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転生したらカルタゴ人だったので、ハンニバルを勝たせてローマに勝利します  作者: レモンティー


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第三話 軍の食料を計算したら、将軍に呼ばれた

軍の補給担当者に渡した計算表。

それが思いがけない結果を生んだのは、二週間ほど後のことだった。

「アドン、客だぞ」

父に呼ばれて店へ出ると、見覚えのある軍人が立っていた。

以前、小麦と油の調達を依頼してきた男だ。

だが、今日は一人ではなかった。

隣には、立派な軍装を身につけた中年の男がいる。

「お前がアドンか?」

「はい」

「軍の補給を担当しているマゴンだ」

男は名乗ると、懐から一枚の紙を取り出した。

俺が作った補給計算表だった。

「これはお前が作ったのか?」

「はい」

「兵士の人数と日数を入れれば、必要な食料が分かるようになっているな」

「そうです」

「実際に使ってみた」

俺は少し緊張した。

「どうでしたか?」

「便利だった」

マゴンはそう言った。

「だが、一つ問題がある」

「何でしょう?」

「行軍する軍隊では、兵士の数が変わる」

戦死者。

負傷者。

病人。

脱走者。

さらに、途中で合流する部隊もある。

兵士の数が変われば、必要な食料も変わる。

「それなら、途中で人数を修正できるようにすればいいと思います」

「どうやって?」

「一日ごとの人数と残りの食料を記録するんです」

俺は紙を取り出した。

兵士の人数。

馬の頭数。

一日の消費量。

現在の食料。

残りの行軍日数。

それぞれを書き込む欄を作った。

「こうすれば、あと何日分の食料があるか分かります」

マゴンは紙を覗き込んだ。

「……ほう」

「それと、食料は予定どおり届くとは限りません」

「当然だ」

「だから、予備を持っておく必要があります」

「予備なら用意している」

「何日分ですか?」

「状況による」

「だったら、その日数も記録しておいた方がいいと思います」

マゴンは黙った。

俺は続けた。

「例えば、十日分の食料があっても、次の補給が届くまで八日かかるなら、余裕は二日しかありません」

「そうだな」

「でも、雨で道が使えなくなったら?」

「……困るな」

「敵に補給路を襲われたら?」

「もっと困る」

「だから、食料の量だけじゃなくて、次の補給が届くまでの日数も管理するんです」

マゴンは腕を組んだ。

しばらく考えた後、俺に尋ねた。

「アドン。

お前は軍隊にいたことがあるのか?」

「ありません」

「では、誰に教わった?」

「商売です」

「商売?」

「はい。

商品が売り切れたら困りますし、逆に仕入れすぎても困ります。

軍の食料も似ていると思ったんです」

マゴンは大きく笑った。

「軍隊を商会と同じように考えるか!」

俺は肩をすくめた。

「兵士も食べなければ戦えませんから」

「違いない」

マゴンは笑いを収めると、真剣な顔になった。

「アドン。

明日、軍営に来られるか?」

「軍営ですか?」

「ああ。

少し手伝ってもらいたいことがある」

俺は父を見た。

父は驚いた顔をしていたが、やがて頷いた。

「行ってこい」

こうして俺は、初めてカルタゴ軍の仕事に関わることになった。

翌朝。

俺はマゴンに案内され、カルタゴ郊外の軍営へ向かった。

そこには多くの兵士がいた。

槍を持つ歩兵。

盾を並べて訓練する部隊。

馬を世話する騎兵。

荷車を修理する職人。

そして大量の食料を保管する倉庫。

俺は周囲を見回した。

これがカルタゴ軍か。

カルタゴは商業国家だが、軍隊は商人だけで構成されているわけではない。

カルタゴ市民。

リビア人。

イベリア人。

ヌミディア人。

さまざまな地域の兵士たちが戦力を支えている。

そして彼らを動かすには、大量の物資が必要になる。

「こっちだ」

マゴンに連れられて、俺は大きな天幕へ入った。

中には数人の役人がいた。

机の上には帳簿が積まれている。

「この少年が例の計算表を作ったアドンだ」

マゴンが紹介した。

役人の一人が眉をひそめた。

「……子供ではありませんか」

「子供だが、使える」

「しかし、軍の補給は商売とは違います」

「だから呼んだ。

違いが分かればいい」

マゴンは俺に向き直った。

「アドン。

この帳簿を見てくれ」

俺は机に置かれた帳簿を開いた。

小麦。

大麦。

油。

干し肉。

飼料。

大量の数字が並んでいる。

だが、すぐに問題に気づいた。

「……これ、全部同じ倉庫にあるんですか?」

「いや。

三か所に分けている」

「どの倉庫に何があるか、書いていませんね」

「倉庫ごとに別の帳簿がある」

「では、この数字は?」

「三つの倉庫の合計だ」

俺は別の帳簿を見せてもらった。

そして、さらに気づいた。

「この小麦、もう出荷されていますよね?」

