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転生したらカルタゴ人だったので、ハンニバルを勝たせてローマに勝利します  作者: レモンティー


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第三十二話 軍需物資の値段を調べたら、ローマの商会に戦争準備費を払うことになっていた

サグントゥム。

朝の市場は、いつもと変わらず賑わっていた。

穀物を積んだ荷車。

魚を売る商人。

布を広げる露店。

そして、値段を巡って言い争う客たち。

俺は市場の一角で、穀物商の話を聞いていた。

「小麦百袋なら、銀貨いくらになりますか?」

商人は俺を見た。

「量によるな。

運ぶ場所は?」

「ヒスパニアの港です」

「港渡しなら、百袋で銀貨二百枚ほどだ」

俺は頷いた。

「ほう」

「ただし、品質と時期によって変わるぞ」

「もちろんです」

俺はメルカルを見た。

「記録しておいて」

「はい」

メルカルが蝋板に数字を書き込む。

小麦百袋。

銀貨二百枚。

一袋あたり銀貨二枚。

俺は次の商人へ向かった。

昼までに、七人の穀物商から見積もりを取った。

価格には多少の差があった。

だが、通常の取引であれば、おおむね同じ範囲に収まっている。

メルカルが記録を見ながら言った。

「平均すると、一袋あたり銀貨二枚前後ですね」

「そうだね」

「政府はいくらで買う予定なんですか?」

俺は父から届いた資料の写しを開いた。

そこには、こう書かれていた。

『ヒスパニア方面軍緊急備蓄用穀物』

予定購入単価。

一袋あたり銀貨三枚。

メルカルが目を丸くした。

「……一枚も高いんですか?」

俺は頷いた。

「そう」

「五割増しですね」

「うん」

メルカルは考え込んだ。

「でも、緊急の買い取りなら高くなることもありますよね?」

俺は少し笑った。

「そのとおり」

メルカルが顔を上げる。

「では、問題ないんですか?」

「まだ分からない」

俺は答えた。

「輸送費や保管費が含まれている可能性もあるからね」

そして、資料の下の方を指差した。

「問題は、こっちなんだ」

そこには、価格の内訳が記載されていた。

穀物代。

輸送費。

保管費。

管理費。

そして。

『ヒスパニア方面安全保障協力費』

メルカルが首を傾げた。

「……安全保障協力費?」

「そう」

「何ですか、これ?」

俺は答えた。

「それを調べている」

メルカルは資料を覗き込んだ。

「誰に払うんですか?」

俺は指を動かした。

費用の支払先。

アウレリウス商会。

メルカルの表情が変わった。

「……ローマ方面の商会ですよね?」

「そう」

俺は頷いた。

「以前、バアルハンノ商会へ銀貨三万枚を貸し付けた商会だ」

「それが、なぜカルタゴ軍の補給費用に?」

「分からない」

俺は静かに言った。

「だから、確認する必要がある」

その日の午後。

俺はネロンの商会へ戻った。

机の上には、市場で集めた見積書が並んでいる。

小麦。

大麦。

保存肉。

鉄材。

革製品。

それぞれの市場価格と、政府の買い取り予定価格を比較した。

メルカルが数字を読み上げる。

「小麦は、およそ五割増し」

「うん」

「鉄材は、約三割増し」

「うん」

「革製品は、約四割増し」

俺は頷いた。

「ただし、品質が完全に同じとは限らない」

メルカルは記録に注記した。

「分かりました」

俺は続けた。

「それに、軍用規格の検査や輸送の危険負担が含まれているなら、単純比較はできない」

「そうですね」

「だから、内訳を一つずつ確認しよう」

メルカルは頷いた。

まず、輸送費。

これは比較的簡単だった。

港から軍の補給拠点まで、どれくらいの距離があるか。

荷車を何台使うか。

何日かかるか。

護衛が必要か。

俺たちは複数の運送業者から見積もりを取った。

その結果。

政府案の輸送費は、やや高いものの、異常と断定できるほどではなかった。

