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転生したらカルタゴ人だったので、ハンニバルを勝たせてローマに勝利します  作者: レモンティー


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第三十八話 戦争を止めようとしていたのに、ローマ軍が国境を越えてきた

サグントゥム。

俺はルキオの商会を訪ねていた。

カルタゴ政府へ提出された報告書には、ルキオがカルタゴ軍の駐留要求を拒否した証人として記載されていた。

だが、本人はそんな証言をしていないという。

「俺の名前が使われていた?」

ルキオは報告書の写しを見るなり、顔をしかめた。

「そうです」

「馬鹿な。

こんな書類に署名した覚えはない」

俺は頷いた。

「確認したかったんです」

ルキオは机を叩いた。

「誰が俺の名前を使った!」

「まだ分かりません」

「バアルハンノ商会か?」

「関係している可能性はあります」

俺は答えた。

「ですが、今はそれ以上に重要なことがあります」

「何だ?」

俺は静かに言った。

「この報告書が、すでにカルタゴとローマの双方へ送られていることです」

ルキオは黙った。

そして、低い声で言った。

「……戦争になるぞ」

俺は答えなかった。

なぜなら。

俺も、同じことを考えていたからだ。

それから五日後。

サグントゥムの港に、一隻の船が入ってきた。

ローマ方面からの急使を乗せた船だった。

港では、荷物を降ろす作業が中断された。

兵士が走る。

役人が集まる。

そして、使者が馬に乗って評議会へ向かった。

俺がその知らせを聞いたのは、ネロンの商会だった。

「アドン!」

ネロンが駆け込んできた。

「ローマから使者が来た!」

俺は顔を上げた。

「何があったんです?」

ネロンは息を切らしながら答えた。

「ローマが、サグントゥムの安全を守るために軍を動かすそうだ!」

俺は立ち上がった。

「……何?」

「沿岸の同盟都市に兵を集めているらしい!」

俺は深く息を吐いた。

ついに。

軍隊が動き始めた。

その日の午後。

サグントゥムの評議会で緊急会議が開かれた。

ローマの使節ガイウス・セルウィリウスが、議場の中央に立っていた。

「ローマは、サグントゥム周辺の情勢を重大な問題として受け止めている」

議場が静まり返る。

ガイウスは続けた。

「カルタゴ軍による進軍の噂」

「交易路での武装集団の活動」

「そして、サグントゥムへの駐留要求」

俺は黙って聞いていた。

どれも、実際に問題となった出来事だ。

だが、その一部には偽の命令や報告が混ざっている。

ガイウスは続けた。

「ローマは、沿岸の友好都市へ警戒を呼びかけ、必要な兵力を集めている」

議員の一人が立ち上がった。

「つまり、ローマ軍が来るのですか?」

ガイウスは答えた。

「その可能性がある」

議場がざわついた。

俺は手を挙げた。

「一つ、確認させてください」

ガイウスが俺を見た。

「何だ?」

「ローマは、カルタゴへ宣戦布告したのですか?」

ガイウスは首を振った。

「まだだ」

俺は頷いた。

「では、軍を動かす目的は?」

ガイウスは答えた。

「サグントゥムと周辺地域の安全を確保するためだ」

俺は静かに言った。

「……その軍がカルタゴ軍と遭遇したら?」

ガイウスは答えなかった。

会議が終わった後。

俺はガイウスに声をかけた。

「使節殿」

「アドンか」

「一つお願いがあります」

「何だ?」

「ローマ軍には、サグントゥムの同意なく都市へ入らないよう伝えていただけませんか?」

ガイウスは眉をひそめた。

「それは軍の指揮官が判断することだ」

俺は頷いた。

「分かっています」

「だが、なぜそこまで気にする?」

俺は答えた。

「カルタゴ軍の駐留を拒否している都市が、ローマ軍だけを受け入れたら、どう見えるでしょうか?」

