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転生したらカルタゴ人だったので、ハンニバルを勝たせてローマに勝利します  作者: レモンティー


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第五十六話 カルタゴ政府が軍事費を削ると言い出したので、戦争で儲かっている商人の帳簿を調べることにした

紀元前217年。

イタリア半島。

ハンニバル率いるカルタゴ軍は、ローマ軍との戦いで勝利を重ねていた。

ティキヌス。

トレビア。

トラシメヌス湖畔。

三度の勝利。

それでも、ローマは降伏しない。

むしろ、新しい軍隊を編成し、戦争を続けようとしていた。

そんな中。

カルタゴ本国から届いた命令書を読んで、俺は頭を抱えていた。

「……何を考えているんだ?」

隣にいたメルカルが尋ねた。

「どうしました?」

俺は書簡を見せた。

『イタリア遠征軍への補給費用について、民間商会の負担を拡大する』

メルカルは首をかしげた。

「……つまり?」

「商人に金を出させるってことだよ」

「……ええっ!?」

俺は頷いた。

「しかも、新しい補給責任者がハンノらしい」

メルカルは顔をしかめた。

「……あのハンノですか?」

「そう」

以前から、イタリア遠征の費用に難色を示していた政治家だ。

俺は書簡を机に置いた。

「……嫌な予感しかしないな」

数日後。

カルタゴ本国から、ハンノの代理人が到着した。

名をアビルという。

立派な衣服を身につけた男だった。

俺は、陣営の一室で彼と向かい合った。

「アドン殿」

「はい」

「本国政府は、あなたの商会の働きを高く評価しています」

俺は頷いた。

「ありがとうございます」

アビルは笑った。

「そこで、今後は軍への食料供給を、さらに拡大していただきたい」

「具体的には?」

「現在の二倍です」

俺は黙った。

メルカルも黙った。

しばらくして、俺は尋ねた。

「支払いは?」

アビルは答えた。

「戦後に精算します」

俺は頭を抱えた。

「……それ、支払う気があるんですか?」

アビルの笑顔が消えた。

俺は帳簿を取り出した。

「現在の補給量を説明します」

アビルが頷いた。

「どうぞ」

「兵士の食料」

「……」

「馬の飼料」

「……」

「輸送費」

「……」

「倉庫の維持費」

さらに続けた。

「護衛費用と、輸送中に失われる物資の補填」

俺は帳簿を閉じた。

「これを二倍にするなら、当然、費用も増えます」

アビルは答えた。

「国家のためです」

俺は頷いた。

「国家のためなら、国家が支払うべきでは?」

アビルは黙った。

俺は続けた。

「商人は利益がなければ商売を続けられません」

「……」

「利益どころか、代金まで支払われなければ、商会は潰れます」

アビルは眉をひそめた。

「愛国心はないのですか?」

俺は答えた。

「ありますよ」

「ならば――」

「だから、潰れない方法を考えているんです」

アビルは口を閉じた。

俺は続けた。

「商会が潰れれば、次の食料は誰が運ぶんですか?」

交渉は、平行線だった。

アビルは国家への協力を求める。

俺は支払いの保証を求める。

結局、その日は結論が出なかった。

代理人が帰ったあと、メルカルが椅子に座り込んだ。

「……疲れました」

俺も頷いた。

「俺も」

「どうするんですか?」

俺は答えた。

「まず、調べよう」

「何をですか?」

「本国の軍事費が、どこへ消えているのか」

俺は、以前から付き合いのある商人たちへ書簡を送った。

カルタゴ本国。

ヒスパニア。

シチリア周辺。

そして、北アフリカの港。

調べたいのは、軍需品の価格だった。

穀物。

船材。

鉄。

革。

馬。

そして、輸送費。

数週間後。

最初の報告が届いた。

俺は帳簿を見て眉をひそめた。

「……高いな」

メルカルが覗き込んだ。

「何がですか?」

「軍が購入している穀物の価格だよ」