「……ここは問題ないんですかね」

メルカルが言った。

俺は頷いた。

「少なくとも、説明できる範囲だね」

次は保管費。

倉庫の使用料。

管理人の賃金。

穀物の傷みを防ぐための費用。

こちらも、通常の相場と大きく違わなかった。

俺は資料を閉じた。

「……残るのは一つだな」

メルカルが頷いた。

「安全保障協力費ですね」

俺は改めて、その項目を確認した。

『輸送路の安全確保、危険情報の収集、関係商会との連絡調整に必要な費用』

説明としては、それらしい。

だが、気になることがある。

輸送路の護衛費は、すでに別項目で計上されている。

港の連絡費も、管理費に含まれている。

それなのに、さらに安全保障協力費が必要なのか。

俺は首を傾げた。

「……何をしてくれるんだろう」

メルカルが尋ねた。

「アウレリウス商会が、軍の輸送路を守るんですか?」

「商会が自分の船や荷物を守ることはある」

俺は答えた。

「でも、カルタゴ軍の補給路全体を守るとなると、話が違う」

「そうですよね」

俺は続けた。

「そもそも、誰が何をする契約なのか分からない」

メルカルは頷いた。

「契約書を確認する必要がありますね」

「そのとおり」

俺はアウレリウス商会の代理人、セクストゥスを訪ねた。

彼は俺を見ると、苦笑した。

「また来られましたか」

「すみません」

「今度は何でしょう?」

俺は資料を取り出した。

「安全保障協力費について伺いたいんです」

セクストゥスの表情が変わった。

「……どこで、その名前を?」

「カルタゴ政府の買い取り案に記載されています」

彼はしばらく黙っていた。

そして言った。

「その件については、私から詳しく説明できません」

俺は頷いた。

「本店の契約ですか?」

「そうです」

「では、一般的な内容だけでも教えていただけませんか?」

セクストゥスは考え込んだ。

「……何を知りたいのです?」

俺は答えた。

「安全保障協力費とは、具体的に何の対価なのかです」

セクストゥスは椅子に座り直した。

「交易には危険があります」

「そうですね」

「海賊」

「はい」

「盗賊」

「はい」

「政治的な混乱」

俺は頷いた。

「確かに」

セクストゥスは続けた。

「我々は、複数の港や商会と連絡を取り、危険な航路を避けるための情報を集めています」

俺は少し考えた。

「ほう」

「その情報には価値があります」

「それは理解できます」

俺は頷いた。

「ですが、その情報をカルタゴ政府が購入する契約なんですか?」

セクストゥスは黙った。

俺は続けた。

「それとも、バアルハンノ商会が購入する契約なんですか?」

彼は静かに答えた。

「……契約の相手方は、バアルハンノ商会です」

俺は眉をひそめた。

「では、カルタゴ政府との直接契約ではないんですね?」

「そうです」

俺は頷いた。

「ありがとうございます」

これで一つ分かった。

アウレリウス商会は、カルタゴ政府から直接、安全保障協力費を受け取る契約を結んでいるわけではない。

バアルハンノ商会との民間契約だ。

つまり、政府がバアルハンノ商会から物資を購入した場合、その価格の中にアウレリウス商会への支払いが含まれる仕組みになっている。

俺は尋ねた。

「その費用は、物資を輸送しなくても発生するんですか?」

セクストゥスは少し考えた。

「契約内容によります」

「ほう」

「情報提供や連絡調整は、実際の輸送がなくても行われますから」

俺は頷いた。

「確かに」

そして、最後に尋ねた。

「では、その費用が適正かどうかは、どう判断するんですか?」

セクストゥスは答えなかった。

その夜。

俺はネロンの商会で資料を整理していた。

メルカルが尋ねる。

「何か分かりました?」

俺は頷いた。

「安全保障協力費は、アウレリウス商会とバアルハンノ商会の契約に基づくものらしい」

「ほう」

「でも、具体的な仕事の内容や成果は、まだ確認できていない」

メルカルは考え込んだ。

