小屋と荒れ果てた庭、そして消耗したジンと鬼道丸のふたり。


 ふと自嘲気味な笑みを浮かべた。

 

 さて、これからどうしたものか――。

 

 途方に暮れかけた。

 だがすぐにジンはその場に立ち上がり、気を失った鬼道丸を抱きかかえる。

 

 幸い、鬼化は完全に封じ込めることができた。 

 鬼道丸の母の形見――『赤い襟巻』のおかげだ。


 眠るように気を失う鬼道丸の顔を見る。

 

「助かったぞ――『葵』」


 ぼそり、とジンは静かに呟いた。


 それはジンにとって、今は亡き姉の名前――。

 そして鬼道丸の母の名前でもあった――。

  

「礼を言う、『不転翁』」

 

 鬼道丸を抱え、小さく振り返ったジンが『不転翁』を見上げる。

 

「して、何があったのだ。ジン」 

 神妙な面持ちの『不転翁』が問う。 

「葵を鬼化した鬼が現れた。狙いは鬼道丸だ…」

「なんと…それは由々しき事態だな」 

 ジンの言葉に『不転翁』の表情が曇る。 

「あぁ――ここはもう駄目だ」

 ジンの視線が崩れた小屋へと向けられる。

「破られた結界も機能していない…」 

 おそらくこの一件を、【四季院(しきいん)】もすぐに察知する。 

 程なく追手が放たれるだろう――。

 

「何かあれば儂を頼れ。ジン」

「あぁ、頼む。『不転翁』…」

 心強い〝旧友〟の言葉に、思わずジンの表情が和らいだ。 

「さらばだ、ジン!これにて御免」 

 そう言い残すと、『不転翁』は、豪快な笑い声を上げながら、淡い光に包まれて、そのまま静かに消えた。

  

 さて、まだ夜は始まったばかり。

 

 後処理もそうだが、鬼道丸には――。

 『話すべきこと』がたくさんできてしまった。


「ひどく疲れた…」 

 ぽつりと呟く。

 

 鬼道丸を抱き――

 白装束の男が荒れた庭にひとり立ち尽くす。


 序章其ノ参 完

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