ガイウスは黙った。

俺は続けた。

「カルタゴから見れば、サグントゥムがローマの軍事拠点になったように見えます」

「……」

「そうなれば、戦争を避けるのは難しくなります」

ガイウスは深く息を吐いた。

「……分かった。

報告はしよう」

だが、その表情は険しかった。

さらに三日後。

今度はヒスパニア内陸部から急使が到着した。

ハミルカル将軍の軍営からだった。

俺は書簡を開いた。

『アドン。

ローマ方面の軍事的な動きが確認された。

沿岸の都市で兵が集められている。

さらに、ローマと関係の深い部族の一部が、我々との交易を停止した。』

俺は眉をひそめた。

「……交易停止?」

続きを読んだ。

『軍は現時点でサグントゥムへの進軍を命じていない。

だが、周辺の部族がローマ軍の到来を予想し、態度を変え始めている。』

俺は深く息を吐いた。

「……始まったか」

メルカルが尋ねた。

「何がです?」

俺は答えた。

「戦争の準備を始めた国があると、周囲も準備を始める」

「はい」

「すると、相手はそれを見て、さらに軍を増やす」

メルカルは頷いた。

「……お互いに?」

「そう」

俺は静かに言った。

「誰も最初の攻撃を命じていなくても、戦争に近づいていくんだ」

その夜。

俺はネロンの商会で地図を広げていた。

サグントゥム。

カルタゴ軍の駐屯地。

ローマ方面の港。

周辺の部族。

交易路。

そして、海。

俺は地図の上に、小さな石を置いた。

カルタゴ軍。

ローマ軍。

サグントゥムの守備隊。

それぞれの位置を示す。

メルカルが尋ねた。

「……どうするんですか?」

俺は答えた。

「まず、軍同士が接触しないようにする」

「できるんですか?」

「分からない」

俺は正直に答えた。

「でも、やるしかない」

翌朝。

俺はハミルカル将軍のもとへ向かった。

途中の街道では、普段と違う光景が広がっていた。

荷車が減っている。

商人たちが引き返している。

村の入口には、武装した男たちが立っている。

戦争は、まだ始まっていない。

だが、人々はすでに戦争を恐れていた。

軍営に到着すると、ハミルカルが俺を迎えた。

「アドン」

「将軍」

俺は頭を下げた。

将軍は地図を指差した。

「見ろ」

そこには、複数の印が付けられていた。

ローマ方面の軍勢が集まっている場所。

カルタゴ軍の補給拠点。

そして、両軍の間にある交易路。

俺は眉をひそめた。

「……近いですね」

ハミルカルは頷いた。

「そうだ」

俺は尋ねた。

「将軍。

サグントゥムへ進軍する予定は?」

ハミルカルは首を振った。

「ない」

俺は少し安心した。

だが、将軍は続けた。

「しかし、ローマ軍がこちらの補給路へ進めば、対応せざるを得ん」

俺は頷いた。

「そうでしょうね」

「軍を動かさずに済むとは限らない」

「はい」

ハミルカルは静かに言った。

「戦争を避けるためには、相手にも軍を止めてもらう必要がある」

俺は深く息を吐いた。

「……そのとおりです」

そのとき。

幕舎の外から、兵士の声が聞こえた。

「将軍!」

若い兵士が駆け込んできた。

「北東の街道で、武装した集団が確認されました!」

ハミルカルが顔を上げた。

「所属は?」

「ローマ側の標識を掲げています!」

俺は息を呑んだ。

「……ローマ軍?」

兵士は続けた。

「人数は、およそ千!」

ハミルカルの表情が険しくなった。

「どこへ向かっている?」

「南西です!」

俺は地図を見た。

南西。

そこには、カルタゴ軍の補給拠点がある。

俺は静かに呟いた。

「……まずい」

ハミルカルはすぐに命令を出した。

「周辺部隊へ警戒を伝えろ」

「はっ!」

「ただし、先に攻撃するな」

「承知しました!」

兵士が走り去る。

俺は将軍を見た。

「……ありがとうございます」

ハミルカルは首を振った。

「礼を言うのは早い」