「……それなのに、政府が払うことになるんですか?」

俺は答えた。

「正確には、政府が購入する物資の価格に含まれる可能性がある」

「……ほう」

俺は続けた。

「問題は、政府がその費用を必要だと判断したのかどうかだ」

メルカルは頷いた。

「そうですね」

俺は静かに言った。

「民間商会同士がどんな契約を結ぶかは、基本的には自由だ」

「はい」

「でも、その費用を国庫に負担させるなら、説明が必要になる」

翌日。

俺は父へ報告書を書いた。

市場価格との比較。

輸送費と保管費の調査結果。

そして、安全保障協力費の支払い構造。

最後に、こう書いた。

『安全保障協力費について、アウレリウス商会の代理人から、バアルハンノ商会との民間契約に基づく費用であるとの説明を受けた。

現時点では、カルタゴ政府との直接契約は確認できていない。

したがって、政府がこの費用を買い取り価格に含める場合には、具体的な役務内容、金額の根拠、他の費用との重複の有無を確認する必要がある。』

俺は封を閉じた。

そして、メルカルに渡した。

「カルタゴへ送ってくれ」

「分かりました」

だが、翌朝。

予想外の人物が俺を訪ねてきた。

ルキウス・ファビウスだった。

以前からサグントゥムの交易問題について話し合ってきた、ローマの使節だ。

「アドン殿」

「ルキウス殿」

俺は少し驚いた。

「どうされたんですか?」

ルキウスは静かに言った。

「アウレリウス商会について、調べているそうだな」

俺は頷いた。

「はい」

「何か分かったか?」

俺は少し迷った。

そして答えた。

「カルタゴ政府の軍需物資買い取り案に、アウレリウス商会への費用が含まれています」

ルキウスは眉をひそめた。

「……政府の買い取り案に?」

「はい」

俺は説明した。

安全保障協力費。

バアルハンノ商会との民間契約。

そして、カルタゴ政府の買い取り価格への上乗せ。

ルキウスは最後まで黙って聞いていた。

やがて、静かに言った。

「……興味深いな」

俺は尋ねた。

「ローマ政府は、この契約を知っているんですか?」

ルキウスは首を振った。

「少なくとも、私は知らなかった」

俺は頷いた。

「そうですか」

ルキウスは続けた。

「アウレリウス商会は、ローマ方面で活動する民間商会だ」

「承知しています」

「商会の契約が、そのままローマ政府の方針を意味するわけではない」

俺は頷いた。

「そのとおりです」

ルキウスは俺を見た。

「君は、その違いを理解しているようだな」

俺は少し笑った。

「商人と政府を一緒にされたら、俺も困りますから」

ルキウスも小さく笑った。

だが、ルキウスはすぐに表情を戻した。

「一つ、気になることがある」

俺は顔を上げた。

「何でしょう?」

「アウレリウス商会は、最近、ローマ方面でも大量の物資を買い集めている」

俺は眉をひそめた。

「軍需物資ですか?」

「そうだ」

「穀物、鉄材、木材、革製品……」

俺が言うと、ルキウスは頷いた。

「そのとおりだ」

俺は深く息を吐いた。

「……ほう」

ルキウスは続けた。

「だが、商会が物資を買い集めること自体は違法ではない」

「そうですね」

「問題は、その資金の出所だ」

俺は顔を上げた。

「資金?」

ルキウスは頷いた。

「アウレリウス商会は、複数の商人から資金を集めている」

「はい」

「その中には、カルタゴ方面の商人も含まれているらしい」

俺は眉をひそめた。

「……カルタゴ方面?」

ルキウスは静かに言った。

「そうだ」

そして、少し声を落とした。

「君が調べているバアルハンノ商会とは、別の商会だ」

俺は思わず身を乗り出した。

「名前は分かりますか?」

ルキウスは答えた。

「まだ確認中だ」

俺は頷いた。

「分かりました」

ルキウスは続けた。

「ただし、その商会はカルタゴの有力者と関係があるという話だ」

俺は黙った。

カルタゴの有力者。

バアルハンノ商会とは別の商会。

そして、アウレリウス商会への資金提供。

