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転生したらカルタゴ人だったので、ハンニバルを勝たせてローマに勝利します  作者: レモンティー


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第五十七話 軍の帳簿を調べるなと言われたので、商人として市場価格を公開することにした

カルタゴ本国から届いた命令書には、こう書かれていた。

『アドン商会による軍需契約への介入を禁止する』

俺は、その文章を何度も読み返した。

「……軍需契約への介入、ね」

メルカルが尋ねた。

「どうするんですか?」

俺は答えた。

「命令には従うよ」

メルカルは驚いた。

「……従うんですか!?」

「うん」

俺は書簡を机に置いた。

「軍の帳簿は、もう調べない」

メルカルは黙った。

俺は続けた。

「その代わり、市場価格を公開する」

メルカルは首をかしげた。

「……市場価格?」

俺は頷いた。

「そう」

「それで何が変わるんですか?」

俺は説明した。

「軍が穀物を高く買っているかどうかは、市場価格と比べれば分かる」

「……」

「市場価格を調べるのは、商人の普通の仕事だよ」

メルカルは目を丸くした。

「……なるほど!」

俺は、商人たちへ新しい提案をした。

「各地の市場価格を、定期的に交換しませんか?」

商人たちは顔を見合わせた。

「価格を?」

「はい」

「そんなことをしたら、安く仕入れて高く売るのが難しくなるぞ」

俺は頷いた。

「そうですね」

「では、なぜ?」

俺は答えた。

「相場が分かれば、輸送する価値のある商品を判断しやすくなるからです」

商人たちは考え込んだ。

俺は続けた。

「例えば、ある町では穀物が余っている」

「……」

「別の町では穀物が不足している」

「……」

「その情報が分かれば、商人は運ぶだけで利益を得られる」

商人の一人が頷いた。

「確かに」

俺は笑った。

「価格を隠して一度だけ儲けるより、取引を増やした方が得になる場合もあります」

数週間後。

商人たちの間で、市場価格の情報交換が始まった。

穀物。

塩。

鉄。

木材。

家畜。

そして、輸送費。

俺は、それらを一覧にまとめた。

メルカルが驚いた。

「……すごい量ですね」

俺は頷いた。

「うん」

「これをどうするんですか?」

俺は答えた。

「商人たちへ配る」

最初は、小さな一覧表だった。

だが、次第に情報が増えていった。

どこの町で、何が安いか。

どこの港で、船が不足しているか。

どこの地域で、穀物の収穫が悪いか。

俺は、その情報を整理していた。

すると。

一人の商人が、驚いた顔で言った。

「……アドン殿」

「何ですか?」

「この価格表を使えば、軍が払っている金額も比較できますね」

俺は頷いた。

「そうですね」

商人は笑った。

「なるほど」

俺も笑った。

「普通の市場調査ですよ」

だが。

その価格表は、思わぬ反響を呼んだ。

カルタゴ本国の商人たちが、軍需契約の価格を比較し始めたのだ。

『なぜ軍は、穀物を市場価格の倍近い値段で買っているのか?』

『輸送費が高すぎるのではないか?』

『同じ商会ばかり契約しているのはなぜか?』

疑問が広がった。

俺は報告を読んで頷いた。

「……いい傾向だな」

メルカルが尋ねた。

「何がですか?」

俺は答えた。

「俺が言わなくても、みんなが気づき始めたんだよ」

だが。

バアルハンノは黙っていなかった。

カルタゴ本国では、彼の商会が商人たちへ圧力をかけ始めた。

価格情報を提供するな。

取引をやめろ。

軍需契約から外すぞ。

俺は、その報告を聞いてため息をついた。

「……分かりやすいな」

メルカルが尋ねた。

「どうします?」

俺は答えた。

「価格情報を提供する商人を増やす」

「……?」

「一人なら圧力をかけられる」

俺は続けた。

「でも、百人なら難しくなる」

俺は商人組合へ書簡を送った。

『市場価格の情報交換は、すべての商人に利益があります』

『特定の商会だけが価格を決める状態は、健全な取引を妨げます』

『価格情報の提供は任意とし、提供者の安全にも配慮します』

数週間後。

