↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したらカルタゴ人だったので、ハンニバルを勝たせてローマに勝利します  作者: レモンティー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
81/137

第八十一話 ハンニバルがローマへ進軍したのに、ローマ軍がカプアの包囲を解かなかった

紀元前211年。

イタリア半島。

カプアの北方。

ハンニバル軍は、ローマへ向かって進軍していた。

目的は、ローマを攻め落とすことではない。

カプアを包囲しているローマ軍を、首都防衛のために引き返させることだった。

俺は馬車の上で地図を広げていた。

「……ここまで来れば、ローマも慌てるはずなんだけどな」

隣にいたメルカルが尋ねた。

「ローマ軍は、カプアから撤退するでしょうか?」

「普通なら、そう考える」

「普通なら?」

俺は頷いた。

「でも、ローマは普通じゃないんだよ」

「……またですか」

「まただよ」

俺はため息をついた。

ローマという国は、敗北しても諦めない。

軍隊を失っても、新しい軍隊を作る。

都市を失っても、奪い返そうとする。

そして、何より厄介なのが――。

「一度決めた方針を、簡単には変えないんだ」

翌日。

ハンニバルは軍議を開いた。

大きな地図を囲んで、将校たちが集まっている。

マゴンが口を開いた。

「ローマ軍は、我々の進軍を把握しているようです」

ハンニバルが頷いた。

「当然でしょう」

「ですが、カプア方面の軍が大きく動いたという報告はありません」

俺は顔を上げた。

「……まだ動かないのか」

ハンニバルは地図を見つめた。

「ローマに、我々の意図を見抜かれている可能性があります」

俺は頷いた。

「カプアの包囲を解かせるためだと?」

「はい」

軍議の場が静かになった。

俺は尋ねた。

「ローマ軍が動かなかった場合は?」

ハンニバルは答えた。

「さらに首都へ接近します」

「それでも動かなかったら?」

「ローマ周辺で、敵の対応を確認します」

俺は頷いた。

「城壁を攻めるわけじゃないんだな」

「攻城兵器も兵站も、長期包囲に適した状態ではありません」

ハンニバルは静かに続けた。

「今の我々がローマを包囲しても、逆に包囲される危険があります」

俺は少し安心した。

勝てる戦いと、勝てない戦いを見極める。

それがハンニバルの強さだった。

数日後。

カルタゴ軍はローマへ接近した。

街道を進む兵士たち。

騎兵の偵察隊。

後方には、食料を積んだ荷車が続いている。

だが、補給には限界があった。

「アドン殿」

メルカルが帳簿を差し出した。

「食料の残量です」

俺は確認した。

「……予定より減っているな」

「はい。

進軍途中で馬の飼料を多く消費しています」

「現地調達は?」

「一部可能ですが、ローマ軍が先に物資を移動させています」

俺は眉をひそめた。

「……やっぱりな」

ローマは、戦わずにこちらを苦しめる方法も知っている。

食料を残さない。

飼料を残さない。

利用できる倉庫を空にする。

それだけで、遠征軍は苦しくなる。

俺は帳簿を閉じた。

「補給の上限をハンニバルに伝えよう」

その日の夕方。

俺はハンニバルの天幕を訪ねた。

「現在の補給量では、長期間の滞在は難しい」

ハンニバルは頷いた。

「何日程度ですか?」

俺は数字を示した。

「配給を維持するなら、余裕はあまりない。

帰路の分も残す必要がある」

「分かりました」

ハンニバルは地図を見つめた。

「ローマ軍が出てくれば、戦うことはできます」

俺は頷いた。

「でも、出てこなければ?」

「長居はできません」

「……そうだよな」

そして。

ついに、ローマの城壁が見える場所まで進軍した。

遠くに広がる巨大な都市。

城壁。

門。

そして、城壁の上に並ぶローマ兵。

俺は、その光景を見つめた。

「……大きいな」

メルカルが呟いた。

「これが、ローマ……」

俺は頷いた。

「そうだよ」