「……?」

「市場価格より、かなり高い」

さらに調べると、妙なことが分かった。

軍へ穀物を売っている商会。

船を手配している商会。

倉庫を貸している商会。

名前は違う。

だが、出資者を調べると、同じ人物につながっていた。

俺は、その名前を見てため息をついた。

「……バアルハンノか」

以前、軍需品の独占供給を狙っていた商人だ。

メルカルが尋ねた。

「また、あの人ですか?」

俺は頷いた。

「そうらしい」

俺は帳簿を並べた。

穀物を仕入れる。

別の商会へ売る。

さらに別の商会へ売る。

最後に軍へ納入する。

そのたびに価格が上がっていた。

メルカルが目を丸くした。

「……同じ穀物ですよね?」

俺は頷いた。

「そう」

「なのに、何回も売っているんですか?」

「書類の上ではね」

メルカルは呆れた。

「……ひどいですね」

俺は答えた。

「まだ、不正と決まったわけじゃない」

そして、続けた。

「でも、調べる価値はある」

俺はハンニバルへ報告した。

「本国の軍需契約に、不自然な価格の上昇がある」

ハンニバルは帳簿を見た。

「……これは?」

俺は説明した。

「同じ物資が、複数の商会を経由しています」

ハンニバルは眉をひそめた。

「必要な取引なのですか?」

「一部は必要かもしれない」

俺は答えた。

「でも、全部が必要とは思えない」

ハンニバルは静かに言った。

「兵士への食料を減らしておきながら、商人が利益を増やしているのなら、許せませんね」

俺は頷いた。

「だから、証拠を集めたい」

その夜。

俺は、カルタゴ本国へ新しい報告書を書いた。

軍需品の市場価格。

契約価格。

仲介商会。

そして、最終的な納入価格。

数字を並べれば、誰にでも分かる。

少なくとも、そう思っていた。

だが。

三日後。

俺の商会の倉庫が、何者かに荒らされた。

「アドン殿!」

メルカルが駆け込んできた。

「倉庫が!」

俺は立ち上がった。

「何があった!?」

「帳簿が盗まれました!」

俺は息を呑んだ。

「……全部?」

「いえ、一部です!」

俺は急いで倉庫へ向かった。

扉が壊されていた。

棚が倒れている。

そして、軍需契約の写しを保管していた箱が開けられていた。

俺は呟いた。

「……やっぱり、狙われたか」

メルカルが尋ねた。

「どうします?」

俺は答えた。

「大丈夫」

「……?」

「写しは別の場所にもある」

メルカルは目を見開いた。

「……いつの間に?」

俺は肩をすくめた。

「商人だからね」

翌朝。

俺はハンニバルへ、正式に報告した。

「軍需契約の調査を妨害する者がいる」

ハンニバルは頷いた。

「護衛を増やしましょう」

俺は答えた。

「ありがとう」

そして続けた。

「それと、もう一つお願いがある」

「何ですか?」

俺は帳簿を広げた。

「軍の購入契約を、できるだけ公開してほしい」

ハンニバルは考え込んだ。

「……公開?」

「少なくとも、契約価格と納入数量を照合できるようにしたい」

ハンニバルは頷いた。

「分かりました」

その日の夕方。

ハンニバルは補給担当者たちを集めた。

「今後、軍需品の納入記録を統一する」

将校たちが顔を上げた。

「数量」

「価格」

「納入日」

「受領者」

ハンニバルは続けた。

「すべて記録し、照合する」

俺は頷いた。

「これなら、同じ物資を何度も請求するのは難しくなる」

だが。

本国から届いた返事は、予想外だった。

『アドン商会による軍需契約への介入を禁止する』

俺は書簡を見つめた。

「……は?」

メルカルが尋ねた。

「どういうことですか?」

俺は答えた。

「俺が調べること自体を、禁止するらしい」

メルカルは叫んだ。

「そんな!」

俺はため息をついた。

「……なるほどね」

そして、静かに言った。

「これは、思ったより根が深いな」

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