役人が答えた。

「ああ。

昨日、別の部隊へ送った」

「でも、合計には残っています」

「……何?」

俺は帳簿を指差した。

「ここです」

役人が慌てて別の帳簿を確認する。

「確かに……」

マゴンの表情が変わった。

「つまり、どういうことだ?」

「帳簿の数字より、実際の在庫が少ない可能性があります」

天幕の中が静かになった。

それから半日。

俺は役人たちと一緒に、三つの倉庫の記録を確認した。

入荷した数量。

出荷した数量。

現在の在庫。

さらに、傷んで使えなくなった食料も調べた。

すると、予想以上の差が見つかった。

帳簿では十分な食料があることになっている。

しかし、実際には一部がすでに別の部隊へ送られていた。

傷んだ小麦も、まだ在庫として数えられていた。

「……これでは、実際に何日分あるのか分からないな」

マゴンが呟いた。

俺は頷いた。

「はい」

「どうすればいい?」

「まず、帳簿を一つにまとめる必要があります」

「一つに?」

「倉庫ごとの帳簿は残します。

でも、全体の在庫を確認するための帳簿を別に作るんです」

俺は紙に表を書いた。

倉庫名。

品目。

入荷量。

出荷量。

使用可能な残量。

さらに、出荷先と出荷日も記録する。

「毎日全部を数える必要はありません。

入荷と出荷を記録して、定期的に実物と照合すればいいんです」

役人の一人が言った。

「しかし、記録する仕事が増えます」

「その代わり、荷物を探したり、数え直したりする仕事が減ります」

「……確かに」

「それに、食料が不足する前に分かるようになります」

マゴンは表を眺めた。

「やってみよう」

こうして軍営の倉庫管理が変更されることになった。

一か月後。

再び軍営を訪れた俺は、マゴンから報告を受けた。

「効果が出たぞ」

「本当ですか?」

「ああ。

以前は倉庫の残量を確認するだけで半日かかることもあったが、今は帳簿を見れば大体分かる」

「よかったです」

「それだけではない。

食料が不足しそうな部隊も、早めに分かるようになった」

マゴンは机の上に地図を広げた。

「そこで、次の仕事を頼みたい」

「何でしょう?」

「軍の移動に必要な補給計画を作ってほしい」

俺は地図を見た。

カルタゴから内陸へ伸びる道。

途中には町や集落が記されている。

「どれくらいの部隊ですか?」

「歩兵五千。

騎兵五百。

ほかに荷役の人員と動物がいる」

俺は少し考えた。

五千五百人。

小規模な部隊ではない。

「何日間の移動ですか?」

「十二日ほどを予定している」

「途中で食料を購入できますか?」

「町では可能だろう」

「その町に、本当に必要な量があるか確認していますか?」

マゴンは首を振った。

「そこまでは調べていない」

「だったら、先に調べた方がいいです」

「なぜだ?」

「軍隊が来たからといって、町に突然大量の食料が増えるわけではありません」

俺は地図を指差した。

「この町に住んでいる人たちも食料を必要としています。

軍が買い占めたら、住民が困ります」

マゴンは黙って聞いていた。

「それに、軍が来ると分かれば、商人が値段を上げるかもしれません」

「……ありそうだな」

「だから、事前に契約しておくんです」

「契約?」

「はい。

軍が何日に到着するのか。

小麦をどれだけ買うのか。

値段はいくらか。

先に決めておけば、商人も準備できます」

マゴンは顎に手を当てた。

「つまり、軍が移動する前に、食料を移動先へ集めておくのか」

「そうです」

俺は頷いた。

「軍隊が食料を全部運ぶ必要はありません。

安全な場所に先に送っておけば、荷車の負担も減ります」

「だが、敵に奪われる危険はある」

「だから、全部を一か所には置きません」

俺は地図に三つの印を付けた。

「ここ、ここ、それからここです」

マゴンが身を乗り出した。

「補給拠点か」

「はい。

途中で補給できる場所を作ります」

「ほう……」

「ただし、敵がいる地域では同じ方法は使えません。

護衛も必要ですし、補給路が切られた場合の予備も考えないといけません」

マゴンは俺の顔を見た。

「お前、本当に商人の息子なのか?」

「そうですけど」

「軍人より軍隊のことを考えているな」

俺は苦笑した。

「食料のことだけです」

だが、内心では別のことを考えていた。

ハンニバル。

彼はやがてアルプスを越え、イタリアへ侵攻する。

そしてローマ軍を何度も破る。

しかし、敵地で戦い続ける以上、補給の問題から逃れることはできない。

現地の協力者。

食料の調達。

補給路の確保。

兵士への報酬。

これらが戦争の継続を左右する。

俺が今学んでいることは、必ず役に立つはずだった。

軍の補給計画は、予定どおり実施された。

すべてが完璧だったわけではない。

途中で雨が降り、荷車が遅れた。

一つの町では、予定していた小麦が十分に集まらなかった。

だが、予備の食料と別の補給拠点があったため、部隊の移動は止まらなかった。