「……」

「相手が攻撃してきたら、こちらも戦わねばならん」

俺は黙った。

それは当然だ。

兵士を守る責任がある。

補給拠点を守る責任がある。

そして、周辺の部族との約束もある。

戦争を避けたいからといって、すべてを放棄できるわけではない。

翌日。

さらに報告が届いた。

ローマ側の武装集団は、街道沿いの小さな砦に入ったという。

砦は、もともと地元の部族が管理していた場所だった。

だが、その部族はローマとの関係を強めていた。

俺は地図を見た。

「……ここを押さえられると、補給路が危険ですね」

アズルバルが頷いた。

「はい」

「ほかの道は?」

「ありますが、遠回りになります」

俺は考え込んだ。

補給路を押さえられる。

食料が届かなくなる。

軍が動けなくなる。

これまで、バアルハンノ商会がやろうとしていたことと同じだ。

ただし、今回は相手が軍隊だ。

俺は静かに言った。

「……本当に戦争になりそうですね」

ハミルカルは答えた。

「もう、戦争の入口に立っている」

その夜。

軍営では、兵士たちが武器を確認していた。

槍。

盾。

投石器。

弓。

馬の手入れをする兵士もいる。

俺はその光景を見つめていた。

すると、背後から声がした。

「アドン」

振り返ると、ハンニバルが立っていた。

「どうしました?」

少年は地図を持っていた。

「父上が、ローマ軍と戦うかもしれないと言っていた」

俺は頷いた。

「そうですね」

ハンニバルは尋ねた。

「ローマ軍は強いのか?」

俺は少し考えた。

「強いですよ」

「どれくらい?」

「簡単には勝てない相手です」

ハンニバルは頷いた。

「そうか」

そして、静かに尋ねた。

「……でも、父上なら勝てるだろう?」

俺は答えなかった。

俺は知っている。

これから先、カルタゴとローマは大きな戦争をする。

ハンニバルは、やがてローマを震え上がらせる将軍になる。

だが、最後にはカルタゴが敗れる。

そして、さらに後の戦争で、カルタゴそのものが滅ぼされる。

俺は、その未来を知っている。

だからこそこの戦争を避けたかった。

だが、歴史は、簡単には変わらない。

いくらこちらが譲歩しても侵略者は突然攻めてくるのだ。


俺は静かに答えた。

「……勝てるかどうかより、何のために戦うかが大事だと思います」

ハンニバルは首を傾げた。

「何のため?」

「守るためです」

「何を?」

俺は答えた。

「兵士たちと、ここで暮らしている人たちを」

ハンニバルはしばらく考え込んだ。

そして、頷いた。

「……分かった」

翌朝。

軍営に緊急の報告が届いた。

「将軍!」

兵士が駆け込んできた。

「北東の砦から、ローマ側の部隊が出撃しました!」

ハミルカルが立ち上がった。

「どこへ向かっている?」

「我が軍の補給隊です!」

俺は息を呑んだ。

「……何?」

兵士は続けた。

「補給隊は、穀物を積んだ荷車二十台を護送しています!」

ハミルカルの表情が変わった。

「護衛は?」

「歩兵百人ほどです!」

俺は地図を見た。

ローマ側の部隊。

およそ千人。

カルタゴの補給隊。

護衛百人。

もし戦闘になれば、補給隊は危険だ。

ハミルカルはすぐに命令した。

「近くの部隊へ連絡しろ!」

「はっ!」

「補給隊を守れ!」

兵士が走り去る。

俺は深く息を吐いた。

「……間に合うでしょうか」

ハミルカルは答えた。

「分からん」

それから数時間後。

軍営に、負傷した騎兵が戻ってきた。

馬から降りると、そのまま膝をついた。

「将軍……!」

ハミルカルが駆け寄った。

「何があった!」

騎兵は息を切らしながら答えた。

「補給隊が……襲撃されました……!」

俺は息を呑んだ。

「……ローマ軍に?」

騎兵は頷いた。

「はい……!」

ハミルカルの表情が険しくなった。

「被害は?」

騎兵は答えた。

「荷車が数台、焼かれました……!」

