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転生したらカルタゴ人だったので、ハンニバルを勝たせてローマに勝利します  作者: レモンティー


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第三十七話 まだ渡していない最後通牒を拒否されたことになっていたので、戦争の報告書を調べてみた

サグントゥム。

俺は机の上に一通の書簡を置いた。

カルタゴ政府の印章が押された、サグントゥムへの駐留要求書。

内容は簡単だった。

カルタゴ軍の限定的な駐留を認めること。

拒否した場合、カルタゴ政府は必要な措置を講じる権利を留保すること。

いわば最後通牒に近い文書だ。

だが、この書簡には重大な問題があった。

サグントゥム政府へ、まだ正式に渡されていない。

それなのに。

カルタゴ本国では、すでにサグントゥムが要求を拒否したことになっているらしい。

俺は深く息を吐いた。

「……まだ要求していないのに、拒否された?」

メルカルが首を傾げた。

「どういうことですか?」

「俺にも分からない」

俺は答えた。

「だから、確認する」

翌朝。

俺はネロンと一緒に、サグントゥムの評議会を訪ねた。

市の役人たちは、俺たちを見ると困惑した表情を浮かべた。

「アドン殿。

また何か問題ですか?」

俺は頷いた。

「確認したいことがあります」

「何でしょう?」

俺は書簡を差し出した。

「この文書をご存じですか?」

役人は受け取った。

そして、読み始めた。

最初は無表情だった。

だが、途中で顔色が変わった。

「……何ですか、これは」

俺は答えた。

「カルタゴ軍の駐留を要求する文書です」

役人は眉をひそめた。

「そんな要求は受けていません」

俺は頷いた。

「そうですよね」

「少なくとも、評議会へ正式に提出された記録はありません」

俺は静かに尋ねた。

「確認していただけますか?」

役人は頷いた。

「もちろんです」

しばらくして、評議会の記録係が呼ばれた。

彼は過去数週間の外交文書を確認した。

カルタゴからの書簡。

ローマからの書簡。

周辺部族からの申し入れ。

そして、商会からの陳情。

だが。

「……ありません」

記録係は答えた。

「このような駐留要求書を受領した記録はありません」

俺は頷いた。

「ありがとうございます」

役人は険しい顔で言った。

「アドン殿」

「はい」

「この文書は、どこで手に入れたのですか?」

俺は答えた。

「以前、カルタゴの旗を掲げてサグントゥムへ接近した武装集団の騎手が持っていました」

役人の表情が変わった。

「……あの武装集団が?」

「はい」

俺は続けた。

「ただし、その騎手は矢を受けて退却したため、書簡を渡していません」

役人は深く息を吐いた。

「……ほう」

俺はさらに尋ねた。

「この要求について、評議会で議論したことはありますか?」

役人は首を振った。

「ありません」

「非公式な話し合いは?」

「少なくとも、私の知る限りありません」

俺は頷いた。

「分かりました」

すると、隣にいたネロンが言った。

「もしこんな要求が正式に届いていたら、評議会は大騒ぎになっていたはずです」

役人も頷いた。

「当然です」

ネロンは続けた。

「ローマ軍の駐留を認めないと言っているのに、カルタゴ軍なら認めるなどという話にはなりません」

俺は少し笑った。

「そうですね」

サグントゥムは、どちらかの軍隊を置くための都市ではない。

俺たちが作った中立交易協定案も、その考え方を基本にしている。

もちろん、まだ正式に締結されたわけではない。

だが、少なくともネロンたちは、その方針を守ろうとしていた。

その日の午後。

俺はサグントゥムの役人から、正式な確認文書を受け取った。

内容は簡潔だった。

『本市評議会の受領記録において、カルタゴ軍の駐留を要求する正式な書簡は確認されていない。

また、当該要求について、評議会が承認または拒否を決議した記録も存在しない。』

俺は頷いた。

「……これで一つ確認できた」

メルカルが尋ねた。

「何がです?」

俺は答えた。

