第八十話 カプアが包囲されそうになったので、ハンニバルがローマ軍を引き離す作戦を考えた
紀元前212年。
イタリア南部。
カプア方面。
ローマ軍は、カプアへの圧力を強めていた。
街道の封鎖。
周辺の村への攻撃。
そして、食料輸送の妨害。
俺は報告書を見つめた。
「……いよいよ、本格的に来たな」
メルカルが頷いた。
「そうですね」
俺はハンニバルへ報告した。
「カプアの補給路が危険になっている」
ハンニバルは頷いた。
「分かっています」
俺は続けた。
「タレントゥムにも兵士が必要だ」
「……」
「ヒスパニアも厳しい」
ハンニバルは地図を見つめた。
「……戦力が足りませんね」
俺は頷いた。
「そうなんだよ」
ハンニバルは、しばらく考えていた。
そして言った。
「ローマ軍は、我々を分散させようとしています」
俺は頷いた。
「そうだね」
「ならば、こちらも敵を動かす必要があります」
俺は顔を上げた。
「……どうするの?」
ハンニバルは地図を指差した。
「ローマ軍がカプアを攻めるなら、その軍を別の場所へ動かす」
俺は頷いた。
「なるほど」
「敵が守らなければならない場所を脅かすのです」
俺は少し考えた。
「……ローマ本土?」
ハンニバルは頷いた。
「可能性の一つです」
俺は地図を見つめた。
ローマ。
カプア。
そして、カルタゴ軍の位置。
ローマ軍がカプアを攻める。
その間に、ハンニバル軍がローマ方面へ進軍する。
ローマ軍は、首都を守るために戻らざるを得なくなるかもしれない。
俺は呟いた。
「……なるほど」
だが、俺はすぐに尋ねた。
「ローマを攻め落とすつもり?」
ハンニバルは首を振った。
「現状では、城壁を攻略するための準備が十分ではありません」
俺は頷いた。
「そうだよね」
ハンニバルは続けた。
「目的は、ローマ軍を動かすことです」
俺は考えた。
「……敵の補給路を脅かすのと、似ているな」
ハンニバルは頷いた。
「そうです」
俺は続けた。
「ローマ軍がカプアを攻め続けられない状況を作る」
ハンニバルは答えた。
「そのとおりです」
だが、俺には懸念があった。
「……カプアの人たちは、どう思うかな」
ハンニバルが顔を上げた。
俺は続けた。
「ハンニバル軍がローマ方面へ向かったら、見捨てられたと思うかもしれない」
ハンニバルは黙った。
そして頷いた。
「……確かに」
俺は提案した。
「カプアの代表者たちへ、作戦の目的を説明したい」
ハンニバルは頷いた。
「お願いします」
俺は続けた。
「ただし、軍事機密は守る」
ハンニバルは笑った。
「もちろんです」
数日後。
俺はカプアの代表者たちと会談した。
「ローマ軍の圧力が強まっています」
代表者たちは頷いた。
俺は続けた。
「カルタゴ軍は、敵の動きを変えるための作戦を検討しています」
一人の代表者が尋ねた。
「……カプアを守っていただけるのですか?」
俺は答えた。
「そのための作戦です」
代表者は頷いた。
だが、別の代表者が尋ねた。
「カルタゴ軍が別の場所へ移動したら、どうなるのですか?」
俺は少し黙った。
そして答えた。
「カプアの守備体制を、さらに強化する必要があります」
俺は説明した。
「食料備蓄」
「……」
「城壁の修理」
「……」
「住民の避難計画」
そして、続けた。
「周辺都市との連絡も維持してください」
代表者たちは頷いた。
数週間後。
カプアでは、守備体制の見直しが進んだ。
だが、ローマ軍の圧力は続いていた。
俺は報告書を見つめた。
「……時間がないな」
メルカルが頷いた。
「そうですね」
その夜。
ハンニバルは軍議を開いた。
「ローマ軍を動かすため、機動作戦を準備します」
将校たちが頷いた。
マゴンが尋ねた。
「目標は?」
ハンニバルは地図を指差した。
「ローマ方面です」
軍議の場が静かになった。
俺は、ハンニバルを見つめた。
本来の歴史では、ハンニバルは紀元前211年にローマへ接近する。
カプアへの圧力を緩めさせるためだった。
だが、ローマは簡単には動かなかった。
俺は思った。
今回は、同じ結果になるとは限らない。
だが、成功する保証もない。
俺はハンニバルへ尋ねた。
「補給はどうする?」
ハンニバルは答えた。
「機動力を優先します」
俺は頷いた。
「長期間の包囲戦はしない?」
「はい」
「なら、必要な物資を計算しよう」
ハンニバルは笑った。
「お願いします」
俺は、補給計画を作り始めた。
食料。
飼料。
予備の武器。
負傷者の輸送。
そして、帰還時の補給。
メルカルが尋ねた。
「……ローマまで行くんですか?」
俺は答えた。
「可能性はある」
「……」
「でも、目的はローマを攻め落とすことじゃない」
俺は続けた。
「ローマ軍を、カプアから引き離すことだよ」
メルカルは頷いた。
「なるほど」
数日後。
ハンニバル軍は、機動作戦の準備を整えた。
俺は、地図を見つめていた。
ローマ。
カプア。
そして、カルタゴ軍。
俺は呟いた。
「……ローマを脅かして、カプアを救う」
だが、心の中では別のことを考えていた。
本来の歴史では、この作戦は決定的な成果を上げられなかった。
そして、カプアはローマに奪還された。
俺は拳を握った。
「……今回は、変えたい」
その夜。
ハンニバルが俺のところへ来た。
「アドン」
「何?」
「準備は?」
俺は頷いた。
「補給計画はできた」
ハンニバルは笑った。
「ありがとうございます」
俺は尋ねた。
「本当に、ローマまで行くつもり?」
ハンニバルは地図を見つめた。
そして答えた。
「必要なら」
俺は頷いた。
「……分かった」
だが。
出発直前。
新しい報告が届いた。
俺は封を開いた。
そこには、こう書かれていた。
『ローマ軍は、カプア周辺の包囲準備をさらに進めている』
俺は眉をひそめた。
「……急がないとな」
ハンニバルは頷いた。
「そうですね」
そして、静かに命令した。
「全軍、出発準備」
夜明け。
カルタゴ軍は、静かに移動を始めた。
俺は、補給部隊の先頭で地図を見つめていた。
ローマへ向かう道。
カプアを守るための作戦。
そして、未来を変えるための戦い。
俺は呟いた。
「……今度こそ、カプアを守りたい」
だが。
俺たちは、まだ知らなかった。
ローマ軍の指揮官たちが、ハンニバルの動きを予測し始めていることを。
そして。
ローマ元老院が、たとえハンニバルが首都へ迫っても、カプアの包囲を簡単には解かない方針を固めつつあることを。
戦争は、次の段階へ進もうとしていた。