今まで、何度も戦ってきた相手。

その中心地が、目の前にある。

だが、俺には不思議な感覚があった。

未来の歴史を知っているからだ。

この都市は、やがて地中海世界を支配する。

さらに、その先の広大な地域まで勢力を広げる。

だが、今は違う。

まだ、カルタゴとローマのどちらが勝つか決まっていない。

俺は呟いた。

「……ここまで来たんだな」

ローマ市内では、混乱が起きていた。

「ハンニバルが来た!」

「カルタゴ軍が城壁の外にいる!」

「カンナエでローマ軍を破った男だぞ!」

市民たちは不安に包まれた。

だが、ローマ元老院は冷静だった。

少なくとも、表向きは。

ローマ元老院。

一人の議員が叫んだ。

「カプアを包囲している軍を呼び戻すべきです!」

別の議員が反論した。

「それこそ、ハンニバルの思うつぼだ!」

「だが、首都が危険なのだぞ!」

「カプアを解放してしまえば、ローマに反抗した都市が再び勢いづく!」

議場は騒然となった。

やがて、年長の議員が立ち上がった。

「ハンニバルがローマへ来た理由を考えよ」

議員たちが静かになった。

「彼は、なぜカプアから離れた?」

誰も答えなかった。

「カプアを救うためだ」

その言葉に、議場がざわめいた。

「ならば、我々がカプアの包囲を解けばどうなる?」

沈黙。

「ハンニバルの作戦は成功する」

議員は続けた。

「首都の守備は強化する。

しかし、カプアの包囲は続ける」

こうして、ローマは決断した。

首都を脅かされても、カプアを見捨てない。

いや。

正確には。

カプアを奪還する方針を、変えなかった。

翌朝。

俺たちのもとに報告が届いた。

「カプア方面のローマ軍に、大規模な撤退の動きはありません!」

マゴンが報告した。

俺は思わず聞き返した。

「……本当に?」

「はい」

「ローマの城壁の外まで来ているのに?」

「はい」

俺は頭を抱えた。

「……やっぱり、そうなるか」

メルカルが尋ねた。

「予想していたんですか?」

俺は答えた。

「可能性は考えていた」

「では、どうします?」

俺はハンニバルを見た。

ハンニバルは、静かに地図を見つめていた。

「ローマ軍は、我々が首都を攻略できないと判断しているのでしょう」

ハンニバルが言った。

マゴンが頷いた。

「城壁の内側に十分な守備兵がいれば、簡単には落とせません」

俺は尋ねた。

「じゃあ、ここで戦う意味は?」

ハンニバルは答えた。

「ローマ軍を拘束することには意味があります」

「……」

「ですが、カプアを救うという目的は、まだ達成できていません」

俺は頷いた。

「そうだな」

そのとき。

偵察兵が駆け込んできた。

「報告!」

ハンニバルが顔を上げた。

「何だ?」

「ローマ軍が城門から出撃する準備をしています!」

マゴンが立ち上がった。

「迎撃しますか?」

ハンニバルは地図を確認した。

「敵の規模は?」

「確認中です!」

ハンニバルは少し考えた。

そして言った。

「騎兵を前へ。

歩兵は地形のよい場所に布陣させる」

将校たちが動き始めた。

俺は、後方の補給部隊へ戻った。

メルカルが尋ねた。

「戦闘になるのでしょうか?」

「可能性はある」

「……」

「でも、ローマ軍が本気で決戦を望んでいるとは限らない」

俺は荷車の配置を確認した。

負傷者の輸送路。

食料の保管場所。

撤退時の集合地点。

そして、予備の水。

メルカルが苦笑した。

「ローマの目の前でも、やっぱり補給なんですね」

俺は答えた。

「ローマの目の前だからこそ、だよ」

ローマ軍が城外へ現れた。

両軍は互いの動きを警戒した。

だが、大規模な決戦には至らなかった。

ハンニバルは、ローマ軍の布陣を観察していた。

そして、静かに言った。

「……敵は、我々を追い払うことを優先している」

マゴンが尋ねた。

「どうします?」

ハンニバルは答えた。

「ここで兵力を消耗する必要はない」

その夜。

軍議が開かれた。

俺は、補給状況を報告した。

「このままローマ周辺に滞在すれば、食料が不足する」