「サグントゥム政府は、まだ要求を拒否していない」

「はい」

「そもそも、正式に要求されていないからね」

メルカルは頷いた。

「そうですね」

俺は続けた。

「問題は、カルタゴ本国で何が報告されているかだ」

数日後。

カルタゴ本国から、父の書簡が届いた。

俺はすぐに封を開いた。

『アドン。

ハンノ殿が、サグントゥムに関する政府報告を確認した。

その報告には、カルタゴ政府による安全確保の申し入れがサグントゥム側に拒否されたと記載されている。』

俺は眉をひそめた。

「……やはり」

続きを読んだ。

『報告書の提出者は、ヒスパニア方面交易路安全調査団となっている。』

俺は顔を上げた。

「……調査団?」

メルカルが尋ねた。

「そんな調査団がいたんですか?」

俺は首を振った。

「聞いたことがない」

さらに読み進める。

『なお、この調査団の活動費には、政府の安全保障協力費が充てられる予定とされている。』

俺は深く息を吐いた。

「……ほう」

また、安全保障協力費だ。

俺は机の上に資料を並べた。

バアルハンノ商会。

アウレリウス商会。

政府指定の護衛隊。

交易路の警備。

そして、ヒスパニア方面交易路安全調査団。

すべてに、安全保障という言葉が使われている。

俺は静かに呟いた。

「……ずいぶん便利な言葉だな」

メルカルが尋ねた。

「何がです?」

俺は答えた。

「安全を守ると言えば、いろいろな費用を説明できる」

「はい」

「護衛隊も雇える」

「はい」

「情報も集められる」

「はい」

「そして、危険があると報告することもできる」

メルカルは考え込んだ。

俺は続けた。

「もちろん、本当に必要な仕事なら問題ない」

「そうですね」

「でも、その危険が事実と違っていたら?」

メルカルは黙った。

俺は父へ返事を書いた。

『サグントゥム評議会へ確認したところ、カルタゴ軍の駐留要求書を正式に受領した記録はなく、拒否の決議も存在しません。

したがって、政府報告にある「申し入れが拒否された」という記述について、事実関係の再確認が必要です。

また、報告書の作成者と、実際にサグントゥムへ申し入れを行った人物について確認をお願いします。』

俺は封を閉じた。

「これを送ってくれ」

メルカルが頷いた。

「分かりました」

だが、問題はそれだけではなかった。

翌日。

ローマの使節、ガイウス・セルウィリウスが俺を訪ねてきた。

「アドン殿」

「ガイウス殿」

俺は頭を下げた。

彼は険しい顔をしていた。

「少し話がある」

「何でしょう?」

ガイウスは一枚の書簡を差し出した。

「ローマへ、新しい報告が届いた」

俺は顔を上げた。

「どんな報告です?」

ガイウスは答えた。

「カルタゴが、サグントゥムへ駐留を要求したというものだ」

俺は深く息を吐いた。

「……やはり」

ガイウスは続けた。

「しかも、サグントゥムが拒否したため、カルタゴ軍が行動を開始する可能性があると書かれている」

俺は眉をひそめた。

「……同じ内容ですね」

ガイウスが俺を見た。

「何?」

俺は説明した。

カルタゴ本国にも、同じような報告が届いていること。

だが、サグントゥム評議会は要求を受け取っていないこと。

そして、拒否の決議も存在しないこと。

ガイウスは最後まで黙って聞いていた。

やがて、低い声で言った。

「……つまり、両国へ同じ報告が送られているのか」

俺は頷いた。

「その可能性があります」

ガイウスは考え込んだ。

「カルタゴでは、サグントゥムが要求を拒否したと報告されている」

「はい」

「ローマでは、カルタゴが駐留を要求し、拒否されたため軍事行動を検討していると報告されている」

俺は頷いた。

「そうです」

ガイウスは静かに言った。

「……どちらの国でも、強硬な対応を求める者が出るだろう」

俺は深く息を吐いた。

「それが心配なんです」

ガイウスは続けた。

「ローマでは、サグントゥムを支援するべきだという意見が強くなる」

「はい」

「カルタゴでは、要求を拒否された以上、威信を守るべきだという意見が出る」

俺は頷いた。

「そうでしょうね」

ガイウスは俺を見た。

「……誰かが、両国を争わせようとしているようにも見えるな」

俺は静かに答えた。

