28 地味な作業
28 地味な作業
「チーカちゃん! 遊びましょ!」
朝六つの鐘と共に渡辺のでかい声でわたしは目が覚めた。隣のベッドを見るとディーはもう起きているようだ。
きっと騎獣の世話をしてくれているのだろう。それとも鍛錬かな。
どっちにしてもわたしはまだ起きたばっかりだわ!
起きてモソモソ着替えていると外からディーが何やら渡辺に言っている声がする。
なんか馬鹿じゃないかとかなんとか、おかしな事言ってるなとか焦ったらような口調だ。
うーん何だろう面白そう(笑)
水場の流しで顔と歯を洗って外に出るとディーが渡辺に腕を掴まれて無理やり気味に額の汗を拭われているところだった。
わたしに気がつくとディーは渡辺を邪険に振り払って逃げてきた。
「チカ、おはよう」
無意識にわたしの後ろに回って渡辺と距離を取っているのが笑える。
やーい、フラれた(笑)
「はい、おはよう」
ニヤニヤと渡辺を見ると肩をすくめて
「チカちゃんおはよう(もっとゆっくり来ればイイのに)」
と言ってくる。
アホか、邪魔されたくなければあんなにでかい声で呼ばなきゃいいのに。
ほんの10分にも満たない戯れで今は十分なんだろう。ディーは他人からの無償の好意に弱い。
弱いとういか苦手? だから渡辺はディーの様子を見なが野良猫との距離をはかるかの如く近づいて行っている感じだ。
何だろうな~ 渡辺はゲイには見えないんだけど。
まぁ、いいか。わたしには実害ないし。( *´艸`)
「渡辺~、ご飯つくるよ~」
そう声かけてわたしは中に入った。
「渡辺、卵割るときは平らな所に打ち付けてヒビを入れてね」
「角じゃないのか?」
「角だと殻が中に混ざりやすいの。始めにコツッて位に軽く打ち付けて、ヒビが入らなかったらもう一度打ち付けて割れる力加減を覚えてちょうだい」
はい、と渡辺にボールと卵5個を渡す。
「えーと、ディーはご飯作ってる間に裏庭を掃除して買っておいた筵を引いて簀を出しておいて。あ、あと水に浸けておいた種麦を水から引き上げておいてくれる?」
しておいて欲しいことを二人りに頼んだらわたしはパンケーキを焼く準備をする。
あ、これもレシピ登録出来るのかな? 後で書いておこう。
◎オーブンパンケーキ(1枚あたり)
・牛乳 60CC(マグカップ半分位)
・卵 1個
・小麦粉 35g(お椀に半分位)
・塩 少々(粉に混ぜておく)
・バター 少々
1.卵、牛乳をよく混ぜてから小麦粉を入れさっくり混ぜる。(注:混ぜすぎるとグルテンが出て食感が悪くなるので)
2.フライパン(スキレット)にバターを入れ溶けたら1の生地を流し込んで200℃のオーブンで15分焼く
と簡単なのです。
ここの長屋には家の中に炊事場があって、なんと薪ストーブオーブンなんです。
ガスコンロとかと違って温度を自分で管理しなければいけないので大変だし、うっかり天板に近づき過ぎると火傷しそうにはなるけれど、竈よりは使い勝手がいい。
「卵割り終わった」
「はい、ありがとう」
お、ちゃんと崩れずに割れてる。でも渡辺がえらい疲れてるんすけど(笑)
で、この卵を崩して
「え! 崩しちゃうんだ」
あー、ごめん。せっかく綺麗に割れたのにね。
牛乳入れて、粉入れてヘラでさっくりさっくり混ぜて生地完成。
オーブンに火は入っているので(ディーが朝起きると種火おこしをしといてくれる)細目の薪から入れて火を大きくしていく。竈計を突っ込んで見て紫色になったらフライパンごとオーブンに入れる。
問題は小さいから一個づつしか焼けないんだよね。
焼いてる間にサラダとフルーツを準備して、
あ、一個目焼けた。皿に取って次のをバター入れて生地入れてと繰り返すこと5回。
ようやく朝ごはん完成。今日はまともだぞ!