ハンニバルは頷いた。

「分かりました」

マゴンが尋ねた。

「カプアはどうします?」

ハンニバルは黙った。

俺も答えられなかった。

カプア。

カルタゴ側についた重要都市。

ローマの包囲を受けている。

そして、救援を待っている。

俺は拳を握った。

「……まだ、何か方法があるはずだ」

だが。

ハンニバルは静かに言った。

「アドン。

軍事的な状況は、厳しい」

俺は頷いた。

「分かってる」

「我々がローマへ進軍しても、敵はカプアの包囲を解かなかった」

「……うん」

「これ以上、同じ方法を続けても結果は変わらないでしょう」

俺は地図を見つめた。

そして、呟いた。

「……なら、別の方法を考えないとな」

その夜。

俺は眠れなかった。

カプアの地図を広げる。

城壁。

街道。

周辺の農村。

そして、ローマ軍の包囲線。

俺は考え続けた。

軍隊で包囲を破れないなら。

食料を運ぶ方法はないか。

包囲線の外から、住民を救う方法はないか。

ローマ軍に、別の条件を提示できないか。

だが、どれも簡単ではなかった。

俺はため息をついた。

「……商売なら、相手と交渉できるんだけどな」

そして。

ふと、思いついた。

「……待てよ」

俺は地図を見つめた。

カプアの住民。

ローマ軍。

カルタゴ軍。

そして、周辺の都市。

「……カプアの人たちを、全員戦争に巻き込む必要はないんじゃないか?」

俺は立ち上がった。

メルカルを呼んだ。

「メルカル!」

「はい!」

「カプアの住民について、資料を集めてくれ!」

「住民ですか?」

「そうだ!」

俺は続けた。

「戦っている兵士だけじゃない。

商人、職人、農民、子供、老人……」

メルカルが目を丸くした。

「……何をするんですか?」

俺は答えた。

「都市を救えないとしても、人を救う方法を考える」

翌朝。

俺はハンニバルのもとへ向かった。

「ハンニバル」

「アドン」

「カプアについて、提案がある」

ハンニバルは顔を上げた。

「聞きましょう」

俺は地図を広げた。

そして言った。

「カプアを守る方法だけじゃなくて、カプアの住民を守る方法も考えたい」

ハンニバルは黙った。

俺は続けた。

「都市が陥落した場合、ローマは反抗した人たちを処罰する可能性がある」

ハンニバルの表情が険しくなった。

「……そうでしょうね」

「だから、今のうちにできることを考えたい」

ハンニバルは頷いた。

「具体的には?」

俺は答えた。

「まず、住民の安全を保障する条件で、ローマ側との交渉を試みる」

「……」

「それが無理なら、包囲が完成する前に避難できる人を逃がす」

「……」

「さらに、都市に残る人たちのために食料を確保する」

ハンニバルは、しばらく考えていた。

そして言った。

「……やりましょう」

俺は頷いた。

「ありがとう」

だが。

その日の午後。

カプアから、緊急の使者が到着した。

使者は、泥だらけだった。

馬も疲れ切っている。

俺は慌てて迎えた。

「何があった?」

使者は息を切らしながら答えた。

「カプアの食料が……!」

俺は顔を上げた。

「食料が?」

使者は続けた。

「残り少なくなっています!」

俺は息を呑んだ。

「……どれくらい?」

使者は答えた。

「配給を減らしても、長くは持ちません!」

俺は黙った。

そして、使者はさらに続けた。

「都市の中では、カルタゴ軍が救援に来ないのではないかという噂が広がっています!」

俺は拳を握った。

カプアの人たちは、まだ俺たちを信じている。

だが、その信頼にも限界がある。

俺は静かに言った。

「……分かった」

そして、ハンニバルを見た。

「時間がない」

ハンニバルは頷いた。

「そうですね」

俺は地図を見つめた。

カプアを救うための戦いは、もはやローマ軍との戦闘だけではなくなっていた。

食料。

住民。

そして、信頼。

そのすべてが、失われようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。