軍営に戻ったマゴンは、俺に言った。

「アドン。

今回の計画は成功だ」

「ありがとうございます」

「お前の考え方は役に立つ」

俺は頭を下げた。

「まだ改善できるところはあります」

「ほう?」

「実際の移動日数と、予定した日数を比較したいんです」

「なぜだ?」

「次の計画をもっと正確にするためです」

マゴンは笑った。

「お前は本当に数字が好きだな」

「数字は嘘をつきませんから」

「人間は嘘をつくがな」

「だから、実際に数えるんです」

マゴンは声を上げて笑った。

そのときだった。

天幕の入口から、一人の兵士が入ってきた。

「マゴン殿。

報告です」

「何だ?」

「ヒスパニア方面の軍関係者から、物資調達について問い合わせが来ています」

俺は思わず顔を上げた。

ヒスパニア。

その名前には、特別な意味があった。

マゴンは報告書を受け取った。

「向こうでも食料と輸送の問題があるらしいな」

「はい。

兵力の増加に伴い、調達量が増えているようです」

「そうか……」

マゴンはしばらく考えた後、俺を見た。

「アドン」

「はい」

「お前、ヒスパニアへ行く気はあるか?」

心臓が大きく跳ねた。

「……ヒスパニアですか?」

「ああ。

軍の補給体制を調べて、改善できるところがないか見てほしい」

俺は慎重に尋ねた。

「どなたの軍ですか?」

マゴンは答えた。

「バルカ家の軍だ」

その瞬間、俺は言葉を失った。

バルカ家。

ハミルカル・バルカ。

そして、その息子ハンニバル。

俺が近づこうとしていた相手だ。

「どうした?」

マゴンが不思議そうに尋ねた。

「いえ……」

俺は慌てて首を振った。

「ぜひ、行かせてください」

「そうか。

ならば父親とも相談しておけ。

正式に決まれば、商会を通じて仕事を頼むことになる」

「分かりました」

俺は深く頭を下げた。

その夜。

俺は父にヒスパニア行きの話をした。

父は驚いた。

「ヒスパニアだと?」

「うん」

「ずいぶん遠くまで行くことになるぞ」

「分かってる」

「しかも軍の仕事だ。

商売とは違う危険もある」

「それも分かってる」

父はしばらく黙っていた。

そして、ゆっくり口を開いた。

「アドン。

お前は何を目指している?」

俺は答えに迷った。

カルタゴを救う。

ローマに勝つ。

ハンニバルを勝利させる。

本当の目的は、それだった。

だが、今それを話しても信じてもらえないだろう。

だから、別の言葉を選んだ。

「カルタゴを、もっと強い国にしたい」

父は俺を見つめた。

「商売でか?」

「商売も含めて」

「……そうか」

父は小さく笑った。

「お前は昔から変わった子供だったが、まさか軍の仕事まで始めるとはな」

「反対?」

「いや」

父は首を振った。

「行ってこい」

俺は顔を上げた。

「いいの?」

「ああ。

ただし、無茶はするな」

「ありがとう、父さん」

父は俺の肩を叩いた。

「それと、忘れるな。

商人にとって一番大切なのは信用だ」

「うん」

「一度の大儲けより、十年続く信用の方が価値がある」

俺は頷いた。

その言葉は、俺の目的にも通じていた。

ハンニバルに一度会うだけでは意味がない。

何度も仕事を任される。

何度も結果を出す。

そして、重要な問題が起きたとき、真っ先に相談される人間になる。

そのためには、信用を積み重ねるしかない。

数日後。

ヒスパニアへ向かう商船の甲板に、俺は立っていた。

港には父がいる。

商会の従業員たちも見送りに来ていた。

船がゆっくりと岸を離れる。

カルタゴの町が少しずつ遠ざかっていく。

白い建物。

大きな港。

無数の商船。

俺が生まれ育った町。

前世の歴史では、やがて滅ぼされる都市。

だが、今は違う。

まだ何も決まっていない。

俺は西の海を見つめた。

ヒスパニアには、バルカ家の軍事的な拠点がある。

そして、そこで一人の少年が育っているはずだった。

ハンニバル・バルカ。

やがてローマを恐怖に陥れる男。

カンナエでローマ軍を包囲殲滅する天才。

そして、ザマで敗れる将軍。

俺はまだ、彼に会ったことがない。

向こうも俺の名前など知らない。

だが、それでいい。

まずは軍の補給を改善する。

バルカ家の信用を得る。

そして、少しずつ彼らの軍事計画に関わっていく。

未来を知っているだけでは、歴史は変えられない。

未来を変えられる立場にならなければならない。

俺は海風を受けながら、小さく呟いた。

「待ってろよ、ハンニバル」

いきなり戦争のやり方を教えるつもりはない。

まずは、腹いっぱい飯を食わせてやる。

戦争に勝つのは、その後だ。

こうして俺は、カルタゴを離れた。

目指すはヒスパニア。

後に第二次ポエニ戦争の出発点となる土地。

そして、俺がハンニバルの相談役になるための、最初の大きな一歩だった。

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