「渡辺、そろそろ保温鍋作って欲しいんだけど大丈夫?」
パンケーキはわたしが1枚、男二人は2枚。葉物野菜を挟んで食べる。これメープルシロップが欲しくなるわ。
甘味が乏しいのよ、早く水飴を完成せねば!
「了解( ゜Д゜)ゞ 仕様は後で詳しく説明して」
今日は一日本腰を入れて作業をするぞ! ( ̄0 ̄)/!
先ずは裏庭で簀にケミカル妖虫布を引いていく。この布は薄めで織りの荒いもの、ガーゼより織りは密だが晒しよりは荒いそんな感じ。
筵の上に簀を置いて布を引いた上に2日間水に晒した種麦を広げてその上に水に浸した筵を被せて発芽を促す。
そして別の簀にケミカル妖虫布を引引く。こちらはデンプンの乾燥用だ。そこへディーがせっせと作っていたデンプンを広げておく。風に飛ばされたりしないように上に布を被せて簀をスタッキングするようにしておく。
麦が芽を出すまで大体5日~6日かかるのでそれまではディーはひたすらデンプン作りです。
デンプン自体はあれば有っただけ色々使えるから。竜田揚げとか作ってあげるから、ゴメンよ、ディー。堪えてくれ。
「よくこんな簀なんてあったな」
渡辺は裏庭での作業を眺めながらそんな事を言う。
「これ元の規格はケミカル妖虫の巣箱らしいよ、それを底を風通し良くなるように隙間開けるように改良して作ってもらったの」
ドランの街は織物の街で大抵の家の屋根裏でケミカル妖虫を飼い糸を取っているそうだ。
蚕みたいなものなのかもしれない。なので筵とか簀とか入手しやすかった。
「渡辺、この鍋で大丈夫かしら?」
ストレージから寸胴鍋を取り出して見せる。いわゆるラーメン屋さんのスープを作るような鍋である。
この大きさであれば一回にそこそこの量の水飴が出来るだろう。
「OK! で? 仕様はどうするんだ?」
「まずは・・・」
そう言って渡辺と相談すること3時間あまり見落としが無いか最終確認をしてから渡辺に作ってもらうことになった。
「了解。じゃあこれは預かるな。」
今日から夕方早めに引き上げて制作してくれるそうだ。
「じゃあスープの仕込みするから手伝ってくれる?」
さていよいよ渡辺に料理らしい物を仕込んでいく事になる。
「作るものはスープの基本中の基本野菜のブイヨンです。洋食の食材が基本のこの世界ではこれを覚えておいた方がいいと思うのよ」
「ブイヨン」と言うと、
鶏がらで取った「ブイヨン・ド・ヴォライユ」、
牛骨からとった「ブイヨン・ド・ブフ」、
野菜からとった「ブイヨン・ド・レギューム」、
魚から取った「フュメ・ド・ポワゾン」、
香味野菜を使って短時間で取った「クール・ブイヨン」
なんかがあるんだけど今回は野菜から取った「ブイヨン・ド・レギューム」を作ろうと思う。
なんでかっていうと料理初心者の渡辺には下拵えが必要な他のレシピはまだ混乱すると思う。
物事はやっぱり基本が大事だからね! あと火加減さえ気を付ければ簡単だし!
◎野菜のブイヨン
材料: 野菜屑(玉ねぎ、ニンジン、セロリ等)
水
1 鍋に野菜くず(屑がなかったら賽の目切りの大きさで)と水を入れる。
2 鍋を火にかけたら、最初は強火で。
沸騰したら中火にして煮立つ直前の様な状態にして30分煮込む。
途中1回アク取りをする。
3 ざるで濾したらできあがり。
注: 必ず水から煮込むこと。沸騰した湯に野菜を入れると、野菜に含まれるタンパク質が固まってしまうので旨みが出にくくなる為。
「チカちゃん、これだけ?」
説明した後に渡辺は嘘だろって顔をした。
「そう、簡単でしょ?」
俺の今までの苦労は何だったのーとうちひしがれていた。
残念(笑)
前回の更新から2ヵ月もかかってしまいました(*T^T)
サブタイトルにもあるように地味な作業だったので話が全く進まず難産でした。
このまま更新するか長目にして次までを1話にするか、それだと中途半端になりそうだし~と悩みました。
ので珍しく2話更新です。