俺は以前の調査を思い出した。

ヒスパニア軍の物資が、民間倉庫へ移されていた。

その一部が、アウレリウス商会へ売却されていた。

さらに、売却代金の一部がカルタゴの商会へ渡った疑いがあった。

その商会は。

アズバル・ハンノンの親族が経営しているという話だった。

俺は静かに呟いた。

「……まさか」

ルキウスが尋ねた。

「何か心当たりがあるのか?」

俺は答えた。

「まだ、確認できていません」

そして続けた。

「ですが、調べるべき商会が一つあります」

数日後。

カルタゴ本国から、父の書簡が届いた。

俺はすぐに封を開いた。

『アドン。

安全保障協力費について、ハンノ殿が政府の調達担当者へ説明を求めた。

その結果、費用の一部が、バアルハンノ商会を経由してアウレリウス商会へ支払われる予定であることが確認された。

ただし、実際の支払いはまだ行われていない。』

俺は頷いた。

「……まだ払われていないのか」

それなら、止められる可能性がある。

俺は続きを読んだ。

『さらに、政府の買い取り予定価格について、複数の商会から見積もりを取っていなかったことが分かった。

ハンノ殿は、買い取り案の再審査を求めている。』

俺は少し安心した。

「……よし」

だが、書簡はまだ続いていた。

『なお、アズバル・ハンノンは、安全保障協力費について、ヒスパニア方面の交易路を維持するために必要な費用だと説明している。』

俺は眉をひそめた。

「……交易路の維持?」

続きを読んだ。

『その説明によれば、費用は現地の部族との連絡調整や、交易路の安全確保に使われる予定だという。』

俺は考え込んだ。

現地の部族との連絡。

交易路の安全確保。

確かに、必要な仕事だ。

だが、俺は一つのことを思い出した。

以前、俺たちは山道を通る交易路を整備した。

ベルコの村。

ガルドの部族。

三年間の通行料を決めた。

道路の維持費も取り決めた。

軍事利用についても制限を設けた。

つまり、すでに、現地の人々との契約がある。

俺は静かに呟いた。

「……待てよ」

メルカルが尋ねた。

「どうしました?」

俺は答えた。

「安全保障協力費の説明が、現地の部族との連絡調整になっている」

「はい」

「でも、俺たちはすでに契約を結んでいるよね?」

メルカルは頷いた。

「はい」

俺は続けた。

「通行料も、維持費も決まっている」

「そうですね」

「だったら、その費用は誰に払うんだ?」

メルカルは黙った。

俺はすぐにベルコとガルドへ連絡を取ることにした。

彼らの村は、サグントゥムから内陸へ向かった先にある。

俺たちは馬車を用意し、山道へ向かった。

数日後。

ベルコの村へ到着した。

村長のベルコは、俺を見ると笑った。

「アドン!」

「お久しぶりです」

ベルコは俺の肩を叩いた。

「また商売か?」

俺は苦笑した。

「今回は、少し違います」

「何だ?」

俺は事情を説明した。

カルタゴ政府の軍需物資買い取り案。

安全保障協力費。

そして、現地の部族との連絡調整費。

ベルコは最後まで聞くと、首を傾げた。

「……そんな金の話は知らんな」

俺は頷いた。

「そうですか」

「うちの村には、何も来ていないぞ」

俺は尋ねた。

「バアルハンノ商会やアウレリウス商会から、何か提案はありましたか?」

ベルコは首を振った。

「ない」

俺は深く息を吐いた。

「……ほう」

翌日。

俺たちはガルドの部族を訪ねた。

ガルドは、以前と変わらず豪快な男だった。

「アドン!」

「お久しぶりです」

「また道の話か?」

俺は笑った。

「そうです」

ガルドは笑った。

「お前は本当に道が好きだな!」

俺も笑った。

「商人ですから」

だが、事情を説明すると、ガルドの表情が変わった。

「……安全保障協力費?」

「はい」

「誰が払うんだ?」

「カルタゴ政府です」

ガルドは眉をひそめた。

「……何のために?」

俺は答えた。

「現地の部族との連絡調整や、交易路の安全確保だそうです」