「俺も、そう考えています」

だが、ガイウスはすぐに言った。

「ただし、まだ証拠は十分ではない」

俺は頷いた。

「承知しています」

「同じ内容の報告が届いたからといって、同じ人物が書いたとは限らない」

「はい」

「まして、ローマ政府やカルタゴ政府が関与していると決めつけることもできない」

俺は頷いた。

「そのとおりです」

ガイウスは少し笑った。

「君は、ずいぶん慎重だな」

俺も笑った。

「商人ですから」

「……商人?」

「はい」

俺は答えた。

「証拠もないのに相手を信用できないと決めつけたら、商売ができなくなります」

ガイウスは小さく笑った。

「ほう」

俺は尋ねた。

「ガイウス殿。

その報告書は、どこから送られてきたんですか?」

ガイウスは答えた。

「ヒスパニア沿岸の港だ」

俺は頷いた。

「どの港です?」

ガイウスは少し考えた。

「以前、偽の侵攻報告が発送された港と同じだ」

俺は眉をひそめた。

「……また、あの港ですか」

ガイウスは頷いた。

「そうだ」

俺は深く息を吐いた。

そこは、バアルハンノ商会が利用していた港だ。

アウレリウス商会の船も出入りしている。

以前、サグントゥム侵攻を知らせる偽の書簡が、事件より前に発送されていた。

そして今回も。

実際には行われていない外交交渉について、拒否されたという報告が送られている。

俺は静かに呟いた。

「……同じ仕組みかもしれない」

俺はガイウスに尋ねた。

「報告書の発送者は分かりますか?」

ガイウスは首を振った。

「まだ確認中だ」

俺は頷いた。

「そうですか」

ガイウスは続けた。

「ただし、運送を担当した商会の名前は分かっている」

俺は顔を上げた。

「どこです?」

ガイウスは答えた。

「アウレリウス商会だ」

俺は深く息を吐いた。

「……やはり」

ガイウスはすぐに付け加えた。

「だが、運送を担当しただけなら、それ自体は不正ではない」

俺は頷いた。

「分かっています」

「問題は、誰が書いた報告書なのかだ」

俺は静かに答えた。

「そのとおりです」

その夜。

俺はネロンの商会で、これまでの出来事を整理した。

サグントゥムへ接近した武装集団。

カルタゴ軍の旗。

都市側から放たれた矢。

未配達の駐留要求書。

そして、すでに拒否されたことになっている報告書。

メルカルが言った。

「……おかしなことばかりですね」

俺は頷いた。

「そうだね」

「でも、どうしてこんなことをするんでしょう?」

俺は少し考えた。

そして答えた。

「戦争が起きると得をする人間がいるからだと思う」

メルカルは頷いた。

「バアルハンノ商会ですね」

「その可能性はある」

俺は続けた。

「軍需物資を大量に買い集めている」

「はい」

「交易路の警備費も取ろうとしている」

「はい」

「港の権利も狙っている」

メルカルは深く息を吐いた。

「……全部、戦争に関係していますね」

俺は頷いた。

「そう」

だが、俺は続けた。

「ただ、商会だけでここまでできるとは思えない」

メルカルが顔を上げた。

「……政府の中にも協力者が?」

俺は答えた。

「その可能性がある」

翌朝。

俺はネロンとルキオを訪ねた。

二人は、サグントゥムの商人たちをまとめるために動いていた。

「アドン殿」

ネロンが言った。

「また問題が?」

俺は頷いた。

「はい」

俺は説明した。

カルタゴ政府へ、サグントゥムが駐留要求を拒否したという報告が届いていること。

ローマにも、同じような報告が届いていること。

そして、実際には評議会がその要求を受け取っていないこと。

ルキオは険しい顔になった。

「……ふざけた話だ」

俺は頷いた。

「そうですね」

ルキオは続けた。

「我々が拒否したことになっている?」

「はい」

「そもそも、要求されていないのに?」

「そのとおりです」

ルキオは机を叩いた。

「……勝手に都市の意思を決めるな!」

俺は少し驚いた。

以前のルキオなら、ローマの影響力を強めるために、カルタゴとの対立を利用しようとしたかもしれない。

だが、今は違う。

彼はサグントゥムの商人として、都市の自主性を守ろうとしていた。

俺は尋ねた。