返事が届いた。

『商人組合として、価格情報の交換を継続する』

俺は息を吐いた。

「……よし」

そのころ。

ハンニバルは、イタリア各地で軍を動かしていた。

ローマ軍は決戦を避ける。

カルタゴ軍は移動を続ける。

そして、補給が必要になる。

俺は市場価格表を使い、食料を集める場所を選んだ。

「ここは穀物が安い」

メルカルが頷いた。

「はい」

「でも、輸送距離が長い」

「……」

「こちらは少し高いけど、近い」

メルカルは計算した。

「……輸送費を含めると、こちらの方が安いですね」

俺は頷いた。

「そういうこと」

数日後。

ハンニバルが補給記録を確認した。

「……費用が減っていますね」

俺は頷いた。

「無駄な輸送を減らしたからね」

ハンニバルは笑った。

「兵士への食料は?」

「減らしていないよ」

「それは素晴らしい」

俺は肩をすくめた。

「商人としては普通のことだよ」

だが。

その日の夜。

カルタゴ本国から、新しい知らせが届いた。

『軍需契約の一部について、再調査が決定された』

俺は顔を上げた。

「……動いたか」

メルカルが笑った。

「やりましたね!」

俺は首を振った。

「まだだよ」

「……?」

「調査が始まっただけだからね」

さらに数日後。

別の書簡が届いた。

そこには、驚くべきことが書かれていた。

『バアルハンノ商会の一部契約について、納入数量と請求数量の不一致が確認された』

俺は黙った。

メルカルが覗き込んだ。

「……不一致?」

俺は頷いた。

「そう」

「つまり?」

「納入した量より、多く請求していた可能性がある」

メルカルは叫んだ。

「……それ、詐欺じゃないですか!」

俺は答えた。

「調査結果が確定するまでは、断定できない」

だが。

俺は心の中で思っていた。

ようやく、動き始めた。

その夜。

ハンニバルが俺を呼んだ。

「アドン」

「何?」

「本国の軍需契約で、不正の疑いが見つかったそうですね」

俺は頷いた。

「そうらしい」

ハンニバルは静かに言った。

「兵士たちの食料が不足していた理由の一つかもしれません」

俺は答えた。

「そうかもしれない」

ハンニバルは続けた。

「ですが、今はローマとの戦争が最優先です」

俺は頷いた。

「分かってる」

そして、地図を広げた。

「だから、次の戦いに備えよう」

地図には、イタリア南東部が描かれていた。

アプリア地方。

そして、カンナエ。

俺は、その場所を指差した。

「……ここだね」

ハンニバルは頷いた。

「はい」

「ローマ軍が、大軍を集めているらしい」

「そのようです」

俺は尋ねた。

「兵力は?」

ハンニバルは答えた。

「これまで以上の大軍になる可能性があります」

俺は頷いた。

「……そうだろうね」

本来の歴史では。

紀元前216年。

ローマは大軍を集め、ハンニバルと決戦した。

そして。

カンナエの戦いで、壊滅的な敗北を喫した。

だが。

その大勝利でも、ローマは降伏しなかった。

俺は地図を見つめた。

「……今度は、勝ったあとが重要だ」

ハンニバルが尋ねた。

「何を考えていますか?」

俺は答えた。

「カンナエで勝ったあと、ローマの同盟都市を一斉に動かす」

ハンニバルは頷いた。

「なるほど」

俺は続けた。

「そのために、今から交渉を始める」

俺は、南部の商人たちへ書簡を送った。

『今後、イタリア南部の政治情勢が大きく変わる可能性があります』

『各都市との交易関係を維持してください』

『カルタゴ軍への協力を希望する都市があれば、条件を確認してください』

そして、最後に付け加えた。

『ただし、住民を危険にさらすような無理な離反は求めません』

その夜。

俺は一人で、地図を見つめていた。

カンナエ。

ローマ軍の大軍。

そして、ハンニバル。

本来の歴史では、ハンニバルはここで完璧に近い包囲戦を成功させる。

だが、その勝利を戦争の終結へ結びつけることはできなかった。

俺は呟いた。

「……今回は違う」

そして、地図の南部を指差した。

「カンナエで勝った瞬間に、次の手を打つ」

そのための準備を、俺は始めていた。

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