ガルドはしばらく黙っていた。

そして、低い声で言った。

「……俺たちは、そんな契約を結んでいない」

俺は頷いた。

「そうですか」

ガルドは続けた。

「道の維持については、お前たちと取り決めた」

「はい」

「通行料も決まっている」

「はい」

「軍隊を勝手に通さないという約束もある」

俺は頷いた。

「そのとおりです」

ガルドは静かに言った。

「……それなのに、別の商会が金を取るのか?」

俺は答えた。

「まだ、実際に支払われたわけではありません」

そして続けた。

「ですが、政府の買い取り価格に含まれています」

ガルドは深く息を吐いた。

「……妙な話だな」

俺はガルドに尋ねた。

「この交易路について、最近、何か変わったことはありませんか?」

ガルドは少し考えた。

「……そういえば」

俺は顔を上げた。

「何です?」

ガルドは答えた。

「数日前、知らない商人が来た」

「商人?」

「そうだ」

俺は尋ねた。

「何をしに?」

ガルドは答えた。

「交易路の安全について、話をしたいと言っていた」

俺は眉をひそめた。

「……どんな話です?」

ガルドは続けた。

「カルタゴ軍が近く大規模な移動をするかもしれない、と言っていた」

俺は息を呑んだ。

「……軍の移動?」

「そうだ」

ガルドは頷いた。

「だから、道の警備を強化する必要があると言っていた」

俺は深く息を吐いた。

「……ほう」

また、軍事行動の噂だ。

俺は尋ねた。

「その商人は、名前を名乗りましたか?」

ガルドは首を振った。

「覚えていない」

「所属商会は?」

ガルドは少し考えた。

そして答えた。

「……ローマ方面の商会だと言っていた」

俺は顔を上げた。

「ローマ方面?」

「そうだ」

ガルドは続けた。

「ただし、カルタゴの商人とも取引していると言っていた」

俺は静かに呟いた。

「……アウレリウス商会か?」

ガルドは首を傾げた。

「そんな名前だったかもしれん」

俺は頷いた。

「ありがとうございます」

その夜。

俺は宿で資料を整理していた。

メルカルが尋ねる。

「アドン様」

「何?」

「安全保障協力費って、結局何なんでしょう?」

俺は少し考えた。

そして答えた。

「本来なら、交易路を守るための費用なんだと思う」

「はい」

「でも、実際に誰が何をするのかが曖昧なんだ」

メルカルは頷いた。

俺は続けた。

「しかも、現地の部族は、その契約を知らない」

「そうですね」

「それなのに、政府の買い取り価格に上乗せされている」

メルカルは深く息を吐いた。

「……変ですね」

俺は頷いた。

「そうだね」

だが、俺はさらに気になることがあった。

アウレリウス商会の関係者が、現地の部族へ軍事行動の噂を伝えている。

そして、その商会は安全保障協力費を受け取る予定になっている。

つまり、危険があると説明する。

警備が必要だと言う。

そのための費用を請求する。

俺は静かに呟いた。

「……危険を知らせる側が、その危険への対策費を受け取るのか」

メルカルが顔を上げた。

「……どういうことです?」

俺は答えた。

「もし危険が本当にあるなら、必要な費用かもしれない」

「はい」

「でも、危険を大げさに伝えれば、必要な費用も大きく見せられる」

メルカルは黙った。

俺は続けた。

「そして、もし危険そのものを作り出していたら?」

メルカルの顔色が変わった。

「……まさか」

俺は静かに言った。

「まだ証拠はない」

そして続けた。

「でも、そこまで調べる必要がある」

翌朝。

俺はベルコとガルドに、正式な証言をお願いした。

安全保障協力費について、両者は契約を結んでいないこと。

既存の交易路契約が有効であること。

そして、最近、軍事行動の噂を伝える商人が訪れていたこと。

二人は了承した。

俺は記録をまとめた。

そして、カルタゴ本国へ送る書簡を作成した。

『現地の交易路管理者であるベルコおよびガルドに確認したところ、問題の安全保障協力費に関する契約は確認できなかった。