「ルキオ殿。

ローマとの関係を重視する立場から見て、今回の問題をどう思いますか?」

ルキオは少し考えた。

そして答えた。

「ローマとの関係は重要だ」

俺は頷いた。

「はい」

「だが、ローマのために、サグントゥムが戦争を始める必要はない」

俺は少し笑った。

「そうですね」

ルキオは続けた。

「我々は商人だ」

「はい」

「戦争になれば、荷物が止まる」

「はい」

「港が閉じる」

「はい」

「そして、金が消える」

俺は頷いた。

「そのとおりです」

ルキオは静かに言った。

「……そんなことを望む商人ばかりではない」

その日の午後。

サグントゥムの評議会で、緊急の会議が開かれた。

議題は、カルタゴ軍の駐留要求書と、拒否したという虚偽の報告について。

俺も、資料を提出するために呼ばれた。

議場には、多くの議員が集まっていた。

ネロン。

ルキオ。

港の管理官エルダン。

そして、ローマの使節ガイウス・セルウィリウス。

俺は議場の中央へ進んだ。

「アドン殿」

議長が言った。

「説明をお願いします」

俺は頭を下げた。

「承知しました」

俺はまず、駐留要求書を示した。

「この書簡は、サグントゥムへ接近した武装集団の騎手が所持していたものです」

議場がざわついた。

俺は続けた。

「ですが、評議会へ正式に提出された記録はありません」

記録係が頷いた。

「確認しています」

俺は次に、カルタゴ本国へ届いた報告の内容を説明した。

「そこには、サグントゥムが要求を拒否したと記載されています」

議員の一人が立ち上がった。

「……そんな決議はしていない!」

俺は頷いた。

「そのとおりです」

さらに続けた。

「ローマにも、同様の報告が届いています」

議場がさらにざわついた。

議長が静かに尋ねた。

「つまり、我々が知らないところで、我々の意思が決められているということですか?」

俺は答えた。

「少なくとも、現在確認できる記録では、そのような状態になっています」

議長は深く息を吐いた。

「……由々しき問題だ」

俺は頷いた。

「はい」

そして続けた。

「だからこそ、評議会として正式な事実確認を行い、その結果を両国へ伝えるべきだと考えます」

議長は頷いた。

「ほう」

議論は長く続いた。

カルタゴへの抗議。

ローマへの説明。

武装集団への対応。

交易路の安全確保。

さまざまな意見が出た。

だが、最後に一つの方針でまとまった。

サグントゥムは、カルタゴ軍の駐留要求書を正式に受領していない。

したがって、拒否の決議も行っていない。

また、都市の自主性を守る立場から、外国軍の一方的な駐留を認めないという従来の方針を維持する。

そして、その事実をカルタゴ政府とローマ政府へ正式に通知する。

俺は深く息を吐いた。

「……よかった」

少なくとも、都市自身の意思は明確になった。

会議の後。

ガイウスが俺へ声をかけた。

「アドン殿」

「はい」

「今日の決議は、ローマへ報告する」

俺は頭を下げた。

「ありがとうございます」

ガイウスは続けた。

「だが、これで問題が終わるとは限らない」

俺は頷いた。

「承知しています」

「すでに強硬な対応を求める者がいる」

「はい」

ガイウスは静かに言った。

「一度広まった噂は、簡単には消えない」

俺は深く息を吐いた。

「……そうですね」

それからしばらくして。

カルタゴ本国から、ハンノの書簡が届いた。

俺はすぐに封を開いた。

『アドン。

サグントゥムに関する政府報告について、作成経緯を調べた。

その結果、報告書はヒスパニア方面交易路安全調査団の名義で提出されていた。』

俺は頷いた。

「……やはり」

続きを読んだ。

『だが、その調査団について、正式な設置決議は確認できなかった。』

俺は眉をひそめた。

「……何?」

さらに続く。

『調査団の活動を認める内部文書は存在するが、政府の正式な決定として扱うには問題がある。』

俺は深く息を吐いた。

「……ほう」

政府の名前。

政府の印章。

政府の調査団。

だが、正式な決定がない。

これまでと同じ構造だ。

俺は続きを読んだ。

『なお、調査団の活動費は、バアルハンノ商会が立て替える形になっていた。』

