第七十五話 タレントゥムがローマから離反しそうなので、港を占領する前に商人たちと契約した
紀元前213年。
イタリア南部。
タレントゥム。
俺は、久しぶりにこの都市の使者と会っていた。
以前より、表情が明るい。
だが、緊張も見えた。
俺は尋ねた。
「状況は変わりましたか?」
使者は頷いた。
「はい」
「どのように?」
使者は答えた。
「ローマへの不満が、さらに高まっています」
俺は頷いた。
「なるほど」
使者は続けた。
「ローマ軍の要求が増えています」
「……」
「兵士の徴発」
「……」
「食料の供出」
「……」
「そして、都市の自治への干渉」
俺は眉をひそめた。
「……それは、不満が出るでしょうね」
使者は頷いた。
「はい」
俺は尋ねた。
「都市全体の意見は?」
使者は答えた。
「まだ一致していません」
俺は頷いた。
「そうでしょうね」
「ですが、カルタゴとの協力を望む者は増えています」
俺は少し考えた。
「……なるほど」
俺は、地図を広げた。
タレントゥム。
港。
市街地。
そして、ローマ軍の守備拠点。
俺は尋ねた。
「港の管理は、今もローマ軍が握っていますか?」
使者は頷いた。
「一部はそうです」
「倉庫は?」
「商人たちが所有しています」
「荷役人夫は?」
「港の組合です」
俺は頷いた。
「……なるほど」
俺は提案した。
「都市が正式にカルタゴ側へ協力する場合、港の運営をどうするか決めておきたいんです」
使者は驚いた。
「……港の運営?」
俺は頷いた。
「はい」
「まだ都市が離反するかも決まっていないのに?」
俺は答えた。
「決まってからでは、遅いかもしれません」
俺は説明した。
「都市がカルタゴ側へ協力したとしても、港が混乱すれば交易が止まります」
使者は頷いた。
「はい」
「交易が止まれば、都市の収入が減ります」
「……」
「そして、住民の生活も苦しくなる」
俺は続けた。
「だから、港の運営を止めない準備が必要なんです」
使者は考え込んだ。
そして尋ねた。
「具体的には?」
俺は答えた。
「港湾使用料を維持する」
「……」
「倉庫の所有権を尊重する」
「……」
「荷役人夫の仕事を守る」
そして、続けた。
「カルタゴ軍の物資を扱う場合は、正当な報酬を支払う」
使者は、少し驚いた顔をした。
「……港を奪わないのですか?」
俺は首を振った。
「少なくとも、俺はそういう形を望んでいません」
「……」
「港は、タレントゥムの人たちが運営する方がいいと思っています」
使者は黙った。
俺は続けた。
「カルタゴ軍が必要なのは、安全に使える港です」
「……」
「港の所有権まで奪う必要はありません」
使者は頷いた。
「なるほど」
数週間後。
タレントゥムの商人たちとの交渉が始まった。
港湾使用料。
倉庫の賃貸料。
荷役費用。
船舶修理。
そして、交易の自由。
俺は、条件を一つずつ確認した。
メルカルが笑った。
「……本当に、商売の話ばかりですね」
俺は頷いた。
「そうだね」
だが、俺は分かっていた。
港を手に入れることは、戦争の勝敗に関わる。
カルタゴからの補給。
援軍の輸送。
そして、イタリア南部の同盟都市への支援。
すべてが、港によって変わる可能性がある。
俺は呟いた。
「……ここが重要なんだよ」
その夜。
俺はハンニバルへ報告した。
「タレントゥムの商人たちと、港の運営について協議している」
ハンニバルは頷いた。
「状況は?」
俺は答えた。
「前向きだよ」
「それはよかった」
俺は続けた。
「ただし、都市の政治的な決定はまだ」
ハンニバルは頷いた。
「分かっています」
ハンニバルは地図を見つめた。
「タレントゥムが協力すれば、イタリア南部の状況は大きく変わります」
俺は頷いた。
「そうだね」
「ですが、ローマ軍の守備拠点が残る」
「うん」
ハンニバルは続けた。
「軍事的な準備も必要です」
俺は答えた。
「任せるよ」
数週間後。
タレントゥムから、新しい使者が到着した。
俺は迎えた。
「どうしました?」
使者は、緊張した顔で答えた。
「都市内部で、カルタゴとの協力を求める動きが強まっています」
俺は頷いた。
「そうですか」
使者は続けた。
「ただし、ローマ軍が警戒を強めています」
俺は眉をひそめた。
「……危険ですね」
俺は尋ねた。
「協力者の安全は?」
使者は答えた。
「十分ではありません」
俺は頷いた。
「分かりました」
そして、言った。
「無理に動かないでください」
使者は驚いた。
「……しかし」
俺は続けた。
「都市の人たちが危険になるなら、計画を急ぐべきではありません」
使者は、しばらく黙った。
そして、深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
俺は頷いた。
「こちらこそ」
その夜。
俺は地図を見つめていた。
タレントゥム。
港。
ローマ軍の守備拠点。
そして、周辺の街道。
俺は考えた。
都市を協力させる。
だが、住民を危険にさらさない。
港を使う。
だが、商人たちの生活を壊さない。
そして、ローマ軍の反撃に備える。
俺は呟いた。
「……簡単じゃないな」
そのとき。
メルカルが、新しい報告書を持ってきた。
「アドン殿!」
俺は顔を上げた。
「何?」
メルカルは答えた。
「タレントゥムの若者たちが、ローマ軍への反抗を始めたようです!」
俺は眉をひそめた。
「……何だって?」
メルカルは続けた。
「都市内部で、衝突が起きる可能性があります!」
俺は立ち上がった。
「……まずいな」
そして、ハンニバルへ報告するため、陣営へ向かった。
タレントゥムをめぐる争いは、もはや商人同士の交渉だけでは収まらなくなっていた。