既存の交易路契約では、通行料と維持費が定められている。

したがって、新たな費用を政府が負担する場合には、具体的な役務内容と契約相手を明確にする必要がある。』

俺は封を閉じた。

「……これでよし」

メルカルが頷いた。

「はい」

だが、サグントゥムへ戻った俺たちを待っていたのは、さらに厄介な知らせだった。

ネロンが慌てて駆け込んできた。

「アドン殿!」

「どうしました?」

「カルタゴ政府が、軍需物資の買い取り案について、暫定承認を出したそうです!」

俺は顔を上げた。

「……何?」

ネロンは続けた。

「正式な買い取り契約はまだですが、一部の物資について、優先的な確保を認める決定が出たと」

俺は深く息を吐いた。

「……間に合わなかったか」

メルカルが尋ねた。

「どうするんですか?」

俺は答えた。

「まだ正式契約ではないなら、止められる可能性がある」

「……本当ですか?」

「うん」

俺は頷いた。

「でも、急がないといけない」

その日の夜。

俺は父から届いた追加の書簡を読んだ。

そこには、こう書かれていた。

『アドン。

政府の暫定承認により、バアルハンノ商会が保有する軍需物資の一部について、政府による優先買い取りの対象となった。

ただし、在庫数量と価格の最終確認は、まだ完了していない。

ハンノ殿は、確認が終わるまで支払いを行わないよう求めている。』

俺は少し安心した。

「……まだ金は動いていない」

だが、書簡は続いていた。

『なお、暫定承認の対象となった物資の中に、以前ヒスパニア方面軍から民間倉庫へ移された物資と、同じ荷札番号のものが含まれている可能性がある。』

俺は手を止めた。

「……何?」

続きを読んだ。

『もし同一物資であれば、すでに軍の予算で購入された物資を、政府が再び買い取ることになる。』

俺はしばらく動けなかった。

軍が購入した物資。

民間倉庫へ移された物資。

アウレリウス商会へ売却された疑いのある物資。

そして、政府が買い取ろうとしている物資。

俺は静かに呟いた。

「……同じ物資を、二度買う?」

メルカルが顔を上げた。

「どういうことです?」

俺は答えた。

「最初に軍が金を払って買った」

「はい」

「その物資が民間倉庫へ移された」

「はい」

「そして、今度は政府が、その物資を商会から買い取ろうとしている」

メルカルの顔色が変わった。

「……そんな」

俺は深く息を吐いた。

「もし本当なら、かなり悪質だ」

俺は机の上に資料を並べた。

軍の購入記録。

民間倉庫への移送記録。

商会の在庫表。

そして、政府の買い取り予定表。

まだ、すべての番号は揃っていない。

だが、確認すべきことは明確になった。

同じ荷札番号。

同じ数量。

同じ物資。

そして、所有権がいつ、誰に移ったのか。

俺は静かに言った。

「……次は、物資の所有者を調べる」

メルカルが尋ねた。

「所有者?」

「そう」

俺は頷いた。

「軍が買った物資なら、本来は軍のものだ」

「はい」

「それを民間商会が売るには、正式な手続きが必要になる」

メルカルは頷いた。

「ほう」

俺は続けた。

「その手続きがなければ、政府は自分の物資を買い戻そうとしていることになる」

メルカルは深く息を吐いた。

「……とんでもない話ですね」

俺は頷いた。

「そうだね」

そして、静かに続けた。

「しかも、その買い戻し価格には、ローマ方面の商会への安全保障協力費まで含まれている」

俺は書簡を閉じた。

戦争が起きる前に、国庫が空になる。

そんな未来まで見えてきた。

だが、このときの俺には、まだ知る由もなかった。

この軍需物資の買い取り案には、さらに大きな目的が隠されていたことを。

それは、単に金を儲けることではない。

ヒスパニア方面軍の補給を、ハミルカル将軍の手から完全に奪うことだった。

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