俺は顔を上げた。

「……バアルハンノ商会?」

メルカルが尋ねた。

「どうしました?」

俺は答えた。

「調査団の費用を、バアルハンノ商会が出していたらしい」

メルカルは眉をひそめた。

「……政府の調査団なのに?」

俺は頷いた。

「そう」

さらに読み進める。

『その費用は、後日、政府の安全保障協力費から精算される予定だった。』

俺は深く息を吐いた。

「……また、その費用か」

俺は机の上に資料を並べた。

安全保障協力費。

アウレリウス商会。

バアルハンノ商会。

交易路の護衛隊。

そして、政府の調査団。

俺は静かに呟いた。

「……同じ金が、いろいろなところに使われているな」

メルカルが尋ねた。

「どういうことです?」

俺は答えた。

「政府が軍需物資を買う」

「はい」

「その価格に、安全保障協力費が含まれている」

「はい」

「その費用が、商会を通じて調査団や護衛隊の活動に使われる」

メルカルは頷いた。

「……ほう」

俺は続けた。

「そして、その調査団が戦争の危険を報告する」

メルカルの表情が変わった。

「……あ」

俺は静かに言った。

「危険が大きいと報告されれば、安全保障協力費の必要性も高まる」

メルカルは黙った。

俺は続けた。

「もし、その報告が意図的に誇張されていたら?」

メルカルは深く息を吐いた。

「……自分たちで費用を増やせることになります」

俺は頷いた。

「そういうことだ」

だが、ハンノの書簡には、まだ続きがあった。

『調査団の責任者についても確認した。

その人物は、政府の正式な役人ではなく、バアルハンノ商会から推薦された民間人だった。』

俺は眉をひそめた。

「……民間人?」

さらに続く。

『名前は、サルド。』

俺は思わず声を上げた。

「……サルド!」

メルカルが驚いた。

「え?」

俺は答えた。

「軍営へ抗議に来た男だ」

「……あの人ですか?」

「そう」

俺は頷いた。

「現地商人へ納入停止を通知した人物でもある」

メルカルの顔色が変わった。

「……全部、同じ人なんですか?」

俺は深く息を吐いた。

「少なくとも、複数の件に関わっている」

俺は書簡の最後を読んだ。

『さらに、サルドが提出した報告書には、サグントゥムがカルタゴ軍の駐留要求を拒否したという記述がある。

しかし、要求書を正式に渡したことを示す受領記録は添付されていない。』

俺は頷いた。

「……やっぱり」

だが、次の一文で手が止まった。

『報告書には、サグントゥム側の拒否を確認した人物として、証人の名前が記載されている。』

俺は眉をひそめた。

「……証人?」

続きを読んだ。

『その証人は、サグントゥムの商人とされている。』

俺は深く息を吐いた。

「……商人?」

さらに続く。

『名前は、ルキオ。』

俺はしばらく動けなかった。

ルキオ。

サグントゥムの有力商人。

ローマとの関係を重視している男。

だが、最近は都市の自主性を守るために協力してくれている。

そのルキオが。

カルタゴ軍の駐留要求を拒否した証人として、報告書に名前を記載されている。

俺は静かに呟いた。

「……どういうことだ?」

メルカルが尋ねた。

「ルキオ殿が、証人なんですか?」

俺は答えた。

「そう書かれている」

「……でも、ルキオ殿は評議会で、要求を受け取っていないと言っていましたよね?」

俺は頷いた。

「そう」

そして、静かに続けた。

「だから、本人に確認する必要がある」

俺は書簡を閉じた。

ルキオが本当に証言したのか。

それとも、勝手に名前を使われたのか。

もし本人が証言していたなら、なぜ評議会では違うことを言ったのか。

もし名前を使われただけなら、誰がその名前を報告書へ書き込んだのか。

俺は深く息を吐いた。

「……次は、ルキオ殿だな」

だが、このときの俺には、まだ知る由もなかった。

ルキオの名前が使われた理由が、単なる偽の証言を作るためだけではなかったことを。

そして、その報告書には――

サグントゥムの商人たちを、ローマ派とカルタゴ派に分裂させるための仕掛けまで用意されていたのだった。

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