「兵士は?」

「死者が出ています……!」

幕舎が静まり返った。

俺は拳を握った。

ついに。

人が死んだ。

ハミルカルは静かに尋ねた。

「誰が先に攻撃した?」

騎兵は答えた。

「分かりません……」

俺は顔を上げた。

「……分からない?」

騎兵は頷いた。

「双方が近づいたとき、矢が飛んできました……」

俺は深く息を吐いた。

また、矢だ。

サグントゥムの城壁でも、最初は一本の矢だった。

そして今回も。

誰が放ったのか分からない矢から、戦闘が始まった。

ハミルカルはしばらく黙っていた。

そして、低い声で言った。

「……兵を集めろ」

幕舎の空気が変わった。

アズルバルが尋ねた。

「将軍。

反撃ですか?」

ハミルカルは答えた。

「まず、補給隊を救出する」

「はっ!」

「負傷者を運び、残った食料を確保しろ」

「承知しました!」

俺は将軍を見た。

「……ローマ軍とは?」

ハミルカルは静かに答えた。

「こちらから追撃はしない」

俺は少し安心した。

だが、将軍は続けた。

「しかし、再び攻撃してくるなら、迎え撃つ」

俺は頷いた。

「……分かりました」

その日の夕方。

軍営へ、さらに悪い知らせが届いた。

補給隊を襲った部隊は、ローマの標識を掲げていた。

だが、正式なローマ軍なのか、ローマと関係のある部族の兵なのかは確認できていない。

そして。

ローマ側にも死者が出ていた。

俺は深く息を吐いた。

「……双方に死者が」

アズルバルが頷いた。

「はい」

俺は静かに呟いた。

「……もう、簡単には止まらないな」

夜。

俺は軍営の外で、燃える篝火を見つめていた。

戦争を避けるために、ここまで動いてきた。

商人を集めた。

交易路を作った。

不正を調べた。

偽の命令書を見つけた。

政府の買い取り案を止めようとした。

そして、ローマとカルタゴの双方へ事実を伝えた。

だが、それでも、戦闘は起きた。

俺は静かに呟いた。

「……間に合わなかったか」

そのとき。

背後から声がした。

「アドン」

振り返ると、ハミルカルが立っていた。

「将軍」

俺は頭を下げた。

将軍は隣に立った。

そして、静かに言った。

「戦争は、始めるより終わらせる方が難しい」

俺は頷いた。

「……そうですね」

ハミルカルは続けた。

「だが、まだ正式な宣戦布告はない」

俺は顔を上げた。

「……はい」

「ならば、まだできることはある」

俺は将軍を見た。

ハミルカルは静かに言った。

「戦う準備をしながら、戦争を止める方法を探せ」

俺は深く息を吐いた。

「……分かりました」

翌朝。

カルタゴ軍は、補給路を守るために部隊を移動させた。

ローマ側も、砦の周辺に兵を集めている。

両軍の距離は、さらに近づいていた。

そして、その日の昼。

新しい報告が届いた。

「将軍!」

兵士が駆け込んできた。

「ローマ側の部隊が、川の向こう岸に布陣しました!」

ハミルカルが立ち上がった。

「人数は?」

「およそ三千!」

俺は息を呑んだ。

「……三千?」

兵士は続けた。

「さらに、後方から増援が向かっている模様です!」

ハミルカルは地図を見つめた。

そして、静かに言った。

「……来たか」

俺は深く息を吐いた。

ローマ軍。

カルタゴ軍。

双方が、同じ川を挟んで向かい合う。

その川の名前は――トゥリア川。

後に、この地域で幾度も戦いが起きることになる川だった。

俺は静かに呟いた。

「……ついに、戦争が始まるのか」

だが、このときの俺は、まだ知らなかった。

翌朝、川を渡ろうとするローマ側の部隊に対し、ハミルカル将軍が初めて本格的な迎撃命令を出すことになるのを。

そして、その戦いが――

カルタゴとローマの運命を大きく変える、最初の会戦になることを。

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